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【死ぬガキ隊】 #616


僕は情報雑誌のライターをしている
今 調べている事がある
丁度今から30年前くらいの話


平成が始まった頃
まだスマートフォンは無い
携帯電話というモノはあったが
金持ちの巨大なオモチャしか存在しない

この頃は
伝言ダイヤルだったり
ポケットベルだったりが流行していた

当時 僕はまだ子供だったので
そういったモノや文化があった事は知らない

これは女の子達の間で流行りだした流行だった
これを流行と言って良いのか分からないが
とにかく
一部の女子中高生の間で爆発的に広まり
問題となった

それは集団自殺(自死)
その方法は色々で
手を繋いでホームから飛び降りるモノ
手を繋いで首吊りするモノ
手を繋いで睡眠薬を過剰摂取するモノ
などなど他にも色々な方法で命を絶つ

共通するのは「手を繋いで」それが結構される事であった

この現象は全国各地で多発し
一時期社会問題にもなった

何とか命を落とさなかった女の子もおり
当時の新聞などで記事を読んでみると

女の子は皆知らないモノ同士で
死にたいという共通のワードの元に集まったグループで自殺をする
彼女たちのムーブメントでは
『可愛く死ぬ』というのがキーになっている

今みたいにインターネットも無いからSNSも無い
そんな時代にポケットベルと伝言ダイヤルのみで
情報が一気に拡散した
信じられない

だいたい『可愛く死ぬ』ってなんだ
死ぬというワードと可愛くというワードは物凄く遠い

僕は何とかして
生き残った人に取材できないか
探している

もう30年以上前の話だし
女性の場合
結婚して苗字が変わってたりする場合があるから
更に大変だった


ジャンボ宝くじ当選したくらいの確率で見つかった
奇跡に近い
取材の依頼をした
当然謝礼もお支払いするし
名前もお住まいも一切公表しないを条件に話を聞く事ができた


「はじめまして週刊ヒドイデイの
ライターをさせてもらっている
田中と申します
よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「ありがとうございます
仮名でA美さんとさせて頂きます
ではA美さん
事件があった頃はお幾つでしたでしょうか」

「私はあの時は高校一年でしたね」

「そうなんですね
すると高校生で既にポケットベルを持っていらっしゃった」

「いえ私は持っていません
ただぁ友達から伝言ダイヤルの事は教えてもらってて
そこで情報は集めていましたね」

「なるほどぉ
その伝言ダイヤルを始めたキッカケは
やっぱり自死をしたい
そういう願望があったからなのですか」

「いえっ
私は自死しようなんて思ってませんでした」

「えっそーなんですか
では何キッカケなんですか」

「えっと
私はその当時
尾崎豊さんが好きで
その情報の交換の場として
伝言ダイヤルを使っていましたね」

「へぇー
そうなんですね
女子中高生が伝言ダイヤルを使う
というのは決して自死の情報交換の場
としてだけでは無かったって事だったんですね

じゃあ
どうしてそんなA美さんが
自死へと向かっていったのですか」

「そおですねェ
私イジメ受けてたんですよ
それでなのかよく分からないですが
尾崎豊さんの曲と出会い
全てのアルバムを買って
家でずっと聴いてました

である時
伝言ダイヤルに同じ尾崎ファンで
イジメられっ子に出会い
あの集団自殺の事を知ったんです

最初は興味本位で
そこに入れられた伝言を聞く
それだけだったんですが
どんどんのめり込み
自分は独りだと思ってたんですが
日本中にこんな沢山
同じような境遇の人が居た事に
驚きと共感を得ました」

「なるほど
かなり興味深いお話ですね
でも
その段階ではまだ死のうとは
決心されていないですよね?」

「そうですね
薄っすらとはあったかもしれませんが
その時はまだ自ら命を絶つという考えは無かったですねぇ

多分わかんないんですが
東京とか都会の人だったら
沢山居るし集まりやすいし
もし自分がそこに居たら
もっと早く決断していたのかもしれないですね

私は…えっと具体的に県名は出しませんが
日本の北の方の人間で
人口が少ないんですよ
いわゆる動物の方が多い
という田舎に住んでましたので
なかなか
そーいったスピード感は無かったですね

ただニュースとか新聞で
沢山見だすと
中には私の地元より
イメージだけどもっと田舎の子も
してたりして
なんだか焦り出しました
何故か分かりませんが」

「なるほど
では伝言ダイヤルは使っていたけど
実際自分は傍聴者の1人に過ぎず
自死という選択肢は無かった
しかし
A美さんよりもっと田舎の人も
出てき出したので
急に焦ってきた
という事ですね

どうして焦りの気持ちが出たのでしょうか」

「多分ね
記憶が曖昧だから
あくまでも多分ですが

ファッションとかメイクとかの
流行と一緒の感覚だったんだと思います
乗り遅れちゃダメだ
ってね
そんな感じだったんだと思います

そしたら
丁度そのタイミングで
私たちの地域の子たちで
やるみたいで
私も参加したんですよ

何人だったかなぁ
多分8人くらいだったと思う」

「それでどうなったんですか」

「で 集まって
一緒に死のうって事になったんですね
『手を繋いで』ね
私たちは飛び降り事にしたんですね
場所は言えませんが
有名な観光地でもあり
実際自殺も多い所です

結局
そこに当日現れたのは
私を入れて6人だったかな
来なかった人も居た

私たちの自殺も
地元紙はもとより
全国紙
ニュースでも取り上げられました

普通だったら
私もマスコミにさらされる筈
でもそこは未成年という事もあり
表には出る事はありませんでした」

「なるほど
急転回でしたねぇ

現場で生き残ったのは
A美さんのみですか?」

「いえ
実はもう1人居たんです

私ともう1人の女の子は
同じ県だったので
地元のターミナル駅で待ち合わせをして
一緒にあそこへ向かったんです

私たち2人はお金も少なかったので
本当はもっと手前の大きな駅で降りて
タクシー拾えば良かったのでしょうが
現場から1番近い駅に降りたんです

駅に降りてみたら
もうバスは終わってて
駅前にタクシーも停まってませんでした

どうしようと思って
公衆電話から
伝言ダイヤルに伝言残したんですけど
聞いてもらえるかも分からず

仕方なしに私たち2人は
歩いて行く事にしたんです

歩いていたら
私たちの横をパトカーがサイレン鳴らしながら通過し

その後
多分誰かが通報したのでしょう
もう一台パトカーが来て
私たちの前で止まり
私たちは保護されました

それで自殺ゴッコは終わりました」

「そうなのですね
その後はどうなりました?
生活とか伝言ダイヤルとか」

「その後ですかぁ
両親と警察
両親と学校で話し合いの場が持たれ
私は自主退学という形で
学校を辞めて
通信制の高校に入り直しました

伝言ダイヤルについては
もうあの時でやめてしまいました

冷静になったら
自分でも馬鹿げた事をしようとしてたんだなと思いました

あれから自殺願望もありませんしね」

「ありがとうございます
じゃあ
あの時一緒に行った女の子とも
もう連絡は取って無いって感じですか?」

「そうですね
一切連絡はしていないですし
元々知らない子だったから」

「なるほど
分かりました
ありがとうございました
とても参考になるお話聞けて良かったです

こちら少ないですが
取材に協力してもらった
謝礼になりますので」

「ありがとうございます」

こうして取材は終わった
やはりこういった
マイノリティな集団意識ほど
冷静さが無くなり
のめり込みやすく
うっかりハマってしまうと
常識とはかけ離れた思考にマインドコントロールされてしまうのだろう

最初
この記事の題名は
『死ぬガキ隊』だったが
話を聞いてみて
この題名からは遠く
自分の中で却下した

まぁ
僕が今回依頼を受けて
取材をした雑誌的行くと
その題名でも良かったのかもしれない

ただ
簡単に集団で自死をしてしまったとしても
こちら側の人間は
ふざけてはいけない

題名は
『平成の大事件 集団自殺をした女子中高生たちはなぜ手を繋いでだのか』

インパクトには欠けるが
こう訂正した





ほな!

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