【何億光年】#000



ロケットランチャーが飛んできた
ロケットランチャーのロケットではなく
ロケットランチャー自体が飛んできたわけだ
何をやっているのだ

だからこんなパーティーには参加したくなかったのだ
でもロケーションは良い
スゴく開放感のあるビルだ
一階はカフェとフリースペースになっているのだな
二階はヘアサロンと古本屋
そして三階は雑貨屋
開放感満載
なんだか分からないけれども
著名な方も沢山来ているようだ
人が流動的に出入りしている
誰かが誰かを紹介したり
されたり

そんな中
ふざけた誰かが
ロケットランチャー自身を投げてきた
面白くない上に
ビックリだ
僕は三階にいた
三階は今日はアンビエントルームとして使われている
まだ静かだし良いと思っていたのに

今日の主催者はこの三階の雑貨屋のオーナーだ
僕はこのオーナーに準備の手伝いを頼まれた
パーティーが始まったらもう遊んでていいらしい
だからここへ避難している
因みにそのオーナーというのが僕の昔の彼女だ
今や彼女は有名人の仲間入りを果たし人付き合いの範囲も半端ない
学生の子たちから年老いた会社役員まで
その間の層には色んな分野のスゴい人たちがいるようだ

そしてそんな連中に僕をどう説明したのかは知らないが
なんだかスゴい人だと勘違いしている人たちもいたりする

もう帰りたい
しかし後片付けも約束してしまった
段取りが分からないし
この街の事も分からないし
下手にウロウロして戻って来れなくなるのも嫌だし
何時に終わるのかも知らないし
それを聞こうにもさっきから主催者の姿が全く見えない
するとなんだか段取り的なのを僕に報告してくる若者たちもいる

僕は一応主催者サイドの人間という事でタキシードを着せられている
足元はコンバースだが

呼ばれて一階に下りた
顔だけは知っている会社役員が今日はアロハに短パンでお目見えだ
呼ばれた
飲み物おごるから
なんか頼めよと
しょうがないから赤ワインを頂いた
僕は飲み物はフリーだから
大丈夫なんだが

運営チームがザワザワしていた
そしてその内の一人がこっちへ来た
どうやら本当に主催者が消えたらしい
困りもんだ
で最悪の場合
最後の挨拶を僕にしてほしいと

なぜ?

知らないよそんなの

しかし
断るのも気の毒なくらいに焦っていたので
口下手な僕で良ければ
五秒で終わる挨拶はしましょう
ちゃんとしたのなら他を当たってくれ

すると彼はフッと胸を撫で下ろし
ありがとうございます
そう言ってカフェの中へと消えて行った
BGM的に流れるDJの選曲が心地よい

さぁ
三階に避難しよう
三階の一番隅っこに陣取って
ワインをやりながらタバコに火を付けた
煙りが一階の投光器からの光でモヤモヤと浮かび上がる
耳にはレゲエ
心地よいじゃないか
少しウトウトしていると
誰かが僕の膝をコンコンしてきた
目の前には幼稚園くらいの子供が
子供が言った

「ウンコがしたい」

トイレに連れて行ってくれと言うことだ
知ってるチビだったのでまぁ良いだろう
トイレに連れて行ったら
怖いからそこで待っててくれと
しょうがないから待ってやった
すると
とんでもないデカい音をさせて
爆弾のようなウンコし
恐ろしいくらいの悪臭で戻しそうになった
いったい僕は何をやっているのだろうか
トイレから出ると
若者が声をかけてきた
今日のメインイベントのカラオケ大会があって
主催者を無理矢理引っ張って行って歌わそうと思うのですが
彼女はどこですかと聞いてきた

「知らないよ
何処かに消えたみたいだ」

若者は諦めて下りていった
数分後カラオケ大会が始まった
よくこんな大勢の前で歌うねぇ
三階の冷蔵庫からジンジャーエールをかっぱらってきた
よく冷えているから
のどが痛くて気持ちいい
そしてまたタバコに火を付けた
フーッと勢いよく吹いてみたり
輪っかを作ってみたり
そしたら
さっきの若者がまたやって来た

「いないよ
ここには」

そうじゃなくて
僕を呼んできてほしいと
さっきのアロハ役員が
窓から下を見た
アロハ役員が笑いながら
こっちにおいでおいでしている
面倒クサイ
仕方なしに一階に
なんのようだろうと思っていたら
アロハ役員がマイクでいきなり僕を紹介しはいどうぞとマイクを渡された瞬間
山口百恵の「さよならの向こう側」が鳴り始めた
このオッサンなぜ僕がこの曲が好きなのを知っているのか
歌わざるを得なくなった

何億光年
輝く星にも
寿命があると
教えてくれたのは
あなたでした

そこまでで
急に歌えなくなった
マイクを持ったまま固まっている
僕の後ろのスピーカーからは
さよならの向こう側がどんどん
向こう側へ行こうとしている
曲は止まらない
止めるものもいない
長い長い時間が過ぎた
そして歌が終わった
なぜかスゴい拍手をもらった
そしたらアロハ役員が
「やっぱり
君は凄いなぁ
あんな演出
俺にはできねぇよ
だいたい何が良いって
最初のあそこがいいんだよ
何億光年〜あなたでした
あれしか歌わなかったろ
皆んななずっとたあの歌詞がグルグルしてたんだよ曲の間ずっと
凄く素敵なんだよあの歌詞は
やるなぁ」

褒められた

結局
僕が満場一致で優勝した
なんだかおかしい

そして
相変わらず
主催者が消えたままだ

ほな!

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