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石野3時間耐久レース

2018/11/10

練習走行

岩瀬総監督
「じゃあ軽く流してカートに慣れてきてください。無理に速く走る必要はありませんよ。」 

 ヘルメットのシールドを下げ、いざコース内へ。MZ200エンジンはスポーツカートと呼ぶに相応しいが、素人の手に負えそうな、KTやMAXとは違った初心者にとって楽しい範疇のパワー。エンジンの特性はリニアな感じで、レンタルSodikartよりはパワフル。車が嫌いでなければ楽しい。初めは公道を走るかのように初めは慎重に。サスペンションが無いので路面を直に感じるダイレクト感。コーナーを抜ける度に徐々にスピードを上げていく。だんだんカートの挙動が不安定になってきて、恐怖を感じるスピード域に達してくる。怖いのでアクセルを抜く。空走が1番不安定である事は知らない。いっそのことブレーキを踏めば良いのだがコーナー中にブレーキを踏んではいけないという自動車学校的の知識が邪魔をする。アクセルオフにして惰性でコーナーへ入っていく。当然グリップ力は最低な状態なのでカートはコーナーの外へと膨らんでいく。縁石を超えそうになったあたりで恐怖に負けて強いブレーキを踏んでしまうとカートは回りながら外へ飛び出していった。舞い散るホコリ。

交通事故!?

 そんな考えが頭をよぎる。一瞬何が起こったのかがわからず呆然とする。カートがクッションに刺さる。激しい鼓動で我に返る。スピンアウトなどサーキットでは日常茶飯事であり特に気にすることではないのだが些細なことでドキドキしてしまうのがオジサン。普通車の感覚でブレーキを踏んではいけないのだ。ABSなど便利な装置は何もない。トラクションコントロールも、デフもない。サスもない。全て自分で行う。これがレーシングカートの楽しみの真髄とも言える。この時点ではまだ技量は0である。


本格耐久レース

同じチームになったおじさんが言いました。

「木村さん、今日は長袖長ズボンでいいと言われて来たんですが、どうやらそうじゃなかったらしくて。」
「あ、あなたもですか!」

 このドライバー集めには何か組織的なニオイを感じた。
当日搭乗するカートが決まった。そこにはGT-1が搭載されていた。GT-1 エンジンとは MZ200エンジンより少しパワーが有り1周あたり2秒程度早く走れる。エンジョイオジサンチームにはハンデの如くこのエンジンが与えられた。しかし問題がある。そもそもコーナーがうまく回れないとせっかくパワーがってもオーバーテイクできない。追いついてはコーナーで離されの繰り返しとなる。
 無情にもレースは定刻通り始まる。自分の番となりコース内へ。全力でホームストレートを走ってくるライバルカーを避けながら合流するのも怖い。エンジョイチームとはいえ一所懸命走る訳だが、とにかくカートが旋回しない、ブレーキを踏めばテールが流れて怖い。ヘルメット内の空気の薄さに耐えながら何とか担当の10分を耐える。ただ走ってきただけだった。アウトインアウト、スローインファーストアウト、ライン取り。そんな事は意識しても全く戦闘能力はない。
 上手なMZ200には抜かれていく。エンジンのおかげでエンジョイMZに追いつくと、あとはそのまま。抜けない。ピットサインが出ると戻っていく。ただこなしているだけ。どうして皆あんな快速でコーナーを周って行けるんだろう。杉ちゃんに聞いてみる。

「木村さんしっかり減速してからコーナーはいってるでしょ?そうじゃなくってブレーキを残しながら入っていくんです。それも怖い?じゃぁコーナーに入る前にアクセルオフにしてエンジンブレーキで減速、外側にフラれるがままシートにもたれて見てくださいよ。」

 すっげー怖いから減速してしまうのだが、一か八か試してみるとなんとタイヤがグリップしてカートがインに向くではないか。「こいつ・・・曲がるぞ!」毎回うまく行くわけではないが、確実にコーナーを曲がれる頻度が上がっていく。そして禁断のオーバーテイク。今までの自分と同じことで悩んでいる速くないMZマシンをインから悠々とオーバーテイク。エンジンはGT-1であったがオーバーテイク。初めての実戦でのオーバーテイク。

総監督
「木村さん、ついにオーバーテイクの快感を覚えてしまったぁ〜っ」

 戦果は散々たるものであったが個人的にはカートに秘められた何かに手が触れた日となり、「耐久レースなら手に負えそうだ。大観はスプリント、俺は耐久で生きられそう」という文字が頭に浮かんだのはこの時だった。まだ思っただけ。何も始まっていない。


 コーナーに入る前にアクセルオフにして、エンジンブレーキで減速、外側にフラれるがままシートにもたれて見てください。

Corridor 杉山佳生



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