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政治家レイシズムデータベース2022年1月

 反レイシズム情報センター(ARIC)です。
 ARICでは、政治家はじめ公人によるヘイトスピーチやレイシズムの記録を行い、データベース化しています。
https://antiracism-info.com/database_home
 このnoteでの「政治家レイシズムデータベース」では、毎月追加したデータの中から、特に深刻なケースをこのnote記事上でピックアップしていきます。

 今月も追加した差別事例から一部を紹介したいと思います。

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 今回の追加分は1月に記録した差別発言に加え、昨年12月下旬の分を加えており、それぞれ同時期の事件に関する差別発言が見られた。

 12月下旬の記録のうち特に深刻なものとして、ウトロ地区の放火事件、民団支部への攻撃といったヘイトクライムを正当化する投稿が元公人によって行われていたことが確認できた。同様のヘイトクライムを誘発しかねない深刻な事例である(詳細は後述)。

 また1月の記録では、新潟県・佐渡金山の世界遺産の登録に関する韓国バッシングが特に目立った。世界文化遺産への登録に「佐渡島の金山」が候補として推薦されたことに対し、韓国政府は、佐渡鉱山が戦時中に朝鮮半島出身の労働者が強制労働を行った場所であったということで批判した。今年1月21日、日本政府は一時推薦を見送ることを示唆したが、それを受けて安倍晋三、高市早苗はじめ極右議員らが強烈な反発を行なった。記録した極右議員の投稿の主な内容としては、佐渡島金山の推薦について日本が譲歩することで、「慰安婦」問題のように韓国が「プロパガンダ」を普及する、といったものだ。

 下記では、ヘイトクライムの正当化、佐渡金山に関する歴史否定の二件を取り上げてある。紹介するのはこれまでの記事でも紹介した極右活動家、かつ元葛飾区議会議員の鈴木信行の投稿である。

1、ウトロ、民団支部へのヘイトクライム正当化

 昨年8月に京都ウトロ地区で放火を行なっていた犯人が同年12月に逮捕され、話題となった。犯人は「朝鮮人が嫌い」といった証言をしており、明らかなヘイトクライムである。またそれを受けて同じ12月に今度は大阪の在日本大韓民国居留民団(民団)支部にハンマーが投げ込まれるという事件が起きた。

 鈴木信行はそれらの事件について、自身のブログで下記のように書いている。

「大阪府東大阪市所在の在日本大韓民国民団(民団)枚岡支部の室内にハンマーが投げ込まれ、入り口の窓ガラスが割られた。
民団とは在日韓国人組織だ。
ガラスが割られた東大阪市にある2階建ての建物「韓国会館」には、民団と在日韓国婦人会の枚岡支部が入っている。
7月には民団愛知本部の建物で放火事件が発生した。
8月にも在日韓国・朝鮮人が多く暮らす京都府宇治市のウトロ地区で放火が疑われる火災が起きた。両事件では、奈良県在住の有本匠吾容疑者が逮捕されている。
鈴木信行の指示で、平成24年に全国の民団本部前に「竹島の碑」を打ち込ませた。
北海道から九州まで実行していただいた。
その総仕上げとして、6月19日にソウルの日本大使館前に違法設置された慰安婦像に、「竹島の碑」を縛り付けたのだ。
鈴木信行に取り調べも受けずにソウル中央地裁で刑事裁判が続いているが、
鈴木信行の行動理由は「韓国への反撃」だ。
やられたから、やり返しただけだ。」
(「屈辱反日の象徴である「慰安婦像」設置から10年!来年はソウルの慰安婦像に「竹島の碑」10年!」2021/12/23(1))

 この投稿のポイントは以下の2点にまとめられる(これまでの記事で紹介してきた、人種差別撤廃条約のポイント(2)を参照)

①朝鮮人というグループに対して
②直接的な暴力(ヘイトクライム)を正当化している

 ウトロへの放火事件、民団に対する襲撃事件を引きながら、自身がそれ以前に行なっていた民団への攻撃、韓国での少女像に対する直接行動を「韓国への反撃」「やられたから、やり返しただけだ」と正当化しているのであり、文脈から見て自分以外による犯行についても同様に肯定しているのは明らかだ。
 鈴木信行は、いまでこそ議員ではないとはいえ、極右活動家として継続的・組織的に活動している人物である。そうした人物によってお墨付きが与えられることで、ヘイトクライムが起きる危険性が高められている。

2、佐渡鉱山の朝鮮人戦時動員に関する歴史否定

 収集した記録のなかから、戦時期の朝鮮人強制動員に関する典型的な歴史否定が見られたのでそれを紹介する。上記と同じく鈴木信行の発言を一部見てみよう。

「終戦時の23万1059円59銭の未払い賃金は、給与があったことの証左だ。
朝鮮人労働者に対する賃金未払いの問題は、日韓請求権並びに経済協力協定で解決済みだ。「朝鮮人強制労働」というのは火病韓国と反日左翼による歴史偽造なのだ。
朝鮮人労働者の雇用を確保したことは、感謝し褒められることではないか。
過酷な労働環境とは、日本人労働者も同じだ。」
(「「韓国の妨害」で佐渡金山世界遺産推薦見送り?日本は論戦から逃げず日韓断交を突きつけろ! #葛飾区」2022/1/21(3))

 韓国の反応について紹介する際に「火病」という言葉が用いられているのだが、まずこれだけでも歴史否定の内容的な検証以前に差別であると断定できる。
 この「火病」というのは、「朝鮮人特有」の「癇癪」を意味する言葉として用いられる言葉であり、ネットスラングとして使われる「ファビョる」という造語のもとになっている。つまり明らかに朝鮮人が感情的になっていることをその「民族性」と結びつけて揶揄するニュアンスが含まれているのだ。

 後述の歴史否定と併せて問題のポイントを指摘すると、

①朝鮮人というグループについて、
②「歴史のねつ造を主張」していると訴え、さらにそれを「火病」という言葉で民族の性質として強調することで
③偏見を煽っている

ということだ。

 歴史否定の内容については、少なくとも下記の二点が指摘できる。

①給与があったことは、労働が強制でなかったことを意味しない。

 給与の存在と労働の強制性は全く矛盾するものではなく、論証自体が成立していない。実際に物理的な強制があったことはこれまでの調査・研究から明らかにされていることであり、過酷な労働環境から逃亡した朝鮮人が捕えられ、強制的に鉱山に引き戻されていたことが『特高月報』(つまり日本当局)や証言を通じて記録されている(4)。

②日本人も過酷な労働環境で働いていたことは、朝鮮人の労働の強制性やその特殊性を否定するものではない。
 日本人も過酷な労働環境で働いていたことは事実だと考えられるが、こちらの点についても、上述のような朝鮮人労働者に対して加えられた物理的な強制の問題を否定する論拠として成り立っていない。植民地支配のもとで朝鮮人の動員は警察など国家による移動の管理を伴い、その上でそうした過酷な労働環境で働かされていたから問題なのだ。
 鈴木氏の場合、日本の植民地支配を全面的に肯定し、その建前としての「内外」平等が無謬であったという前提に立っているからこそ、上記の記事のような主張が出てくるのである。

終わりに

 鈴木信行がヘイトクライムを擁護したことで、今後ウトロ地区、大阪民団に対するものと同じようなヘイトクライムが極右と組織的に結びついて行われる可能性が高まっており、ヘイトスピーチが暴力に至る回路が強化されつつあるといえる。
 他方、最近では世界遺産登録について、日本の近代化の歴史の称揚に伴い、植民地支配に関する歴史否定と民族差別が結び付けられている。読者の方々も、世界遺産にまつわる歴史否定を観測した際には、それがいかに差別を正当化しているのかということに注目し、重要な公人(この場合、例えば新潟で活動している人物など)による差別・歴史否定発言を見つけた際にはぜひARICまで通報いただきたい。

(1)ブログ記事:https://ameblo.jp/ishinsya/entry-12717158701.html
(2)人種差別撤廃条約第一条の「人種差別」の定義をまとめた、人種差別を判断する上でのポイントは下記の三点である。
①(人種/民族などの)グループに対する、②不平等な、③目的又は効果を有する(3)ブログ記事:https://ameblo.jp/ishinsya/entry-12722440347.html
(4)広瀬貞三「佐渡鉱山と朝鮮人労働者(1939〜1945)」『新潟国際情報大学情報文化学部紀要』3号、2000年、14頁。

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