第10回マイルチャンピオンシップ(1993年) [競馬ヒストリー研究(20)]
昨年のマイルCSを制したのはグランアレグリア。管理調教師の藤沢和雄は当レース5度目の制覇となった。
1988年に厩舎を開業し、JRA歴代2位の通算1542勝・重賞125勝を挙げ、来年2月に定年引退を迎える藤沢。GI勝利数は歴代1位の33勝を誇るが、その第一歩目となったのが1993年のマイルチャンピオンシップであった。
藤沢は前年の1992年に34勝を挙げ初の関東リーディングの座に輝く。しかし、その年の6月にニュージーランドT4歳Sを勝つまで重賞を制覇したことはなかった。
従前の日本競馬界の常識とはかけ離れた彼流の調教法も、「強い追い切りを掛けない調教では大レースは勝てない」と、冷ややかな目で見られる時代であった。
藤沢に初のタイトルをもたらした愛国生まれで当時4歳の牝馬シンコウラブリイはその後も重賞を連勝。
当初はジャパンCを視野に入れ、阪神3歳牝馬Sで敗れたニシノフラワー等のクラシック出走組が待つエリザベス女王杯には向かわずに同日の東京で行われた富士Sに出走。重賞ウィナーを含む古馬相手に全く追うところなく勝利するも、一転してマイルCSへ連闘で駒を進める。だが、ここでは1番人気に応えることは出来ず2着に敗れた。
翌93年春の安田記念は3着。前年に惜敗したマイルCSで悲願のGI制覇を果たすべく、秋は毎日王冠で始動。安田記念で敗れたヤマニンゼファーらを負かして勝利し、続くスワンSも連勝して本番を迎えた。
ヤマニンゼファーは出走せず、大半の出走馬は前2戦で負かしてきた馬ばかりというメンバー構成もあり、シンコウラブリイが単勝オッズ2.3倍の1番人気。唯一接近したのが3.6倍のニシノフラワーであった。
雨模様の当日であったが、直前に雨脚が激しくなり15時付の降水量は20mmを記録。2つ前の第8レースまでは良馬場であった芝コースはマイルCSの頃には不良まで一気に悪化した。
5番枠から発走したシンコウラブリイは好スタートを決めて好位3番手を確保。3-4コーナーの坂の下りから外へ持ち出すと、手綱を取った岡部幸雄の手は全く動かずに余裕の手応えで直線を向く。
そこからは内で逃げ粘りを図るイイデザオウを並ぶ間もなく交わすと、残り200m手前で先頭に立ち、そのまま1馬身1/4差をつけて押し切った。
藤沢と本馬自身にとってもようやく掴んだこのGI制覇を花道にシンコウラブリイは引退、繁殖入り。産駒には中京記念を勝ったロードクロノスや重賞2着3回のトレジャー等がいずれも藤沢の厩舎で活躍した。
また、シンコウラブリイの母ハッピートレイルズはやはり藤沢厩舎所属でエプソムCを制した3歳下の半弟タイキマーシャルを産んだ後日本へ輸入。
その血は今に至るまで長くターフを賑わせ、ハッピーパスとその産駒コディーノ、チェッキーノやキングストレイルといった牝系子孫が藤沢の下で活躍している。
シンコウラブリイの他にも藤沢が手掛けた馬たちが幅広く血脈を繋いでいる現在であるが、その礎となったのは彼のホースマンとしてのポリシーであり、先日美浦トレセンに建立された1500勝達成記念碑にも刻まれた言葉「一勝より一生」であることは疑いようがない。
引退まで残すところ3か月余となった調教師・藤沢和雄。最後まで自らの信念を貫き通す不世出の名伯楽の仕事ぶりを最後まで目に焼き付けたい。
そんな藤沢門下生最後の大物グランアレグリアにとってもラストランとなる今年のマイルチャンピオンシップ。今年はここまで4戦1勝であり、引退レースだけに必勝を期して臨むでしょうが、中2週のローテーションと持ち前の瞬発力が発揮しにくそうな今の馬場は課題です。
それならシュネルマイスターの方が有利かもしれません。生粋の欧州血統だけに切れ味では劣るシーンが目立ちますが、この馬場ならNHKマイルCや毎日王冠で見せた持続力が存分に活かせそうです。
サリオスも昨年は速い上がりで内目を通った馬で決着した中、大外からよく詰めてはいました。4歳秋を迎え、血統的にはそろそろ本格化を期待したい時期に入っています。
それではー
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