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政治家レイシズムデータベース2022年10月

 反レイシズム情報センター(ARIC)です。

 ARICでは、政治家はじめ公人によるヘイトスピーチやレイシズムの記録を行い、データベース化しています。

 このnoteでの「政治家レイシズムデータベース」では、毎月追加したデータの中から、特に深刻なケースをこのnote記事上でピックアップしていきます。

 今月も追加した差別事例から一部を紹介したいと思います。

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 今回のデータベースの記録からは、今月特に深刻だった沖縄に対するバッシングを、西村博之による差別煽動の影響という観点から紹介する。

 今年10月3日、2ちゃんねるの創設者として有名な西村博之氏が、沖縄在留米軍キャンプ・シュワブゲート前に行き、「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」と投稿[1]したことが話題となった(実際には単に当日の座り込みが終了していたに過ぎない)。
 さらに沖縄で座り込み活動を行う市民に対して詰め寄る、あるいはインターネット上で揶揄するなど、沖縄の反基地運動に対するバッシングを続けた。

 そうした流れの中、西村氏は自身のYouTubeチャンネルで「もともと普天間の基地があった。周りに住宅を造っちゃった」「もともと何にもなかった」といった趣旨の発言を行った[2]。普天間にはこれはネット上で使い古されているデマであり、沖縄県の公式ホームページ上でも明確に否定されているものだ[3]

 後日下記のように投稿している。

たしかに言い過ぎですね。失礼しました。
「普天間住民の90%以上の人は基地が出来てから移住してきた人。」
だと事実です。
1945年当時の人口が9千人で、現在の人口は9万人。

(Twitter、2022/10/11)
https://twitter.com/hirox246/status/1579754044826202113

 否定はしつつも、普天間基地周辺には従来から住んでいた以外の人々が集まっているとしている。しかしながら、ただ人口の比率を挙げただけ(しかもこの「9万人」というのも「普天間住民」とは限らない)であり、「基地が出来てから移住してきた人」が9割以上ということについて根拠が示されていない。このことから、もともと事実か否かが重要であるというわけではなく、沖縄の反基地闘争を揶揄さえできればいいと考えられていることがわかる。

 こうした一連の行動を無視してはならないのは、その影響力の大きさだ。Twitterはじめネット上で沖縄の運動をバッシングや差別が煽動されている。

 以下では、今月追加した政治家レイシズムデータベースの記録から、西村氏の発言に触発してなされたデマや差別発言を紹介する。

自民党前衆議院議員・長尾敬

>ひろゆき氏「たしかに言い過ぎ」謝罪も別の「事実」提示 普天間「もともと何も無かった」に
はい、ひろゆき氏がおっしゃることは正しいです。
発信力のある人のおかげで、注目されているのは良いことだと思います。
活動家の主張には嘘が多いので。

Twitter、2022/10/11
https://twitter.com/takashinagao/status/1579838086975934472

 さらに、沖縄の人々に対する直接的なレイシズムもみられた。同じくYouTubeの配信にて、西村氏は「沖縄の人って文法通りしゃべれない」「きれいな日本語にならない人の方が多い」といった発言を行なっていた[4]。これを受けて、元公人の極右によるヘイトスピーチが促されているのだ。

前豊島区議会議員・沓沢亮治

ひろゆき氏、沖縄左翼の座り込み実態を暴露、界隈が全力で「ギャオォォォォォォン!」
デジタル大辞泉より
込む=ある状態をそのままずっとしつづけること「座り―・む」「黙り―・む」など
無人の時間があるんじゃ座り「込んで」ないでしょ
やはり我々とは言語が違う模様

Twitter、2022/10/9
https://twitter.com/mk00350/status/1578992946078429184

 一連の問題は、公人でなくともメディアによく取り上げられるようなインフルエンサーによるバッシングがもつ煽動効果が差別や歴史否定の方向へと向いた際の脅威が顕在化した事例といえる。

 また、こと西村氏については、彼が世界に先んじてヘイトスピーチ放任の極右プラットフォームを創設したことについても着目しなければならない。

 アメリカニューヨーク州が発表した、5月の銃乱射事件(黒人を対象としたヘイトクライム)に際してインターネットがもたらした影響についての報告では、西村氏が所有者となったとされるインターネット掲示板「4chan」が「ヘイトスピーチと過激化の温床となっている」と指摘されている。

 西村氏はこの「4chan」の所有者であるという点だけでもヘイトスピーチ放置の責任を免れないが、そもそもこの「4chan」自体が、西村氏が創設した「2ちゃんねる」に影響を受けて創設されたものだ。ヘイトスピーチを含めた主張が全くの無規制、放任で垂れ流されているために極右、レイシストにとってこうしたネット上のプラットフォームが魅力的なものとなっている。

 海外ではすでにネット上のヘイトスピーチに関するプロバイダーの責任が追求されてきている。ドイツでは、ヘイトスピーチなど違法な書き込みについて通報があった場合、サイトの管理者がそうした投稿を削除することが義務付けられている[5]。アメリカのフェイスブックについても、フェイクニュース、ヘイトスピーチなどとの関係から2018年に最高責任者のマーク・ザッカーバーグが議会にてその責任を追求されていた[6]
 差別の責任を実効的に追及する規範(反差別規範)が存在する欧米では、ヘイトスピーチの拡散、煽動という観点から管理者の責任が問われ、法律による処罰に限らず、差別をおこなった人物に対してスポンサーが支持を打ち切るなどの措置が取られている。
 しかしながら反差別規範が存在しない日本では、西村氏自身のヘイトスピーチ、プロバイダーとしての責任が全く追求されず、むしろ金融庁が対談のために自ら招いている始末である[7]

 現在海外で実践されているヘイトスピーチ対策は、差別主義者に発言の場を与えないようにし、差別した際にはその責任を取らせるという方向性で一貫している。西村氏のインフルエンサーとしての差別、デマ煽動効果は非常に深刻なものであり、単なるお題目でなく実効的に反差別を実践している諸外国の人権水準にしたがえば、今回の一連の差別、デマ拡散のもととなっている西村氏のTwitterやYouTubeのアカウントは閉鎖されて然るべきといえるだろう。

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*新聞・雑誌記事、動画、書籍等でレイシズムの疑いがある公人による発言を見かけた場合は、ARICのHPから通報フォームにてご連絡ください。Twitterで「#政治家レイシズム」のハッシュタグをつけてリツイートしてくださっても結構です。


[1] https://twitter.com/hirox246/status/1576859632668405760

[2] 「ひろゆき氏「沖縄の人って文法通りしゃべれない」 県民の“日本語”めぐり発言」(沖縄タイムス、2022/10/12)https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1039253

[3] 「たとえば、米軍上陸前年の宜野湾村には多くの集落が存在し、約1万4千人の住民がいましたが、沖縄に上陸した米軍は普天間飛行場建設のために宜野湾、神山、新城、中原の4つの集落を中心に広い範囲を強制接収しました。なかでも、普天間飛行場が建設される前の当時の宜野湾村の中心は宇宜野湾という場所で、現在の普天間飛行場の中にありました。そこは、もともと役場や国民学校、郵便局、病院、旅館、雑貨店がならび、いくつもの集落が点在する地域でした。
また、宇普天間には、沖縄県庁中頭郡地方事務所や県立農事試験場など官公庁が設置され、沖縄本島中部の中心地でした。」https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kichitai/tyosa/documents/r2_p02.pdf
(沖縄県ホームページ「沖縄から伝えたい。米軍基地の話。Q&A BooK 令和2年版」)

[4] 「ひろゆきさん「沖縄の人って文法通りしゃべれない」 配信動画の発言、また物議」(琉球新報、2022/10/12)
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1598358.html

[5] https://jp.reuters.com/article/facebook-germany-delete-idJPKBN1KK01P

[6] https://www.nikkan.co.jp/articles/view/469067

[7] https://www.tokyo-np.co.jp/article/198212

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