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【偽善者の輪】 #797



テレビではネット特にSNS頼りなニュースが多くなっていた

謝罪を許さない
「謝り方が気に食わない」
「謝って済むもんじゃ無い」
「謝るくらいだったら最初からするな」
などなど大衆というのは恐ろしい

でも日本人は昔からそんな生き物だ

江戸時代に大阪の中心地に千日寺というお寺があった
こちらのお寺はお寺と言っても刑場
いわゆる時代劇なんかで見る処刑場
悪い事をしたヤツ
冤罪のヤツ
色んなヤツが処刑された

これを見るために人々は集まった

人が人前で処刑されるのが気持ち良いからだ
人たちが集まるものだからそこかしこに出店なんかも出来て相当賑わったそうだ
この千日寺の前にある通りが千日前通となった
市中引き回しされた罪人が連れられて入る門があったそうで
そこを黒い門
黒門と呼ばれ今では黒門市場が名を残して存在する
今でも江戸時代に作られた処刑場横の墓地は小さくなったもののまだ残っている
サウナの露天風呂に入るとそのお墓がよく見える

そんな訳で日本人は集団で攻撃するのが好きなんだ

誰かが「アイツはこうこうこうだからダメなんだ」って聞くとそれが本当か嘘かなんて確かめたりなんかしない
スッカリ信じ込んで酷い時には尾ひれが付いて更に噂として広がる


此処にも一人のそんな罪人が居た
安兵衛という男だ
天満さんの側で提灯を作る職人をしていた
彼の腕は確かで大坂にある藩邸前の提灯の殆どが彼の作ったものだ

もしこれが現代ならば中小企業の町工場だとしても上のクラスに入ると思う
しかし時代が時代であるからにして
それだけの仕事をしても名誉は頂けても大したお金にはならなかった
息子である安吉にはもっと楽な生き方をして欲しいと思い
なけなしのお金で商人の子と混ざり塾に入り勉強をしていた

この安吉は安兵衛の期待もあって
一所懸命に勉強し塾生でもトップクラスだった
先生は可愛がってくれたが
かえってそれが商人の子たちには気に食わない種とたった
安吉は同じ職人の息子である留吉だけが友であった
この留吉は落ちこぼれだがお調子者であったので誰からも好かれた
ただ好かれたと言っても下に見られていた
単なる道化者としてしか見られていない
ほれは留吉も分かってはいるが彼の選んだ生き抜く方法なのだろう
商人の子に使いっ走りもよくさせられている
安吉は命令された事は無いが
その代わり無視されている

ある日
商人の子たちのリーダー格である源兵衛の筆箱が無くなっていた
漆塗りの大変高価な代物であった
塾内では騒動となり犯人探しが始まった
でもこれは源兵衛の仕組んだ遊びで
手下に留吉の風呂敷に隠し入れた

塾長に相談し先生の方から調べてもらった
すると予定通りに留吉の風呂敷から源兵衛の筆箱が見つかった
留吉は留吉に問うた

「なぜこのような事をした」

「やってません」

それはそうだ
やっていないのだから
この問答が続いた後
先生は公にするかしないかを考え
子供であるから公にするのはやめにし
その代わりに罰を与えた

その日からずっと一人だけ一番後ろの隅で机も与えられず勉強し一番の成績を上げるまで許されない

留吉は落胆した

お調子者だった留吉は実はとても繊細な子で
その日の帰りに川に飛び込んだ
翌朝川に浮かぶ留吉の亡骸が発見された

安吉は真犯人は誰であるか見当はついていた
絶対に源兵衛本人が仕組んだのだろう

帰り道
安吉は源兵衛たちが帰りの後をつけた
源兵衛が一人になった時にとっ捕まえて真実を聞き出そうと考えていた

角を曲がった所で友達と別れた源兵衛が一人で歩いている
これはチャンスだ

安吉は源兵衛に走り寄り

「おい源兵衛
ちょっと待て話がある」

体格は安吉の方が随分と大きい

「な なんだよ」

「留吉の事だよ
あれお前が仕組んだんだろ」

「そんな事するかよ
無くなったのは僕の筆箱だよ
何を言うんだ」

「痛い目にあわないと
分からないのか」

こう言うと安吉は源兵衛を羽交い締めした

「痛ててててっ
やめてくれよ
分かったよ話すよ
やったのは僕だよ」

「やっぱりお前か
許せん
着いてこい」

完全に血が上った安吉はグイグイと源兵衛を連れて行き
留吉が身投げをしたであろう人気の無い橋まで連れて来た

「さぁお前も留吉の気持ちを分かりやがれ
さぁここから飛び込め」

「嫌だよ
そんなの出来ないよ」

「それだったらおいらが手伝ってやる」


そう言うなり源兵衛を川に放り込んでしまった
ちょうどそのタイミングで安兵衛が通りかかった

「オメェなにしてんだ
早く助けないと」

そうこうしてるとまた別の人も現れた
そこでマズいと思った安兵衛は安吉を急いで追い払い
自分は川に入ろうとしたが間に合わず沈んでしまった

沢山の人が集まり捜索して一時半程して源兵衛の遺体が上がった

奉行所の者も到着したら
最初に現れた人物がこう言っていた

「お侍様
オラァ見たんだよ
この人が子供を此処から川に突き落としたのを」

安兵衛はそのまま奉行所へと連れて行かれた

この事件には噂に尾ひれがつき
筆箱を子供が盗んだ上に
それをバラされたく無かった安兵衛が
安吉の為に源兵衛を呼び出し
川へと突き落とした

という風になっていた

更にあの安兵衛は普段から意地汚い男で金にうるさい
だから子供も盗みなんか働く
子供も同罪だ

皆が興奮している
真実を知らぬ者が


安兵衛と安吉は二人とも市中を引き回され
黒門より千日寺へと連れて行かれ

丸太に括り付けられた
垣根の外で見物する者たちによく見えるように
出来るだけ高い位置に括り付けた

二人の足元には薪がくべられ
その上に藁を敷き準備した

奉行所の者が現れ
二人の罪状を話

「これより刑に処す」

と言うとどよめきが起こり
歓喜する者も居た

「やっぱり最後は正義が勝つんや」

足元に火が付けられた
火はあっという間に大きくなり
二人はもがき苦しんだ所で
長槍を持った者が現れ
一人ずつ胸に向かって
グイッと刃を差し込んだ

二人は首を垂れ
炎に全身が包まれた


今現在よく聞くところのSNSなどでの大炎上というのも
同じような心理であろう
日本人は残酷なんだよ
噂が真実より強い事が多々存在する





ほな!

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