第45回エリザベス女王杯(2020年) [競馬ヒストリー研究(19)]
昨年、天皇賞秋とジャパンCを制して新記録となるJRA及び海外GIの8勝目と9勝目を挙げたアーモンドアイ。同馬が牝馬三冠を達成した3歳時にライバル的な存在であったのがラッキーライラックだ。
牝馬という枠を超え、日本を代表する名馬となったアーモンドアイが圧倒的な強さで大記録を打ち立てたその裏で、このラッキーライラックもその確かな実力を証明する一つの記録を日本の競馬史に刻んでいた。
2歳の8月にデビューすると、3戦3勝で阪神ジュベナイルフィリーズを制して2歳女王となったラッキーライラック。
トライアルのチューリップ賞も勝ち、単勝オッズ1.8倍の支持を受けて臨んだ牝馬三冠レース第一関門の桜花賞であったが、ノーステッキで大外から力強く伸びたアーモンドアイにいとも簡単に差し切られ2着。続くオークス、秋華賞でも完敗し、同馬に牝馬三冠を許してしまう。
その後はジャパンCやドバイターフを制し現役最強馬となったアーモンドアイと同じレースに出走することはなく、牝馬路線を中心に戦っていくこととなる。
4歳秋になり、新たにC.スミヨンを鞍上に迎えたエリザベス女王杯で、それまで見せたことがなかった抜群の瞬発力を発揮して久々の勝利となるGI2勝目を挙げると、翌春には牡馬相手の大阪杯で3つ目のタイトル。
その後は宝塚記念6着を挟み、秋を見据えて札幌記念に出走。ここでノームコアの3着と敗れ、再び間隔を取って連覇のかかるエリザベス女王杯に出走した。
実績で抜けるラッキーライラックが1番人気。前走敗れたノームコアが小差で2番人気に続いた。
C.ルメールを背に大外18番枠からスタートしたラッキーライラックは中団の外を追走。
ノームコアが単騎逃げを打って澱みなく流れ、先に動いたウラヌスチャームを見ながら3角で進出開始。余裕の手応えで捲り上げると直線入口では既に先団へ。そのまま堂々と抜け出し、最後はサラキアに詰められるもクビ差押し切って先着。
2着以下に負かした馬のうち、ノームコアは次走の香港Cを、ラヴズオンリーユーは翌2021年のQEIICとBCF&Mターフを勝利し、サラキアは次走の有馬記念を2着。アーモンドアイや2歳下の三冠牝馬デアリングタクト、宝塚記念を圧勝したクロノジェネシスは参戦しなかったものの、決して相手に恵まれての勝利ではないことが分かる。
ラッキーライラックはエリザベス女王杯連覇を達成し、これがGI4勝目。これはクラシック三冠及び牝馬三冠を達成した馬に対象の三冠競走で敗れた馬としては、83年の皐月賞でミスターシービーに敗れた後GIを3勝したニホンピロウイナーを上回り、歴代最多となるJRA平地GI勝利数である。
一生に一度の舞台で同期のライバルに圧倒的な差を見せつけられ、スランプも経験。再びアーモンドアイと交わることはなかったものの、自らの道を歩み、着実に力をつけていったラッキーライラック。
スターホースが何頭も現れ、記録づくめであった2020年。だが、そのスター達が歩まなかったある意味では裏街道と言える道にもラッキーライラックのような印象深い馬がいたことがその濃密さを増しているとともに、記憶にもしっかりと刻んでおきたい。
昨年に続いて阪神で行われるエリザベス女王杯。その昨年はこのコースにしては速い上がりで中団及び後方の外から差し込んだ馬が上位を独占しましたが、今年のメンバーで最先着のウインマリリンは好位のインから進める真逆の競馬で4着し、今年は牡馬相手の重賞を2勝。まともなら最も有力な存在でしょうか。
テルツェットも面白そうです。前走は直線の短い函館で後方から鮮やかに差し切りましたが、タフな馬場の非根幹距離という点では今回と似通った条件。日本馬初のBC制覇を成し遂げた叔母に続きたいところです。
それではー