第55回 スプリンターズSの回顧
台風通過後にもかかわらず、前週よりも高速化した中山の芝コース。
バイアス自体に大きな変化はなかったものの、全体時計も上がり時計も速くなる傾向が強まった分、基本、後ろから外々を回って差すのは物理的に難しくなっていました。反面、とにかく前に行けばいいというわけでもなく、位置を取れたハイポテンシャルな馬だけが、勝負に参加できるというわかりやすい図式になっていたと思います。
レースでは、モズスーパーフレアが楽に行けたこともあり、思いのほかペースが上がらなかったですね。馬のキャラを考えれば、松若Jがもっと飛ばしていくかと思っていたのですけれど、どちらかというと溜め逃げに近い形になった分、好位の馬群がバラけることはありませんでした。
こうなると、外々を通って追い上げるのはかなりのストレスになりますから、前目、内目の馬を通った馬の活躍が目立ったのも、大いにうなずける結果だったと思います。
もちろん、案の定というかなんというか、メイケイエールが後ろのほうでいろいろとやらかしたこともあり、より前目有利の傾向が強まったこともありましたが……。
勝ったピクシーナイトは、完勝でしたね。
レースの流れを考えると、ポジショニングは絶好。思いのほか先行馬群がバラけなかったことで、4角で包まれかけて危ない場面がありましたけど、脚が残っていた分、不器用なりにこじ開けるようにして間を割ることができたように思います。
この馬、見た目の印象としては「馬力で押すスプリンター」って感じなんですけど、その割に時計勝負にも対応できるのが強みですね。千二なら追ってからもしっかりと脚を使えますから、レースぶりも実に安定。まだ3歳ですし、このまま無事に行けば、歴史に名を残すスプリンターへと成長する可能性もあるでしょう。
それから、福永Jのコース取りにも触れておきます。好スタートからあの行き脚ですから、その気になれば、3角までに外に出すスペースを作り出すことができたと思うのですが、あえてそれはやらずに、インのポケットで我慢するという選択をしました。
これは、この日のトラックバイアスを完全に読み切っていたことの証しでもあり、こうした福永Jの"アタマ"の部分に対する信頼度はMAXですね。福永Jは、秋のGⅠシリーズでたくさんの有力馬に騎乗することになりますが、基本、"アタマ"にスランプはありませんから、このブレイクはもう本物と考えていいように思います。
2着レシステンシアは、終始前目でスムーズに運べていたとはいえ、勝負どころからビアンフェの外を回される形にはなっていて、決して楽なレースだったわけではなかったと思います。
そんな中、最後、3着馬との追い比べを制したのは立派で、相変わらず強さはさほど感じさせませんが、この距離なら、安定して力を発揮できるところは見せてくれたのかな、と。
3着シヴァージは、好スタートからインのいいポジションを無理なく取り切れたのがすべて。この形になれば、当然、しまいは伸びてきますから、今回は、作戦面も含めた吉田隼Jの大ファインプレーと言っていいでしょうね。
どこまで再現性があるかはともかく、こんな器用なレースができるなら、今後、脚質面からくる取りこぼしのリスクは格段に下がります。この馬の新しい一面を引き出したという意味でも、この好走は、次につながる価値あるものになったと考えていいでしょう。
4着メイケイエールは……。終始外々を回って、それでもここまで来ているのですから、やはり秘めたる能力は高いのですよね。
ただ、タイセイビジョン、エイティーンガールが、この大舞台で力を出し切る場面を奪った罪はやはり大きいですし、いくら決められたルールの中でやっていることとはいえ、レースを使ってくる以上は、もっとしっかりと準備ができていないとダメなんじゃないでしょうか。チューリップ賞や桜花賞の教訓が生かされなかったことは非常に残念ですし、JRA、厩舎関係者は、もっとファンの立場になってものごとを考えないと。
レース後、池添Jが謝罪のツイートをしていましたけど、メイケイエールの暴走は今に始まったことじゃありませんし、レースに騎乗するジョッキーが一人でどうこうできるレベルの話ではないのですから、結果責任を池添Jに背負わせるのははっきり筋が違います。う~ん、この馬に関しては、やっぱりモヤモヤしか残らないですね。
5着モズスーパーフレアは、なんとか掲示板は確保しましたけど、思った以上に淡白なレースぶりになってしまいました。
いずれにしてもピクシーナイトには敵わなかったと思いますが、前半を32秒台半ば~後半くらいで入っていたら、はたして結果はどうだったか。この馬のキャラを考えると、そこはちょっと悔いが残りますよね。平均ペースの逃げが作戦かどうかはわからないですけど、やっぱり松若Jが日和った感は否めず、なんとも消化不良のレースになってしまった印象でした。
6着ダノンスマッシュは、前半に馬群がバラけなかったことで、前に馬を置く形がつくれませんでした。結果論ですが、この外枠が完全に災いした形で、こうなると、勝負に絡めないのも仕方がないでしょう。この形での6着は、妥当というか、むしろ走っているほうと言えるのかもしれませんね。
11着ジャンダルムは、これだけ流れが落ち着いてしまうと厳しいですし、外からメイケイエールに被された時に、ムキになってハミを取ってしまったのも痛かったですね。敗因は、トラックバイアスやら展開やら、いろいろあったと思いますけど、力負けというよりは今回はハマらなかったと理解するのが正しいような気がしています。
12着タイセイビジョンは、今回の馬場で最後方から4角大外では、さすがにノーチャンスだったと思います。もちろん、メイケイエールに体当たりされたことによるロスは致命的でしたけど、なんで3角からガラッと空いた内に突っ込まなかったのかは、ちょっと意味不明ですね。
おそらくですが、インを選択していたら、掲示板近辺には来ていたと思うのですよ。これが三浦Jの限界なのかもしれないですけど、かつて将来を嘱望されたジョッキーの現状としては、かなり残念な印象が拭えないな、と。
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