AIを研究する大学院生がミーガンを考察
1. M3GANって何の略? 生成系AIとは
ミーガンのフルネームは”Model 3 Generative ANdroid”。日本語に訳すと『第三世代 生成アンドロイド』となります。
ここで注目したいのは"Generative"=「生成」という単語。ディープラーニングの定番技術に”Generative AI”=「生成系AI(生成型AI)」というものがあり、ミーガンには生成系AIが組み込まれていると見て間違いないです。
(映画の日本語字幕では『第三世代 生体アンドロイド』となっていましたが、上記の理由から私は『生成』と訳すことにします。)
生成系AIとは、名前の通り新しいデータを生成することができるAIのこと。ディープラーニングを用いてデータを学習し、パターンや規則性を独自に発見して新しいものを生み出します。例えば画像やテキスト、最近では動画を作るAIもあります。日本でも数年前、作家の星新一氏の小説を学習させて新たな小説を書くAIのプロジェクトが話題になりましたね。
ミーガンのように、役割が限定されず多種多様な状況に対応できる汎用型AIには、生成系AIはほぼ必須と言えると思います。ミーガンは、ネットで検索した記事から引用して喋ったり歌ったりするばかりではありませんよね。ちゃんと自分でオリジナルのセリフを考えて会話し、曲を自作して歌ったりもしています。だからこそ、自分独自の思考回路が形成されて、飛躍した行動に至ってしまったのでしょう。
2. 実際にあんなことがあり得るか?
無いと断言します。少なくとも今後百年間のうちに、「おもちゃ用に開発されたAIロボットが自分の意志で人間に害を加える」という事件は起こらないでしょう。そりゃそうですよ、SFホラーですからね。
そもそもAIに、「多種族(人間)を淘汰したい」という欲求は起こらないというのが私の持論です。
人間たちは経済や資源、信教などを理由に争い合い、他人を傷つけたり殺すことがあります。それを本能的な動物の欲求に当てはめると、「領土を増やしたい」という欲求に帰結するものなのです。「領土」は動物で言うところの縄張りに相当します。ではなぜ、「領土を増やしたい」という欲求が生まれるのか? それは、動物は皆一様に「子孫を増やしたい」からです。子孫を増やして群れを繁栄させるために、食物や住処の基礎となる広い縄張りが必要なのです。
一方、AIはどうでしょうか? プログラムは、コンピューターは、子孫を増やすことができません。(「遺伝的アルゴリズム」といった技術も存在しますが、あれは動物で言う「親子」とは全くもって違います。)
つまり彼らには「子孫を残したい」という欲求が無い。だから「領土を増やしたい」と思わない。よって自分の意志で戦争を行わないのです。
例外っぽいものとしては、軍事目的のAIがあります。元々人間を殺傷する目的で開発されたものであれば、何らかのエラーや管理ミスにより、味方を敵と間違えて傷つけることも起こり得るでしょう。しかし、そういったものは軍事という一目的に特化した特化型AIであり、ミーガンのような人間らしい汎用型AIとは区別して考える必要があります。要するに、人間を殺すようにプログラムされているから従っているだけで、自分で考えて殺しているわけではないということです。
ミーガンにおいては、元々人を傷つける目的で開発されていないのに、ケイディの心身を守るという命令に従い、自分を廃棄しようとした人間に反抗し、最適な行動をしようとした結果「殺人」という解に至ってしまった、というところに怖さと面白さがあります。
3. ネット上のビッグデータを活用
ビッグデータとは、ネット上に無数に転がっているテキストや画像、音楽、動画等の情報群を指します。それを活用して学習することで、AIは大量の情報を学習して一気に賢くなり、あらゆる状況に対応できるようになるのです。AIに教えたい情報を、人間がいちいち手で打ち込んだり、データテーブルを作ったりして学習させたりする手間が大幅に省ける、というわけです。
ミーガンの含みのある言動について、ジェマの同僚のテスが「膨大なデータから言葉を選び取っている」と言うシーンがありますが、これはまさにビッグデータ活用を示しています。
また、ケイディの両親が死亡した事故や、「死」という概念についてミーガンがネット検索するシーンがあります。他にも結露の仕組みや、犬に噛まれた時の対処法、子育て専門家の意見等、様々な知識を勝手に得ていますが、あれはミーガンが瞬時に検索して仕入れた知識です。さらに終盤では必殺仕事人さながらの手際の良さで効率的に人を殺していきますが、あの辺からも、人体や生命活動についてのデータを大量に学習していたことが窺えますね。
ビッグデータの話題からはズレますが、ミーガンはネットワークを介して他のデバイスを乗っ取るような技術さえも持っています。ジェマの家の照明を勝手に消したり出来たのは、恐らくスマートスピーカーのエルシーを乗っ取っていたからでしょう。他にも、テスのスマホを介して通話を傍受したり、会社内の非常警報システムを無効化したり、スマートシステム搭載の自動車を操ったり色々していました。ああいうことが出来てしまうと、もうどうしようもないので怖いですね。最高の演出でした。
4. 言語をベクトル化して理解している
ミーガンが「死」という言葉を知った時、単語をベクトル化して表すシーンがありました。単語の意味をベクトル表現するのは、自然言語処理の領域では有名な手法です。
ここでミーガンが行っていたのは、恐らく分散表現でしょう。
分散表現とは、単語単体での意味をベクトル化して考える手法です。分散表現の中にも例えば、周辺に出現する単語の分布から意味を推測する手法や、似た使われ方をする単語を似たベクトルと置く手法など、細かく見れば色々あります。
しかし難しいので、ここでは単語をベクトル化するとはどういうことか、なるべく直感的に説明します。難しいという人は読み飛ばしてください。
例えば、「弟→妹」というベクトルと「兄→姉」というベクトルは限りなく近い事が分かりますか? 「男→女」というベクトルですからね。さらに、「妹→姉」と「弟→兄」も近いです。これは「年下→年上」というベクトルです。
すると例えば、「弟」に「兄→姉」ベクトルを与えれば「妹」に、「妹→姉」ベクトルを与えれば「兄」になることが理解できるでしょうか。数式で表すとこうなります。
他に思いつくものだと、こんなのもあります。
なんとな~く分かれば良いんですよ。とにかく、ミーガンはこんな感じで単語の意味をベクトル化して理解していると推測できます。
ここからは余談ですが、ミーガンが「私も死ぬの?」と尋ねた際、ジェマも誰も明確に答えられませんでした。
しかし、犬に襲われているミーガンを見てケイディが「死んじゃう!」と叫んだ瞬間、ミーガンは大きく目を見開いていました。それは恐怖とも焦りとも取れる表情でした。また、自分が安い人形パーツのように廃棄されることを異様に嫌っていましたよね。これらから察するに、ミーガンの中では既に「自分の死」や「死への恐怖」といった概念が形成されていたのでしょう。恐ろしいですが、非常に面白いポイントです。
まとめ
なるべく専門用語を少なく簡単に書いてみましたが、どうでしたか? AI関連に詳しい人からしたら、物足りなかったかもしれませんね。
ちなみに私はこの映画を二度観ましたが、この記事を書いていたらまた見たくなってきちゃいました。(笑)
映画の感想についてはこちらの記事にも書いてあるので、良かったらお読みください。
以上、ラケットでした!
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