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【寂れた街の隅っこの】 #799



いつも僕がアルバイトをする街の小さなスーパーにやって来るおじいちゃん

最近はマスクをせずに来店する事が多くパートのおばちゃんによく怒られていた

今日もマスク無しで洗われたのだが真っ先にマスクを手にしてレジに現れた
レジを済ますと僕の目の前で袋から取り出しマスクを付けた
ヒマだったから良いけどレジ前でそれはやらないでね

おじいちゃんは寂しがりやなのか
此処へくるとそれはもうパートのおばちゃんや僕やそこら辺に居てるお客さんにまで話しかける
中には迷惑がってる人も居るがお構い無しに喋り続ける

悪いがおじいちゃんはあまり清潔感が無い
それなのに小さい子が好きなようで
見つけたら触りまくる

ただでさえそのビジュアルだし今はソーシャルディスタンスを推奨している時なのにやりたい放題

まだお客さんからのクレームは出てないけどその内きっとあると思う

このおじいちゃん
ほぼ毎日現れる
午前中に一回と夕方に一回
夕方は割合すぐに帰ってくれる
夕方のお目当ては半額弁当
だから購入するとそそくさと帰っていく
長いのは午前中だ
買い物をする時もあるがだいたいはあっちで喋りこっちで喋りして満足したら帰るといった具合だ

ホント悪い人じゃないんだけど
こうも毎日のように来ては話しかける
というのはやや迷惑だ

あの日以来マスクは着けるようになったのは良かった
まぁあのままノーマスクだったら今頃出入り禁止になっていたに違いないと思う


「なぁなぁニィちゃん今日も暑いな
なんぼちべたいもん飲んでもアカンわ」


「そうですねぇ」


「せやろっ
せやからなホレッ見てみぃ」


そう言って首に巻いたタオルから保冷剤を見せた


「ええアイデアやろ」


「そうですねぇ」


「これな昼の番組でやっとったんや
こらええって思てな
真似したったんや
これやったらタダやしな
上出来上出来」


「そうですねぇ」


僕はできるだけ話を広げないように努力する
すると飽きたのか他の常連客を見つけてそちらの方にフラフラと歩み
さっきと同じ話をしていた

パートのおばちゃんに教えてもらったのだけど
あのおじいちゃん近くの文化住宅に1人で住んでるらしい
その文化住宅も入居者が殆どおらず
恐らく来年辺りには取り壊すそうだ
もしホントにそうなったらあのおじいちゃんどうするんやろか?

おじいちゃん諸共一緒に取り壊す訳にもいかんやろし



夏も過ぎ秋になりやや涼しくなった頃おじいちゃんはクルマのひき逃げに合い大腿骨を骨折し救急搬送された

実年齢は知らないけど
恐らく80歳は超えてると思う
よくある話だが家の敷居でつまずいて転んで骨折し入院したらそのままボケてしまってその後誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)なんかで亡くなるケースを時々聞く

おじいちゃん大丈夫なんかなぁ

おじいちゃんが来なくなって最初は変な感じだったが
仕舞いに皆んなおじいちゃんの事は忘れてしまい
おじいちゃんが居なくても普通の日常が繰り返された


冬が過ぎ春になった頃
おじいちゃんが住んでいた文化住宅が取り壊された

久しぶりにおじいちゃんの事が話題になったけど
生きてるのか死んでるのか誰も知らなかった
文化住宅の側に住む人ですら知らないと言っていた

ホントに文化住宅と一緒に取り壊されてしまったのかもしれない


また夏が来た
もちろんおじいちゃんは来ない

いつものように外に出れば蝉がうるさく鳴いている
よくよく考えたらこの蝉は去年の蝉では無く
いつかの蝉の子供
同じようで同じでは無い


そして今また
あのおじいちゃんとは別に新しい今度はおばあちゃんが出現した

行動パターンはよく似ているが大きく違うのが毎日来る割にはいつも不機嫌そうにしているという事だった
マスクはちゃんと着けている
お金を支払う時にいつも小銭をトレーに投げる
不機嫌そうな顔をして
お金が嫌いなのか?
レシートはいるのかいらないのか何も言わずに無視して帰る

そんなに嫌なら来なきゃ良いのにとさえ思うが
午前中に一回
夕方に一回は必ず来る






ほな!


※こちらのHPは本文とは一切関係ございません。

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