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「ダブルパンチ」に負けるな!がんばれ山口放送!
毎回、ラジオ(電波)の観点でみた意外な?日本各地を紹介していますが、また西に戻って、今回は山口県のラジオ事情について触れてみましょう。
ラジオ事情を語る上で、山口県は外せないのです・・・なぜでしょう?
実は今年(2024年)から、日本のラジオ界では非常に大きな出来事が始まりました。史上初めて民放AM局のAM送信を停止する「実証実験」が始まったのです。
ラジオ局が利用する地上波の種類は、大きく分けると2種類あってAM(中波)とFMです。
この2つは電波の特性が異なっており、ざっくり言うとAMは遠くまで届くものの波長が長い為送信アンテナが巨大化しやすい。
つまり送信施設に多大のコストがかかり、遠くの局が混信しやすくなってしまいます。
一方のFMは聴取エリアは狭くなりますが、送信施設は大幅に安くなります。そして電波の直進性が高まって、高い所に送信アンテナを設置すればカバー範囲を広く取れます。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000517855.pdf
総務省サイト「AMとFMの違い」
ラジオ局をめぐる経営環境は厳しさを増しており、民放AM各社は送信所のコスト軽減を主目的に、FM転換を総務省などに働きかけて来ました。
もちろん、FM電波には既存のいわゆる県域FM局等がオンエアしていますので、競合してしまいますからそう簡単にコトは進みません。
そんな中、2021年に全国の民放AM局のうち北海道のHBCラジオ(北海道放送)、とSTVラジオ(札幌テレビ放送)および秋田放送を除く44社が、最終的にFM移行を目指すと発表しました。
(ちなみにこの3社は聴取エリアが広いので、FMでのカバーが間に合わないと判断した模様)
とは言え、いきなりAM電波を止めたらリスナーが逃げてしまいますから、まずは実証実験という形をとって、44局のうち「手を挙げた」13局が第一弾となって、一部のAM送信を止めているのですね。
この中で、山口放送(KRYラジオ)は驚くべきことを実行したのです。
何と県内のAM送信を全部止めたのです。
(一つの県内を全部止めたのは、他に長崎放送の佐賀県内だけ)
なぜ、このような大きな決断に踏み切ったのでしょうか?
実はこれ、山口県の地理的な特徴も大きく影響しているのです!
大きく2つの理由がありますね
https://kry.co.jp/radio/fm/
1.県内に政令指定都市レベルの都市がない
山口県の人口は約140万人で、最も人口が多いのが一番西で北九州が目と鼻の先になる下関市ですが、それでも約26万人。
2番目が県庁都市でもある山口市(19万人)、以下宇部市、周南市(昔の徳山市などが合併)そして岩国市の順となります。
一方、東隣の広島県広島市は約120万人、西隣は福岡県北九州市ですが約92万人ですから、経済的に東部が広島で西部は北九州の範囲と言えそうな感じです。
この政令市がなく中小都市が分散している地理的な状況こそ、何を隠そうAM電波の上では厳しい条件となるのですね。
と言いますのは、東隣の広島県の中国放送や、西隣の福岡県のRKBラジオやKBCラジオのように、大出力局をデーンと据えるスタイルが取れず、小出力局をバラバラに置局するスタイルとなってしまう・・・
出力が小さいと同じ周波数に他局も「同居」し、混信を受けやすくなってしまうのです。
山口放送AM基幹局(765kHz)の場合、山梨県のYBSラジオ(山梨放送)と同居している状況でした。
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2.日本海側と瀬戸内海側の双方に面している
同県は本州では3県しかない日本海側、太平洋(瀬戸内海)側の双方に面した県(他は青森県と兵庫県)で、地図で見ると「コ」の字を反転したような形状にみえますね。
ちょっと話は横にそれますが、同県は北海道と離島を除くと最寄りの空港が4つもある唯一の県なのです・・・意外ですね。
すなわち、県内には岩国市に岩国空港(広島市内からも近い)宇部市に山口宇部空港の2つがありますが、下関からは北九州空港が至近となります。
そして、日本海側の萩市や阿武町(あぶちょう)からは、隣県となる島根県益田市の萩・石見(はぎいわみ)空港で、4つとも羽田空港までANAの定期便が就航しています。
話は戻って、双方の海岸線こそがクセモノでして?日本海側は大陸局の影響を受けやすく、瀬戸内側では逆に国内各局の影響を受けやすくなってしまうことに・・・。
また、前述の通り送信アンテナは広大な敷地が必要となります。
AM波は地表面をジワジワ伝わるため、電波の通りが悪い山間部の立地は適していません。
また、近隣が住宅地だとTVや電気機器に影響が出る可能性があります。
よって、海沿いや広い川の河川敷に置局されることが多いのですが、津波や高潮の被害を受けやすくなってしまいます。
実際、山口放送もAM基幹局は周南市の大津島にありますね。
ラジオは天災発生時の貴重な情報源となるインフラですから、送信所が被災して停波してしまったのでは大変です。
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いわば、日本海側と瀬戸内海側の「ダブルパンチ」状態だと言えそうですが、そこは早くから重い課題だと認識し、事前にFM送信網を整備したり、県内へのPR活動を強化したりして、下準備を念入りに進めてこられた背景もあるのでしょう。
いずれにしましても、AM送信を全部止めるという歴史的な出来事?に踏み切った山口放送。今後に注目したいと思います。
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