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政治家レイシズムデータベース2021年10月

 反レイシズム情報センター(ARIC)です。前回に続き、今月も追加した差別事例から一部を紹介したいと思います。

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 今回は、早稲田大学教授・有馬哲夫氏による「慰安婦」ヘイトと、前回に引き続き葛飾区議会議員(10月当時)・鈴木信行によるヘイトスピーチを取り上げる。有馬氏の「慰安婦」に関する主張について、歴史考証の話と思われる方もいるかもしれないが、実際には差別に基づくものだということを指摘しておく必要がある。また、鈴木信行については、11月7日に行われた葛飾区議会議員選挙に出馬しており、選挙宣伝を利用した差別の問題を指摘する。
 差別を判断する基準となるのは、前回と同様、人種差別撤廃条約が定める差別の定義をまとめた三つの要素である。

①(人種/民族などの)グループに対する
②不平等な
③目的又は効果を有する

 では実際に検証してみよう。

1. 早稲田大学教授・有馬哲夫による「慰安婦」ヘイト
 有馬氏は昨年話題となったハーバード大のマーク・ラムザイヤー教授の主張を全面的に擁護している論客の一人である。ラムザイヤー氏の論文では、「慰安婦」が「合意」に基づく契約によって動員されたことが強調されていたが、有馬氏も同様の主張を展開する。
 まずは、有馬氏の主張の文脈を踏まえた上で彼の主張の差別煽動効果を評価しなければならない。有馬氏による「慰安婦」に関する主張(契約があったから「慰安婦」はレイプ被害者ではないというもの)はそもそも性暴力被害者の告発を無化するセクシズム、そして韓国人に対するレイシズムであり、これらの差別の問題として捉える必要がある。
 有馬氏はTwitterにて下記のような投稿を行なっている。下記の投稿も「慰安婦」に関係したものであり、日本政府が「河野談話」を否定すれば世界は韓国人より日本人を信じるという内容だ。

「ヨーロッパでもアメリカでも、韓国人とか韓国系OO人は日本ブランドを利用して商売している。いかにも日本人がやっているように見せかけて寿司とかラーメンとか日本食を売っている。ヨーロッパ人やアメリカ人はそれを見抜いている。そういう人々だと思っている。だから日本政府が否定すれば世界は信じる」(Twitter、2021/9/27

 上記の投稿がどのように差別に該当するかを見ていくと、下記のように評価できる。

①韓国人・韓国系といったグループに対して
②(投稿の文脈を踏まえると)嘘をつく人々であると括る
③偏見を煽動している

 韓国人(韓国系)は平気で嘘をつくから「慰安婦」の証言も信用できず、日本が「河野談話」を否定すれば日本の方が信用される、という主張だ。次で見ていくように証言を無視して性暴力を矮小化しているのもこうした理屈が前提とされているのである。

 具体的な「慰安婦」についての記述は例えば下記の投稿などだが、実態を無視し、今日でも性暴力被害者を貶めるために用いられる論理(つまり「合意」があったと決めつけるもの)をもちだしたセカンドレイプである。

「3.慰安婦=レイプ被害者は誤りである。戦争犯罪によるレイプ被害者はいたが、彼女たちは慰安婦(合法的雇用契約を結んだ)ではなかった。4.騙されたとしてもリクルートの段階で、親と共に警察署にいって営業許可書をもらう段階では合意があった。5.軍は関与していたが国際法を犯してはいなかった。」(Twitter、2021/9/12

 日本軍が慰安所の管理主体であり、そこでの性暴力が問題になるにもかかわらず、有馬氏は戦時性暴力の問題を動員方法だけに限定して矮小化している。またそもそも「契約」の存在は性暴力被害を否定する根拠にはならない。有馬氏は植民地が女性児童取引禁止諸条約(*1)の適用外とされたことを国際法違反ではないことの根拠にしているが 、日本が当時の国際的な女性売買禁止の動きを認識した上で、いわゆる「内地」と分けた差別的な措置を植民地に対してとっていたのであり、当時の基準からすれば問題ないというものではない。

2. 選挙戦略としての差別煽動(鈴木信行による外国人バッシング)
 鈴木信行は日頃から社会保障からの外国人の排除や「外国人犯罪」の脅威を煽る主張を繰り返し、「選挙ドットコム」の鈴木信行のページでは公然と「外国人生活保護」バッシングがスローガンとして掲載されている。「選挙ドットコム」のページには「4年前から海外発の感染症上陸を警告! 外国人生活保護1200億円っておかしくない?」とあるが鈴木信行は選挙戦略としてコロナ下に乗じて中国人の差別・排除を煽り、人が生きるために必要な生活保護からの外国人排除を主張しているのだ。

① 4年前の中国人差別投稿
 「4年前から海外発の感染症上陸を警告」というのは、2017年に一時期話題となった自身の投稿 であり、梅毒の増加と中国人の訪日を結びつけることで中国人の排除を煽る主張をコロナ下に乗じて再利用している。
 実際のブログの投稿が下記のものだ。

「鈴木信行は増加する訪日中国人の推移と梅毒の増加数が比例していることから、訪日中国人が日本の性風俗店に梅毒を持ち込んでいる可能性を4年前に指摘しました。この梅毒増加こそ、コロナ上陸の第二の予兆だったと言えます。 」(葛飾区議会議員鈴木信行公式ブログ、2021/9/13

 この問題を整理すると 

①中国人というグループに対して
②根拠なく梅毒を持ち込んでいるとして
③偏見・排除を助長している

 実際には梅毒と中国人を結びつける内容は検証がなされており、感染症の専門家によって根拠がないと否定されているにもかかわらず、恥知らずにも同じ主張を繰り返しているのだ。

② 外国人生活保護バッシング
 鈴木は下記のように外国人に対する生活保護についても非難している。生活保護は「最後のセーフティーネット」として人が生きるために必要な措置であり、差別や勝手で無くしていいものではなく、生活保障からの排除は「外国人」を「死んでいい人間」として規定するレイシズムに他ならない。

「外国人労働者という移民が「日本に行けば高齢者になっても安心だ。毎月お金をもらえるぞ」と知ったら押し寄せてくるよ。現在でも年金納めてなくても、生活保護費を支給していただけるありがたい国が日本なのだ。」(葛飾区議会議員鈴木信行公式ブログ、2021/9/20
「外国人生活保護支給に反対し、外国人学校への補助金支給に対しては、しつこく支給廃止を訴えてきた議員が鈴木信行だ。」(Twitter、2021/10/22

 人種差別撤廃委員会一般的勧告30では、締約国が「市民と市民でない者との間の平等を保障する義務を負う」とされ(*2)、「外国人」の生存権の剥奪を求める鈴木の主張は明らかにこれに反するものだ。同勧告では「市民でない者」についても、それが実質的に人種差別であった場合は条約の適用対象となることが確認されている(*3)。これを踏まえると、下記の点で人種差別と判断できる。

①外国人というグループに対して
②生活保障の支給の(後者については外国人学校への補助金支給も)廃止を主張し
③外国人が不当に補償を受給しているという偏見を助長している

まとめ
 「慰安婦」問題をめぐって有馬氏による海外在住日本史研究者に対する攻撃が行われており、しかもその攻撃の対象も特に女性研究者が中心となっている。国内メディアは有馬氏の「慰安婦」バッシングについて管見の限り取り上げていないようだが、こうした状況も「慰安婦」ヘイトが差別の問題として説明されてこなかったことが関係しているだろう。
 鈴木信行の外国人差別についても、一見人種差別撤廃条約の対象外(「非市民」)と思われるかもしれないが、上述の通り実際には条約違反として指摘できることを強調しなければならない。公人の主張の歴史否定や外国人差別を批判する際に、それらに共通したレイシズムを背景とその影響の観点を踏まえて説明する必要がある。

*1 本人の同意があろうと満21歳未満の女性を国外に連れて行くことが禁止されていた。吉見義明『買春する帝国』岩波書店、2019年、104-105頁。
*2 翻訳は一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)のサイトより。「人種差別撤廃委員会一般的勧告30(2004)市民でない者に対する差別」(https://www.hurights.or.jp/archives/opinion/2004/03/post-4.html
*3 「4. 条約上、市民権または出入国管理法令上の地位に基づく取扱いの相違は、次のときには差別となる。すなわち、当該相違の基準が、条約の趣旨および目的に照らして判断した場合において正当な目的に従って適用されていないとき、および、当該目的の達成と均衡していないときである」、参照元は*2に同じ。


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