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ちなみからのんへ:2通目

「俺はちなみの短い髪の毛がすごく可愛いと思って、最初はそこに惹かれて好きになったんだ、だから、これからも俺のためにその髪の毛を切ってくれたら嬉しいな、と思う」

そう言っていた彼が、わたしと別れた数日後に付き合った彼女がさらさらの黒髪ロングヘアだったと知ったとき、これまでわたしが彼と過ごした2年間にも、その2年の間にずっと切り続けていた髪の毛も、もうきっと、なんの意味もないことに気づいて、ただただ涙が溢れて止まらなかった。

「大切な人を失ったことがあるのか」なんて、野暮な質問を彼女に送ってしまったなあ、と思う。彼女はとても優しいから、きっと、たくさんたくさん考えて、優しい言葉をわたしに届けてくれるんだろうな、とも。

彼女、というのは、1年前、一緒に金谷にあるコワーキングスペースまるもで過ごしたシェアメイト、のんちゃんだ。私たちはたった5日間の間に、色々な話をして、色々な秘密を共有して、だから、離れた土地にいても、なんだか彼女のことが気がかりで仕方なかったりするのだった。

「私たちはお互いを、半分こしてるみたいだね。」

わたしは勝手にそんな風に思っている。多彩で、才能豊かで、誰からも愛される天性の才能がある彼女も、心のどこかでは寂しさや、痛みや、こんなどうしようもない虚しさを抱えて、それでも、満員電車に揺られながらわたしと同じ、この都会のギラギラとした景色を眺めているのだろうか、と。

「ちなみちゃん、わたしね、まるもに行くことにしたの。」

嬉しいニュース、と冒頭に付け加えられてきたそのメッセージには、彼女の喜びと高まりが聞こえてきそうだった。

そっか、まるもかあ・・・

いいなあ、とため息をひとつ漏らす。彼女といた時のわたしは、まだ彼の好きなショートカットを必死に維持しようとしていたけれど、もう、その必要は無くなって、それでもロングにするのもなんだか気がひけるから、やっぱりわたしはしばらく、このままでいようかな、なんてことを考えている。

彼のことをちゃんと思い出にできるのはいつの日だろう。

またのんちゃんと笑いあいながら、暖かいあの空間で、みんなと一緒に過ごす日々はいつ来るのだろう。

煮え切らない決断は、いつだって先の未来を不自由にする。

わたしが彼と別れる時もそうだったじゃないか。

わかっていても、「やめます」の一言と共に辞表を出せない自分。

上司に渡せないまま、くしゃくしゃになった辞表は今も手帳に挟まったまま、誰の手にも渡らないでいる。

『のんちゃんがそう決めるなら、わたしもきっと決めなくちゃなのかもね』

声に出して、思う。

ああ、やっぱりわたしは、彼女の半分、でいたいのかもしれない。

「わたし、まるもに行こうと思う」

その一言に勇気をもらい、わたしは満員電車を飛び降りて、今日も笑顔で会社に向かう。

くしゃくしゃになってしまった辞表は、手帳から少し出して伸ばしておこう。

煮え切らない自分にも、ずっと切り続けたその髪の毛にも、きっとなんの意味もない。

なんの意味もないのなら、それなら、わたしは。

「のんちゃん、嬉しいニュースありがとう。わたしもね、きっと今日の夜、この開所を出る頃までには、のんちゃんに嬉しいニュースをお伝えできればいいな。また、まるもで二人で再会して、たくさんたくさん、あの日の続きを話せたのなら嬉しいです。」

のんちゃんへの最後の文章はそれにした。三通目が届く頃、わたしの環境もきっと大きく変わっている。そんな予感が、この時していた。


(あとがき)
このマガジンはこじらせ女子なエステシャン・ich(=ちなみ)と、副業フリーランス兼まるも店長の野里和花(=のんちゃん)が、1年前の自分に戻って自由にお互いと会話をする文通のような、エッセイのような、小説のような、そんなnoteです。
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あなたがくれたこのサポートで、今日もわたしはこのなんの意味もないかもしれないような文章を、のんびり、きままに書けるのだと思います。ありがとう。