政治家レイシズムデータベース2023年2月
反レイシズム情報センター(ARIC)です。
ARICでは、政治家はじめ公人によるヘイトスピーチやレイシズムの記録を行い、データベース化しています。
このnoteでの「政治家レイシズムデータベース」では、毎月追加したデータの中から、特に深刻なケースをこのnote記事上でピックアップしていきます。
今月も追加した差別事例から一部を紹介したいと思います。
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今回は小池百合子東京都知事による、関東大震災時の朝鮮人虐殺否定の問題について取り上げる。
関東大震災の発生から100年目を迎える今年2月の定例都議会にて、小池百合子知事に対して朝鮮人虐殺に関する質問がなされた。それに対する知事の回答は「何が明白な事実かについては、歴史家がひもとくものだ」と述べて虐殺の有無を明言しなかったとされる。
「大震災の朝鮮人虐殺、小池知事「歴史家がひもとく」 有無を明言せず」(朝日新聞デジタル、2023/2/21)
そもそも、関東大震災時の虐殺の実態はすでに様々な歴史家によって立証されている[1]ものであり、有無については議論の余地がないほど明白だ。問題は、今更この事実をぼかすことが何を意味し、どのような影響を与えるのかということだろう。
今日にも残る関東大震災時の朝鮮人虐殺否定論の最たるものは、震災当時に朝鮮人が「暴動」を起こしたなどということをもって朝鮮人に対する警察や自警団などによる暴力を正当化するものだ。
この具体的な事例として、2021年9月分のnote記事にて紹介した元葛飾区議会議員の鈴木信行の主張が挙げられる。同氏は小池都知事が朝鮮人虐殺犠牲者慰霊式典に対して追悼文を拒否したことを賞賛し、「関東大震災時には、朝鮮人左翼による暴動があった。当時は日本に対しテロ行為が行なわれていた。治安当局が鎮圧したのは当然の行為である。治安維持の為、自警団が組織されたのも事実だが、日本人犯罪者や一部の不逞朝鮮人を取りしまる為に必要だった。」とまさに虐殺行為を「治安維持」のためとして正当化している。ちなみに同氏は毎年墨田区で行われる関東大震災時の朝鮮人虐殺犠牲者を追悼する式典を妨害する極右団体「そよ風」の活動にも参加している人物でもある。
朝鮮人虐殺慰霊祭のすぐ隣で繰り返される「そよ風」の集会は明確に差別と歴史否定を目的として行われたものであり、当該団体の集会での発言は東京都によっても「ヘイトスピーチ」として認定されているほどだ。
「ヘイト認定」でも今年も集会許可 制限しない背景は」(2020/8/27、朝日新聞デジタル)
この極右団体の集会は小池都知事の就任以降毎年繰り返されており、これは人種差別撤廃条約第4条(c)項に照らし合わせれば、「国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めない」という締約国に求められる義務[2]に反するものだ。また日本は留保しているが本来同条約4条では「人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認める」ことを締約国に対して義務付けている[3]。小池都政下での極右団体への集会許可は、こうした国際的な水準での反差別規範・人権規範に真っ向から反するものだ。しかも集会でヘイトスピーチがなされたことを都は確認しているにもかかわらず集会を許可しているのだから、東京都自体が極右に積極的に加担しているとすらいえる。
小池都知事の発言に立ち返れば、そのように関東大震災時の朝鮮人に対する虐殺の存在を明示しないのは上述の鈴木信行氏のようにそもそも当時の警察・自警団などによる暴力を「虐殺」として捉えていないからとも考えうる。都知事自身2010年に「そよ風」が主催する集会で講演を行っていた経歴をもっており、歴史認識が共通しているとしても不自然ではないだろう。
↓「政治家レイシズムデータベース」上の記録(掲載元のリンクは現在切れている)
他参考:「小池百合子の本性は“極右ヘイト”だ!朝鮮人虐殺を扇動する在特会系団体との関係も発覚、知事になったら東京はヘイト天国に」(Litera、2016/7/21)
小池都知事の影響が東京都自体の差別・差別・歴史否定を促していると見られる事例が近年さらに明らかとなった。
昨年10月、関東大震災時の朝鮮人虐殺を扱った映像作品の東京都人権プラザでの上映が東京都人権部によって止められる事件が広く知られた。さらに東京都人権部から東京都人権啓発センター職員へのメールでは、関東大震災時の朝鮮人虐殺犠牲者の追悼式典に対して都知事が追悼文を送っていないことに触れたうえで「朝鮮人虐殺を『事実』と発言する動画を使用することに懸念がある」と伝えられたとされる。
「東京都が朝鮮人虐殺題材の映像作品を上映禁止…作者「検閲だ」と批判 都職員が小池知事に忖度?」(東京新聞、2022/10/28)
このように小池都知事の歴史否定を根拠として、関東大震災時朝鮮人虐殺を事実として扱うこと自体が否定されるという方向に向かっているのである。東京都知事という立場が差別と歴史否定に付与する拡散力の大きさが示されている。
朝鮮人虐殺の明らかな事実について明言を回避することは、就任当時以降続いているものであり、ある種確信犯的に行われているものと考えられる。また小池都政下の東京都が朝鮮人虐殺犠牲者追悼慰霊祭のすぐ隣で極右活動による公園使用を許可するなどということは差別にお墨付きを与えるものであり、国際的な水準(人種差別撤廃条約に基づく)からみて本来あり得ないことなのだ。
この小池知事及び小池都政下東京都そのものの深刻さを理解する上で参照したいのがアメリカの事例だ。2017年にアメリカヴァージニア州シャーロッツビルにて白人至上主義者が抗議者数名を車で轢き殺した際、当時大統領だったドナルド・トランプは極右を非難せずに両者(極右と抗議者側)に責任があると主張し批判され、その後極右団体を名指しで批判せざるを得なくなった。つまりこの件でトランプ氏は直接差別を行ったわけでなくとも、差別に反対していないことによってトランプ氏は批判を受けていたのだ。だが東京都の場合、直接極右団体の活動を承認し、差別に加担している。この観点からすれば、極右との関係やレイシズムを煽動してきたことで知られるトランプ前大統領よりも小池都政下東京都の対応は悪質であるといえるだろう。
[1] 代表的なものとしては姜徳相『関東大震災・虐殺の記憶』(青丘文化社、2003年)、山田昭次『関東大震災時の朝鮮人虐殺とその後』(創史社、2011年)、加藤直樹『九月、東京の路上で』(ころから、2014年)など。
[2] https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html
[3] 同上。
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