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馬券裁判当事者が語る「競馬と税金」

つい先日、お笑いトリオ「インスタントジョンソン」のじゃいさんが、馬券の払戻金に対し多額の追徴課税を受けたことについて、自身のyoutubeチャンネルで公表しました。

この件に関しては、各種メディアやSNSを通じてさまざまな情報が飛び交っていますが、不正確な情報が多々混在しているように見受けられる現状に、過去に馬券裁判を経験した者として大変危惧を抱いているところです。


私個人は、国を相手に訴訟を提起して最終的に勝訴を勝ち取りましたが、決して「自分が勝てばそれでよい」と考えているわけではなく、馬券の払戻金に関する国税庁の対処方針に対し、今でも言葉に言い表せないほどの憤りを感じながら日々を過ごしています。

そのため、じゃいさんをはじめ、期せずしてトラブルに見舞われてしまった方々に徹底的に寄り添うというのが私の基本スタンスなのですが、国税庁を相手に徹底抗戦するためには、現行の法律や過去の判例についての正確な知識を持ち、それを基礎としてとことん理論武装しなければなりません。

さもなければ、なんと言っても相手は国ですから、どんなにこちらが感覚的に正しいことを言っていても、裁判で勝つことは難しいでしょう。


そこで今回は、ひとりの馬券裁判当事者として、現在広く拡散している情報をまずは簡単に整理しておきたいと思います。

1.じゃいさんが発信した内容について


先日、私もじゃいさんがyoutubeで発信したコンテンツを拝聴し、各種メディアの報道が、概ね事実を伝えていることを確認しました。

その一方で、じゃいさんが言及した内容の中で、いくつか正確に伝わりづらい部分があったので、まずはそれらの点について、若干補足しておきたいと思います。


まず一点目は、じゃいさんが「法律だから税金を支払った」とする点に関して。

じゃいさんが言う"法律"とは、おそらく所得税法を指すのだろうと考えられますが、所得税法に競馬の払戻金が非課税になるとの記述はありませんし、宝くじと当せん金付証票法の関係性のように、特に別の法律で非課税と規定されているわけでもありませんから、原則として競馬の払戻金に税金がかかるという認識については、基本的に誤りはないものと考えられます。

その一方で、「はずれ馬券が経費になるのかどうか」という部分に関しては、所得税法等の法律の中で、具体的に何かが規定されているわけではありませんから、今回の追徴課税がはずれ馬券を経費に算入できないという国税庁の判断の下に行われたものだと仮定とすると、じゃいさんがおっしゃった「法律だから税金を支払った」というコメントは、やや正確性に欠ける部分もあったのだろうと思います。


この点、実際、じゃいさんが「競馬に関する部分の税金もちゃんと納めていた」という趣旨の発言されていることからすると、「法律だから税金を支払う」という行為は、税務調査が入る前にすでに履行済だったわけであり、今回の追徴課税の部分については、決して法律に基づいてなされた処分であるとは断定できず、国税庁側の一方的な解釈によりなされたものであるとみることもできるのではないでしょうか。

もちろん、仮にじゃいさんが訴訟を提起したとしても、裁判所がじゃいさん側の主張を認めず、国税庁の判断を是認する可能性もあるわけですが、少なくとも現時点においては、じゃいさんに対する今回の追徴課税の妥当性について法律的な担保があるわけではありませんから、その点について私たちは誤解をしないようにしたいですね。


そして二点目、裁判にかかる時間と費用について。

まず裁判にかかる時間について、じゃいさんは「少なくとも6年」と言及しておられますが、私もその認識でいいのだろうと考えています。私のケースでも、税務調査を受けてから最高裁で判決が確定するまで、約7年の年月がかかりましたから。


その一方で、裁判費用に関しては、じゃいさんの認識にややズレがあるんじゃないかと感じています。

というのも、確かに私のケースでも裁判費用は最終的に数千万単位となりましたが、あくまでもそれは裁判に勝ち、弁護士、税理士に対する成功報酬が発生したからであって、決して手付金の段階で数千万単位の費用を支払ったわけではありません。つまり、じゃいさんが「裁判を起こすのに数千万の費用がかかる」と理解されているのであれば、そこには大きな誤解があるのではないかと考えられるわけです。

もちろん、依頼する弁護士や税理士によっては、高額の手付金を請求されるケースがあるのかもしれませんが、少なくとも私のケースでは、手付金は常識的な範囲の金額に収めていただいたので、なんとか最後まで国と闘うことができたと思うんですよね。

よって、依頼する相手をしっかりと選べば、経済的な理由で訴訟提起ができないという事態は、なんとか避けられるんじゃないかと個人的には考えています。

2.所得区分について


じゃいさんの件も含め、競馬と税金に関する一般的な議論として、「はずれ馬券が経費になるのかどうか」というところばかりに焦点が当てられている印象がありますが、実はその前に「馬券の払戻金に関する所得区分」という非常に重要な論点があることは、意外と広くは知られていない印象も受けます。

私は法律の専門家ではないので、かなり端折った説明にはなってしまうのですけれど、端的に言いますと、課税区分が「一時所得」であると認定された瞬間に、はずれ馬券の経費性は否定されてしまうのです。

その反面、もし「雑所得」であると認められれば、ほぼほぼはずれ馬券も経費として認められるという帰結になりますから、国との争いの本丸は、所得区分の認定のところにある。そんな言い方をしても、差し支えないのではないでしょうか。

ちなみにこの論点に関しては、弁護団の一員として中心的な役割を果たしてくださった札幌弁護士会の綱森史泰弁護士の解説が、北海道新聞社の取材に答える形で同社のウェブサイトに掲載されていますので、参考としてリンクを貼っておきます。よろしければ、是非一度、精読してみてください。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/284168

3.一時所得と雑所得の分岐点


この論点に関しては、私の件に係る最高裁の判決の中で、下記のように説示されました。

所得税法上、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。


つまり簡単に言うと、私のケースでは、最高裁が証拠関係を精査し、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮した結果、その内実は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であり、すなわち所得区分は「雑所得」であると認められたわけですが、どのような実態があれば「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」と認定されるのか、この説示だけだと必ずしも定かではありません。

実際、高松の方の事例では、5年間のうちたった1年だけ赤字の年があったというだけで、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とは認められなかったケースもあります。

これは高裁判断なので、その後訴訟がどうなったかを伺い知ることはできませんし、最高裁に上がった時にどんな判断がなされるのか、あるいはなされたのかはわかりませんが、東京高裁は最高裁が言う"総合考慮"という方法を採用しつつ、実際は「利益発生の期間」がたった一年欠けていただけで「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とは認められないと判断しているわけですから、国税庁のみならず裁判所すらも、「馬券の払戻金は原則として一時所得、雑所得と認められるのはレアケース」と考えているようにも思われ、これは客観的に見て、われわれ競馬ファンにとって非常に厳しい現状であることを表しているとも言えるでしょう。

4.国税庁という悪の枢軸


現状、仮にじゃいさんが訴訟を提起したとして、勝訴できるのかどうかを私には見通すことができません。

ただ、もしじゃいさんが、追徴課税を受けた期間、すべての年度でプラス収支を計上していたとしたら、一気に勝訴できる可能性は高まる。そうは言えるでしょう。

じゃいさんは著名人なので、税務署に狙い撃ちされた可能性もありますが、このような税務調査の実態が明るみに出るのは、おそらく氷山の一角ではないのかな、と。同じようなことを一般の競馬ファンにもやっているのだとすれば、本当に許せない気持ちになります。

馬券を買って楽しんでいるだけで破産するなんて悲劇が、この日本という民主主義国家で起こっていいわけがないのですから……。


実際に国と租税訴訟を闘ってみて私が感じたのは、租税訴訟で納税者側がなかなか勝てないのは、理論武装の部分で、なかなか情報共有が図られていないからだと思うんですよね。

相手の国からしたら、国税に係るすべての租税訴訟の当事者なわけですから、そりゃあ納税者側を打ち負かすためのノウハウを、「これでもか!」というくらいたくさん蓄積しているわけですよ。

実際、大阪の方の裁判では、国は「ソフトを使用して機械的に馬券を購入していたとしても、一般の競馬愛好家の馬券購入の方法と根本的に違いはない」という趣旨の主張をしていたのに、それが私の裁判になった途端、「ソフトを使用していないのだから、一般の競馬愛好家が行う馬券購入の態様と何ら変わりはない」と手のひらを返したような主張をぬけぬけと展開するのですから、彼らに正義なんてものは、もともと存在しないのです。

そう、ただ裁判に勝てさえすればいいんですよ、彼らは。国のプライドが守られれば、たとえ一般国民の生命と財産が脅かさようとも、「そんなの関係ねー」ってなわけ。そんな相手に裁判に負けて一生借金を背負い込むなんて、とても許容できないじゃないですか!


そんな悪の枢軸を正面から打ち負かすには、私たち競馬ファンも連帯しないといけない。私の場合は、とても優秀な弁護団に巡り合えたおかげで勝訴という成果を得ることができましたが、もし味方につける人物を間違えていたら、おそらく裁判に負けていただろうとも思っています。

その意味でも、今はさまざまなツールを利用して情報共有を図ることができますから、国がこうして国民の生命と財産を脅かすような理不尽な攻撃を仕掛けてくる以上、私たち競馬ファンは心をひとつにして、国と徹底的に闘うしか方法はないのでしょう。


現状、日本の競馬ファンにとっての最大の敵は、北朝鮮でも、ロシアでも、中国でもありません。何を隠そう、外向けには平和な民主主義国家を標榜している、まさにこの日本という国自身なのです。

国会議員の中には、実際、馬主もいれば、競馬ファンもいるわけです。ですから、じゃいさんもご指摘のように、その方々にはこの現状から目を背けることなく、しっかりと頑張っていただきたいですよね。

そして、競馬とかかわりが深いことを隠して選挙に勝とうとする政治家がいるのだとしたら、決してそんな輩に投票してはなりません。全国の競馬ファンや関係者が団結したら、ひとりや二人、選挙で落とすことだってできるはずなんですから。


今回のじゃいさんの告白に触れ、私たち競馬ファンもそれくらいの強い気概をもって政治と向き合っていかなければならないのではないかと、あらためて思い至った次第です。

決して他人事とは思わず、いつかこの国にも平和に競馬を楽しめる日が来るよう、私たちも努力していけたらいいですね。

じゃいさん、国と闘う覚悟ができたら徹底サポートします。ツイッターのメッセージでも、弁護士の先生経由でも構いませんから、いつでも連絡ください!

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