怪談999
こんにちはまいぼうです。
暑くて頭がおかしくなりそうですが皆さんはいかがお過ごしですか?
今回はそんな暑い日に読みたくなる少しひや〜っとする怪談をお届けしようと思います。
(そんなに怖くはないと思いますがそういう話が苦手な方はご注意ください)
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十数年前、私が食品会社に勤めていた時に得意先の飲食店の店長から聞いた話です。
店長は某地方都市の飲食店の店長5.6人が集まる〇〇区飲食店店長会というものに入っていました。
店長会なんてうたっていますが、実際にはヒマを持て余した若い店長達がチェーン店個人店関係なく、情報交換会と称してたまに集まってはお酒を飲んだりBBQをしたりするサークルのようなノリの集まりだったそうです。
ある時メンバーの1人の小林くんが県外の店舗に転勤する事が決まったので送別会をしようという事になりました。
慣れ親しんだ仲間が遠くに行ってしまい会うことも無くなると思うと名残惜しく、メンバーみんなで盛大に送ろうと、店長は繁華街の小洒落たジャズバーを予約しました。
準備も整っていよいよ当日、小林くんから連絡が。
なんでも具合が悪いから送別会には来られないとのこと。
まさか送られる本人が不在の送別会だなんて…とも思いつつお店も予約したし当日にキャンセルするわけにもいきません。
とりあえず皆で集まって会場のジャズバーに飲みに行こうということになりました。
ジャズバーでチビチビお酒を飲みながら
「小林くんあっちに行っちゃうってなるとなかなか会えなくなるな、こっちに来る機会もないだろうし」
「隣の県とはいえ車で行くとなると峠越えしないといけないから遠いしな」
「長いトンネルを抜ければ割とすぐそこなんだけどね」
などと話をしていると、女性ジャズシンガーのライブが始まりました。
そういえばこのお店、誕生日や送別会の時はその日の主役の名前を曲に乗せて歌ってくれるんだった。
小林くんが来ない事をお店に伝えるのを忘れていたことに店長はその時に気が付きました。
ピアノの伴奏に合わせて歌いながらゆっくりとシンガーがこちらに向かってきます。
ここは誰でもいいから小林くんの代役を立てなきゃ格好がつかない。
そうだ、ちょうど真ん中に座ってる伊藤くんでいいかということになりました。
シンガーに向けてこの人この人!と伊藤くんを指差して知らせると、シンガーが伊藤くんの目の前で別れを惜しむ歌を歌い始めました。
I’ll never forget you KOBAYASHI〜♪
シンガーが曲を歌い上げた頃合いを見計らって厨房からケーキが運ばれてきました。
チョコレートのプレートには
「小林くん いままでありがとう」
と書かれています。
ジャズシンガーに肩を抱かれてケーキを持った伊藤くんをセンターに記念写真を一枚。
伊藤くんはこの間奥さんとの間に子供が生まれたばかりで、数年前に出したお店は通の間では知らない人はいない繁盛店になって順風満帆。
写真越しにも人生の最高の時だと伝わってくるような満面の笑みを浮かべています。
バーのスタッフ総出で門出を祝ってもらい、完全に伊藤くんが送られる人というていで送別会が進みます。
本当は伊藤くんが送られるわけじゃないと知っているメンバーたちも悪ノリしてきて
「小林ィ!あっちに行っても頑張れよォ!
もう戻ってくんなよォ〜!」
なんて伊藤くんを囃し立てる始末。
突然代役で送られる人になった伊藤くんもニコニコと満更ではない様子です。
滞りなく送別会も進み、宴もたけなわのところで今日は解散。
メンバーそれぞれが夜の街に消えました。
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次の朝早く、店長はメンバーの1人からの電話で目を覚ましました。
伊藤くんが交通事故で亡くなったと。
昨日あんなに楽しそうだった伊藤くんが突然…?
警察の調べによると皆と別れた後、伊藤くんは1人で久しぶりに昔修行した店で〆の一杯をやりに来たとその店の大将が証言していて、店を出てしばらくしてから家まで歩いて帰る道中にお礼の電話をくれたそうです。
伊藤くんはお酒にも強いし大将から見ても酔っ払っている様子はなく、電話でも今日はありがとうございましたとハッキリした口ぶりだったという。
しかし彼はその日の午前1時頃に自宅兼店舗の数百メートル先の道路の真ん中で大の字に寝転び、数台の車は気が付いて避けたが気が付かなかった一台に轢かれて亡くなったのです。
伊藤くんの携帯の発信履歴には大将へのお礼の電話の他に奥さんへの発信の履歴が残されていました。
ですが不思議なことに、大将の携帯にも奥さんの携帯にも着信履歴は残っていなかったというのです。
ジャズバーで撮った集合写真が遺影になるだなんて伊藤くんも思わなかったはず…。
送られる予定のない人を無理に送ろうとすると連れていかれてしまうかもしれません。
峠を越えて長いトンネルの向こうにあるあっち側に。
★今日の一曲
Julie London「Goodbye」
第88回ジャズやるべ!JAZZ特集では管理人さんと先生がジャズへの思い入れについて熱く語っています。そちらの方もぜひチェックしてみてくださいね!