わたしが出会った妖怪
いつのことだったか、まだ、小学生になりたてだった頃だと思う。ということは、つまり、1990年代初頭だろう。
わたしは、父と母に連れられて、駅に向かって歩いていた。
改良された今と違って、茶色と紫色の中間のような、古い駅舎だった。しかも、2つの鉄道の改札口がが微妙な位置にあったから、その両方の乗り降りが交差して、常に人と人がぶつかるような状態だった。
わたしと両親が、何しに駅に向かっていたのかは分からない。ただ、歩き疲れていたことは確かだ。何かお菓子を食べたいなと思っていたのだが…。
駅前は、タクシーとバス乗り場になっていて、ちょうどそこを歩いていたとき。
サラリーマン風の男が、階段を急いで降りて、あくせくしながら歩いていた。
わたしは、その男の顔をマジマジと見てしまった。
顔が、異様にでかい。
普通の人の顔、5個分はあるだろうか? 薄茶色の顔色、目は真っ赤に充血し、目やにがたまっている。
その人は、何か取引先との商談に遅れそうになっているかのように、ひどく慌てた様子で、私たちの横を通り過ぎていった。
「何、あの人?」
思わず父に聞いていた。
「…」
父は、さして考えもせず
「サラリーマンさ。ずっと仕事ばかりで、ストレスであんなになってしまったんだ。かわいそうになぁ」
その時は、それで納得した。
そのサラリーマンのことは時々思い出したが、あの人は変わった姿の人間だとだけ思っていた。
だが、最近、吉田悠軌さんの実話怪談を聞いて、思うのだ。
あれは、普通じゃない。
何か異様なモノだったのだ。妖怪と呼ばれる何かだったのかもしれない。とにかく、ストレスであんなに顔が大きくなるはずがないのだ。
わたしは、そんなに不思議なものに出会ったことはない、つまらない人生だと思っていた。
でも、やっぱり子供の頃、そういう奴に会ってるんだね。
実話怪談を、聞いて、わたしの出会ったモノも、その中に加わるんじゃないかとおもって、ここに備忘的に書きました。
他にも不思議な話を聞いたりしているんで、ボチボチ書いていきます!