政治家レイシズムデータベース2021年11月
反レイシズム情報センター(ARIC)です。今月も追加した差別事例から一部を紹介したいと思います。
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11月の記録からは、①日本維新の会による国政選挙立候補者の国籍履歴公表を義務付ける政策提言と②武蔵野市の住民投票条例案に対する極右の攻撃を取り上げる。これらの問題において重要なポイントは、どちらも外国籍に対する「区別」ではなく実態として人種差別撤廃条約が禁止する差別であるという点である。
今回も人種差別撤廃条約第一条の「人種差別」の定義をまとめた三つのポイントから公人の発言の問題を指摘する。改めて提示すると下記のものだ。
①(人種/民族などの)グループに対する
②不平等な
③目的又は効果を有する
さらにとりわけ今回紹介するケースにおいては、人種差別撤廃条約における「市民」と「市民でない者」との間に設けられる区別に関する留保について説明する必要があるだろう。人種差別の禁止を定める国際的な基準である人種差別撤廃条約の第一条第二項では、確かに「この条約は、締約国が市民と市民でない者との間に設ける区別、排除、制限又は優先については、適用しない(*1)」とされている。しかし人種差別撤廃委員会は一般的勧告30にて、そうした市民権に基づく取り扱いの相違についても「当該相違の基準が、条約の趣旨および目的に照らして判断した場合において正当な目的に従って適用されていないとき」場合には差別となるということが確認されており(*2) 、つまり(「市民」と「市民でない者」を分ける)国籍による区別も実質的に人種差別であった場合は禁止される対象となるということだ。これを前提として以下、今回の記録を紹介する。
1、日本維新の会による国政選挙立候補者の国籍履歴公表の政策提言
日本維新の会幹事長・衆議院議員の馬場信幸氏の発言
「〔日本維新の会が政策提言として、元外国籍保持者による国政選挙立候補の際に国籍履歴の公表を義務付けることを掲げていたことについて〕
国会議員は特にですね、やっぱり国民の皆様方の税金をどう配分するかとか、安全保障上重要な政策決定をするとか、そういうことがありますんで、やはりどういうその人の経歴、公人ですからね。私人じゃないんで、公人ですから、やはりそういうきちっとした経歴を明らかにするというのは当たり前だと思う。」
これは10月31日から11月1日にかけて放送されたTBSラジオの番組(*3)で馬場氏が行った発言です。日本維新の会の選挙制度改革のページには「60. 二重国籍の可能性のある者が国会議員となっていた事例に鑑み、外国籍を有する者は被選挙権を有しないことを定めるとともに、国政選挙に立候補する者は自らの国籍の得喪履歴の公表を義務づけます」と書かれており、馬場氏の発言はこれを追認したものだ。
ではどこが問題なのかを確認してみよう。上述の人種差別撤廃条約のポイントに当てはめると以下のようにまとめることができる。
①日本以外にルーツを持つ人物について
②もともと不必要な国籍の公表を義務付け、
③それによって日本以外にルーツを持つ人々に対する偏見を助長している
本来不必要な国籍情報の開示は日本以外にルーツを持つ人物を、「日系日本人」とは異なる人間として人種化するものだ。ゆえに具体的な民族マイノリティに対する差別を助長させる危険性がある。現に上記の発言に便乗して以下のような差別発言が出てきている。
豊島区議会議員の沓沢亮治は選挙ドットコムのブログ(2021/11/4)上に下記のようなヘイトスピーチを掲載している。
「馬場幹事長、帰化人の立候補を禁止しろって言ってるんじゃなくて公表しろって言ってる
帰化人議員の所業はネットで厳しく見張られるので公表だけでいいのかもしれん
石平さんみたいな中共大嫌いな帰化人もいるわけだし本人の所業次第ということで
日本人の血が1滴も入ってない帰化一世が立候補できるのはどうかと思う
新宿の区議選挙に毎回出てる李って奴がおって毎回票数を増やして次あたり当選しそう、やば 」
李小牧氏など具体的な議員を指して攻撃対象としているだけでなく、議員の立候補にあたって血統を持ち出したダイレクトな人種差別であり、このような主張が便乗して出てきていることからも馬場氏の発言の差別煽動効果は明らかだ。
2、武蔵野市住民投票条例案バッシング
武蔵野市の住民投票条例案において、外国籍の住民も日本国籍と同じ要件で投票資格をもつことを提示したことが極右によるバッシングの対象となっている。そもそも住民投票は参政権とは関係ないものだが、国政からの外国籍者の排除が差別煽動の口実として利用されているのだ。
記録した中から特に深刻なものをピックアップして紹介する。
豊島区議会議員・沓沢亮治(Twitter、2021/11/12 )
「武蔵野市の議員に効く抗議の仕方
議会事務局 0422-60-1883
1.議員全員にお伝えください
2.平成7年2月28日 最高裁「住民とは日本国民と解されるべきである」と判決が出ており、この条例案はそれに反する
3.外国人大量流入で帰化議員ばかり当選するようになり、現議員は落選する」
元葛飾区議会議員・鈴木信行(自身のブログ、2021/11/13 )
「外国人参政権が成立すれば、外国人による人口侵略の進展と共に、外国政府の意志が日本の政治に反映されかねない。共産党・立憲民主党などが力を入れるのは、日本社会崩壊への糸口と考えているからだろう」
自由民主党参議院議員・佐藤正久(Twitter、2021/11/20)
「【これはダメ。中国からすれば格好の的。やろうと思えば、15万人の武蔵野市の過半数の8万人の中国人を日本国内から転居させる事も可能。行政や議会も選挙で牛耳られる→実質的参政権、懸念拭えず 武蔵野市の住民投票条例案 】」
これらのポイントは下記のようにまとめられる。
①外国籍(あるいはさらに特定の国籍)をもつグループに対して
②住民投票を認めないとした上で
③「人口侵略」、「帰化議員ばかり当選」などといった文言でその脅威を煽り、偏見を助長している
外国籍者に対する合理的な区別であると思われる方もいるかもしれないが、極右の攻撃の根幹となるのが③のような差別の煽動である。沓沢亮治氏については特に武蔵野市の議会の電話番号を公開して煽動を行なっていることも深刻だ。2019年に「あいちトリエンナーレ」に対して脅迫が相次いだが、同様の事態が発生する危険性があるだろう。しかも武蔵野市の条例は参政権にかかわるものではないため「帰化議員ばかり当選する」というのは完全にデマだ。鈴木信行氏の「人口侵略」というのは、彼が普段から外国人(特に中国人)に対する差別煽動に用いている用語である。地域の自治に関して、日本人と同条件で住民投票の資格が外国人にも付与されるのは全く問題ないが、そうした領域からの徹底的な排除を求めることは明らかに差別である。佐藤正久氏の主張などは明らかに中国人を攻撃のターゲットにしており、バッシングが実際に特定のマイノリティへの攻撃とも結びついていることがわかる。
終わりに
今回紹介した内容は、政治や投票にかかわるもので共通した側面を持っていたといえる。こうした話に関して、外国籍にかかわる区別は認められると考える人もいるかもしれないが、実質的な内容とその影響を考慮して問題の所在を判断する必要がある。武蔵野市に対しては現在も極右団体による街宣が行われているが、それに「お墨付き」を与える公人の差別煽動を注視していく必要がある。
*1 外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html)より。
*2 翻訳は一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)のサイトより。「人種差別撤廃委員会一般的勧告30(2004)市民でない者に対する差別」(https://www.hurights.or.jp/archives/opinion/2004/03/post-4.html)。
*3 「【インタビュー文字起こし】<日本維新の会>馬場伸幸幹事長【開票特別番組】」(TBS Radio 荻上チキ session、2021.11.1)https://www.tbsradio.jp/articles/46626/
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