政治家レイシズムデータベース2022年5月
反レイシズム情報センター(ARIC)です。
ARICでは、政治家はじめ公人によるヘイトスピーチやレイシズムの記録を行い、データベース化しています。
このnoteでの「政治家レイシズムデータベース」では、毎月追加したデータの中から、特に深刻なケースをこのnote記事上でピックアップしていきます。
今月も追加した差別事例から一部を紹介したいと思います。
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今月、Yahooニュースに触発されて京都ウトロ地区などで朝鮮人に対する民族に基づくヘイトクライム(放火)事件を起こした犯人の初公判が開かれた。この事件の特徴はヘイトクライム加害者がインターネット上での反響を目的として犯行に及んだということであり、現在もなお自分の行為について反省の姿勢を示すことすらしていない。
一方今月アメリカでは、ニューヨーク州バッファローで黒人をターゲットにした銃乱射事件が発生したことで、インターネット上のヘイトスピーチに関するプラットフォームの責任を問う必要性が高まった。日本でYahooニュースの責任を問い、再発防止のための制度設計に関する議論が(被害を受けた地域を除き)ほとんど見られないことと比較すると対応に大きな差があると言わざるを得ない。
そもそも日本においては、国会議員のような公人が継続的にヘイトスピーチを行うプラットフォームとしての極右メディアで公然と記事を載せていても咎められることすらない。
ヘイトスピーチとネットメディアをめぐる議論の一助として、今回の記事では、「政治家レイシズムデータベース」の記録から、日本の極右メディアの問題を取り上げていきたい。
極右媒体を通じた政治家の差別煽動
今回中心に取り上げるのは自民党参議院議員の和田政宗だ。彼はニコニコ動画上のチャンネル「和田政宗の本音でGo」などを通じて早い段階からネットを通じて極右の支持を集め、また2016年には沖縄に直接出向いて基地反対運動参加者に対して嫌がらせを行なってきた人物として知られている。
こうした和田氏の主張を継続的に取り上げている媒体の一つが、ヘイトスピーチや歴史否定を発信し、特に嫌中・嫌韓を煽るメディアとして有名な月刊『Hanada』である。
和田氏が今年に入ってから書かれた記事だけでも、例えば歴史否定の観点から特筆すべき事例として下記のものが挙げられる。
“オール沖縄”の敗北と“佐渡金山”深まる対立(2022/1/27)
「佐渡金山」韓国のプロパガンダと内なる敵『ポプラディア』(2022/2/18)
これらの記事では、佐渡金山にまつわる朝鮮人に対する強制労働に関する歴史否定、そして百科事典『ポプラディア』上の「慰安婦」の記載に関するバッシングがなされている。
*歴史否定の論点は過去の記事で整理しているため、詳細は下記を参照されたい。
これらの問題は、国会議員(公人)が『Hanada』という極右媒体にお墨付きを与え、支持する極右に差別を行う口実を与えている(1)ということだ。
日本も批准している人種差別撤廃条約では、差別を助長する「宣伝及び団体」が非難されており、また公人による差別の煽動も禁止されている。和田氏が極右雑誌に議員として公然と投稿していることは、これらの条項に反する問題であると判断できる。
上記の佐渡金山に関する歴史否定の他に、今月ネット上で更新されたのが沖縄に関する記事であった。そこでは下記ような主張がなされている。
沖縄戦があくまで本土決戦の時間稼ぎであったことは当時の『帝国陸海軍作戦計画大綱』などからもわかり、さらに沖縄戦において日本軍が沖縄住民を「スパイ」扱いして殺害した記録が残されている(2)ように、「国を挙げて沖縄を守ろうとした」という和田氏の主張は軍の戦略面・実態面ともに(氏の発言がいう「沖縄」があくまでも「沖縄の住民」を指すならば)全くのデタラメである。
近年対中国の防衛線として南西諸島への自衛隊基地強化が急激に進められているなかで、沖縄戦の歴史の書き換えが行われていると考えられる。そして沖縄の経験を無視して日本の安全保障の論理を貫徹させることを土台に、沖縄に対するバッシングが煽動されているのだ。
ではこうした歴史否定を基礎として、具体的にどのように差別が拡散されているのか。和田氏が「Hanadaプラス」記事の拡散を兼ねてTwitter上に載せた投稿を見てみよう。
国からの補助金を理由に、辺野古基地建設に反対して国と訴訟で争ってきた沖縄を批判しているのだが、この投稿に対して、リプライ欄では「タカリ県」「貰うものを貰っておいて感謝ではなく文句を言うような浅ましい人間にはなりたくないものです」「反対運動のリーダーが日本人、沖縄民でないのはなぜ?」などといったヘイトスピーチが寄せられている。
和田氏は現にこうしたヘイトスピーチが賛同として寄せられていることに対して全く反論(「自分の投稿を差別に利用するな」、等)せずに放置している。これは政治家としての自身の影響力に対して無責任であると言わざるを得ない。それどころか、支持者の差別を自覚的に煽っていると客観的に評価されても仕方がない。
終わりに
日本では、掲示板などを通じた匿名のヘイトスピーチに対する規制に全く歯止めがかけられていないどころか、自覚的に嫌中・嫌韓を煽っている極右媒体を政治家が支持することさえ放置されている。この異常な状況は、例えばネオナチの媒体に政治家が堂々と名前と地位を明確にして寄稿し、しかもそれが容認されているようなものだと置き換えてみれば理解しやすいだろう。
今月のヘイトクライム事件からわかるように、プラットフォームを通じた差別はもはや一国で対応できるようなものではなく、国際的な協力が不可欠である。だがまずその前提として、日本のヘイトスピーチ規制が海外に比して全く機能していないという現状を理解しておく必要があるだろう。
(1)さらに下記のように、元首相の安倍晋三も佐渡金山に関する歴史否定を掲載している。
【安倍元総理シリーズ対談 甦れ、日本!】これは「歴史戦」だ 佐渡金山、「世界遺産登録問題」|安倍晋三×加藤康子【2022年6月号】
https://hanada-plus.shop/products/186
(2)沖縄戦時の日本軍の住民殺害については下記の文献などに詳しい。
林博文「沖縄戦記録・研究の現状と課題―“軍隊と民衆”の視点から―」『自然・人間・社会』第8号、1987年、http://hayashihirofumi.g1.xrea.com/paper20.htm (林博文氏ホームページより)
――『沖縄戦 強制された「集団自決」』吉川弘文館、2009年
『記録 沖縄「集団自決」裁判』岩波書店、2012年
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