【対称性】 #505
「君とはあれだな
並進対称性的に
交われない関係だな」
私は
そう言われて
しょうもない大学生の
しょうもない物理学を専攻している
しょうもない男に捨てられた
なんちゃら対称性とか
意味わからんし
ホンマやったら
こっちからフルつもりだったのに
先に言われたものだから
シャクだし
フラれた事によってかどーかは知らないけど
変に引きずってる感もあるのも
腹が立ってイライラする
ヤツと出会ったのはバイト先だった
ヤツはバイトの先輩で
出会った時は
それはそれは
親切で
ニコやかで
爽やかな男だった
バイトを始めて1ヶ月後にゴハンに誘われた
断る理由も無いし
彼氏もいなかったし
親切で
ニコやかで
爽やかだったので
誘われるがままゴハンに行った
そしたら次の休みにはユニバに誘われた
あんまりユニバには興味無いけど
親切で
ニコやかで
爽やかだったので
誘われるがままユニバに行った
そしてまた次の休みに
今度は映画のレイトショーに誘われた
アクション映画には興味無いけど
親切で
ニコやかで
爽やかだったので
誘われるがままレイトショーに行った
レイトショーの後
ゴハンを食べて
これまた誘われるがまま
カラオケBOXに行った
そこで
たいして上手くもない
尾崎豊の『アイラブユー』を聴かされ
歌い終わった後
キスされた
ビックリしたけど
親切で
ニコやかで
爽やかだったので
まぁ良いかなぁと思った
そしたらヤツは調子に乗って
服の上からではあったが
胸まで揉んできやがった
ハッとしたけど
キスしてたから
ドキドキしてたから
今から考えたらシャクだけど
気持ちよかった
が
その時インターフォンが鳴り
「お時間10分前ですけど
延長はどうされますか?」
があった
ヤツは延長はしませんと伝え
カラオケBOXを出た
もう帰ると思っていた
が
「これからどーする?」
「これから?
帰らないの?」
帰らなかったのだ
多分
どこかで期待していただろう
手を握られ
連れられるがまま
ラブホに吸い込まれて行った
その時の私には
断る理由も勇気も無かった
なにせ
親切で
ニコやかで
爽やかだったから
引っ張られるがままA201という部屋にチェックインした
こうして私たちは付き合う事になった
バイトも休みもいつも一緒
最初はあれ程
親切で
ニコやかで
爽やかだったヤツが
どんどん
不親切で
無愛想で
モヤシくんに変わり果ててしまっていた
バイト辞めたい
休みも辞めたい
というか
理屈っぽくて
話が長くて
人の話を聞かなくて
自慢しぃで
友達の悪口を言うヤツを辞めたい
頭の上に
土星だかなんだかの
でっかい星が乗っかかってる感じだ
次の休みの日
私はヤツとのセックスを拒んだ
『イヤ』だと
そしたら
なんとか対称性とか言って
フラれた
こんなバカバカしい事があるのか
その場で情け無くて悔しくて
涙が出てきた
それをヤツは
私が別れたくないと思って泣いていると勘違いしやがった
だから
更に泣けてきた
女の涙を見て
変に優しさを出してきた
手を握ろうとしてきたので
「触るなぁ〜」
それだけを大声で叫び
走って逃げた
明くる日のバイト
休もうかなとも思ったのだが
ヤツに負けたく無かったので出勤した
そこには
とても気持ちの悪いヤツがいた
ゴマをすってくる
おべんちゃらを言ってくる
次の休みに自分を食い込ませようとしてくる
だから
私は店長に
ヤツからセクハラとパワハラ を受けていると言って
店長からさりげなく
辞めるよううながしてもらった
あれ以来ヤツを見ていない
ただ時々
何か得体の知れない視線を感じる時がある
ほな!