
サーキットではレースの事だけを考えろ
2019/02/01
お昼過ぎににぎわう石野サーキット2階休憩室。皆昼食をとったりソファーでごろ寝をしたりスマホで時間をつぶしたりとコロナの前は日常的な光景だった。大観選手と自分も窓際のハイチェアーで食事を済ませスマホ片手に休憩をとっていた。「バーン」突然休憩室の引き戸が音を立てて全開になる。
「サーキットに来ているときには速く走る事だけを考えろと言ってるだろうがぁ!ゴラァ」
出入り口に立ちふさがる怒り心頭のお父さん。静まりかえる室内。館内放送のラジオの音だけが静かに聞こえる。あるカデットレーサー(小学生レーサー)の子がチームメイトからスマホを借りて遊んでいたところを運悪く(?)父親に発見されてしまったのだ。固まってしまっている彼の表情は、既にこの後に起こる何かを察知し覚悟した絶望と諦めの表情だった。襟首を掴まれてカカトをズルズルと引きずられながら部屋から連れ出されていく少年。
間もなく地響き。ズーン、ビリビリビリ...。建物が揺れる。室内では誰一人音を立てられない時間が続いている。背中を丸めた姿勢で動けなくなっている俺は隣で同じように背中を丸めたまま固まっている大観選手にヒソヒソと話しかけた。
「あのさ、父さんなんか今ポケゴーやってるんだけどさ、自分が怒られたというか、何かこう~今自分悪いことしてるという気分というか、恥ずかしいという感じか、駄目だよな。その~心構えが違うよな。」
背中を丸めたままスマホ片手に別なゲームを楽しんでいた大観選手はヒソヒソと答える。
「そうだね父さん......。」
園長やってんだから介入すべきだったか!?
一つ言えることは心がけの違いは成績の違い。彼は今、執筆時点でOKクラス(てっぺんクラス)を走っている。
エンジンのかけ方
杉ちゃんは大観選手以外にも若いレーサーたちの世話をしている。倉庫から61号車を出してきた最近ではアーチェリーで有名な彼に声をかけた。
「もうエンジンのかけ方わかるよな?」
「えぇっと、横についてるスタートボタンを押せば...」
コリドー杉山氏は一気に気分を害した。彼が質問したのはプラグを外してアースし、ガソリンを呼んで、という返事を期待していたからに他ならない。しかし、あっくんほどヒートアップしないので杉ちゃんは安心だ。
「不幸な家庭を作ってはいけない。」
てっさんの口癖だ。親と子の思いや熱量が違っていたり、求めるものと到達可能な領域のギャップとか、経済バランスとか。これらがうまくバランスしないとせっかくの楽しいレースもつまらないものになってしまう。レースは楽しいものであるべきというチームのレース愛が、イタズラに集客に走らず、入門者には気前よく無料体験走行を勧め、こういった発言へと繋がる。
自分は大観選手に「やれ」とも言ってないから勝手にやってるし、その具合を知った上で「俺もやってみたい」と、誰かに頼まれたわけでもなくこのような結論に自分自身で到達したのだから不幸な家庭になるはずがない。と信じたい。※執筆時点でも親子で相当楽しくやってます。