第82回 菊花賞の見どころ
明日は、菊花賞が阪神競馬場で開催されます。
個人的には、毎年お楽しみのこのレース。だって、このレース条件を走ったことのある馬が一頭もいないわけだから、いろいろと想像力をかきたてられるじゃないですか。
昨年は、大本命のコントレイルが勝ちましたけど、それでもアリストテレスにギリギリまで追いつめられるシーンを想像していた競馬ファンは決して多くなかったはず。そう、昨年の菊花賞に代表されるように、馬券の当たりはずれはともかく、あれこれと妄想を膨らますことができるレースという意味で、とっても楽しみなんですよね。
では、前置きもほどほどにして、早速、レースの見どころを解説していくことにしましょう。
阪神11R 菊花賞
まずはコース形態のおさらいからですが、阪神の3,000mは内回りコースを1周半するレース。そのため、その時々の馬場状態に関係なく、立ち回りの部分が、当然、大事になってくると理解すべきでしょう。京都の3,000mほど、枠順の有利不利はないですけど、やはり基本は、内枠に越したことはないと理解していいように思います。
それから京都コースとの明確な違いは、坂を2回登らないといけない点と、もともとのベースとなる馬場がタフなところ。つまり、一定のスタミナがないと、能力の高さだけでは、どうしてもごまかし切れないコースという言い方もできそうですね。
次に、阪神芝内回りコースのトラックバイアスですが、馬場の内目が少しずつ荒れてはきましたけど、基本はフラットと考えていいように思います。道中に関しては、内よりのやや馬場が荒れたところを通してでも、前に馬を置いて進めたほうが断然有利。そこはひとつ、大事なポイントになるのかなと思います。
時計も先週よりは出ているようですし、終始外々は何としても避けないといけません。とは言え、この多頭数ですから、ジョッキーのコース取りに対する意識が低いと、勝負に参加できずにレースが終わってしまうケースも出てくることでしょう。
さて、ここからは各馬の能力比較になります。
ダービー1,2着馬が不在ということで、大混戦と称される今年の菊花賞ではありますが、出走各馬がこれまでに示してきたパフォーマンスを丁寧に解析していけば、勝つチャンスのある馬は、ある程度絞られてくる。個人的には、そう思っているのですよね。
確かに簡単なレースじゃないけど、世間で言われているほど、何でもアリというわけでもない。これが、現段階における私見となります。
それでは、まず最初に春シーズンのレースから振り返ってみることにしましょう。
春の牡馬クラシック路線で、注目すべきハイレベルレースは5つ。その内訳は、共同通信杯、弥生賞ディープインパクト記念、毎日杯、皐月賞、ダービーとなるわけですが、この5つのレースは、相互に関係性を持っているので、その部分について、遡及的に考察してみたいと思います。
まず、はじめにダービーから振り返りますが、勝ち時計や道中のラップを再確認しても、はっきりハイレベルな部類のレースだったと思います。
ちなみにダービーで掲示板に載った馬は、皐月賞1,3着馬と毎日杯1,2着馬。それに牝馬のサトノレイナスという構成になっていますから、この結果を素直に受け止めるとするならば、皐月賞は、菊花賞の予想を組み立てる上で、重要なレースになると受け止めるべきでしょうね。
次に、弥生賞ディープインパクト記念。このレースは、行った行ったの決着だったこともありますし、当時断然人気だったダノンザキッドがこのレースを取りこぼし、さらに皐月賞を惨敗したことでやや影が薄くなった印象もあります。
ただ、冷静に振り返ってみると、勝ち馬のタイトルホルダーは、次走、ハイレベルの皐月賞で強い内容の2着。2着馬シュネルマイスターは、その後GⅠで1,3した後、秋は毎日王冠で古馬相手に強い勝ちっぷりを見せたくらいですから、当時考えていた以上にレベルが高いレースだったことは間違いありません。さらに言えば、このレースの4着馬は、セントライト記念2着のソーヴァリアントなんですから、やはりこのレースも重要な位置づけになると理解すべきでしょう。
そして、最後に共同通信杯。結果的に見れば、このレースの1,3,5着馬が、ダービーで2,1,3着なんですから、一見するとズバッとリンクしているように見えるのですが、当時2着で菊花賞にも出走するヴィクティファルスが、その後スプリングS勝ちこそあるもののやや精彩を欠くレースを続けていること、そして当時4着のキングストンボーイが、その後一線級相手にはまったく歯が立たなかったことなどを見ると、各馬が秘めたポテンシャルと着順とがあまりリンクしていない印象もあります。
よって、共同通信杯の着順は、参考程度にとどめるべき。そんな理解が正しいように思います。
このように春の対戦成績を振り返ってみると、菊花賞出走馬の中で、どの馬がハイレベルのパフォーマンスを見せてきたのかが、自然と炙り出されてきます。ところが、具体的に該当馬を探してみると、意外にも、弥生賞ディープインパクト記念1着、皐月賞2着のタイトルホルダーと、皐月賞3着、ダービー3着のステラヴェローチェしか名前が上がらないのですよね。
つまり、春シーズンの実績から、菊花賞でもポテンシャル上位に位置付けられる馬は、③タイトルホルダーと⑭ステラヴェローチェの2頭しかいないという結論になります。
次に、この2頭以外で、明確な裏付けがあって、勝負に絡んできそうな馬をピックアップしていくことにしましょう。
春シーズンは、プリンシパルSを勝ちダービーで9着したバジオウ、大寒桜賞を勝ち京都新聞杯で3着したマカオンドールの2頭が、ひとつのボーダーラインを形成していました。つまり、この2頭と同等か、それ以下のパフォーマンスしか見せられなかった馬は、クラシック戦線で勝負にならなかったということです。
これを菊花賞に当てはめてみると、「バジオウスケール」のほうは、ヴァイスメテオールを過大評価すべきでないことを示唆してくれること以外、さほど有効に機能しなくなってしまいましたが、「マカオンドールスケール」については、変わらず性能のよいものさしになってくれると考えていいように思います。
ちなみのこのマカオンドール、ちょっとムラ馬なんで、その評価が難しいところもあるのですが、こと中京の2,200m戦に関しては、すべて力を出し切るレースができているので、中京の2,200mと条件を限定する限り、ものさしとしての信頼度は高いのかな、と。
そうすると、この「マカオンドールスケール」から、春の京都新聞杯勝ちの⑤レッドジェネシスと、前走の木曽川特別でマカオンドールを一蹴した⑪ディヴァインラヴの2頭が、必然的に炙り出されてくることになります。
さて、どうでしょう。
ここまでに名前が挙がった馬は、計4頭しかいません。あとは、この4頭について、阪神の3,000mへの適性を考えて行けばよい。このように考えてみると、有力馬の絞り込みにさほど手こずることはないんですよね。
もちろん、このアプローチの方法が正しいかどうかは別の話です。結果を突きつけられてから、何かの間違いに気づくことだって当然あるでしょう。
ただ、自分自身で拠りどころになるデータを探し出し、それを信頼して予想を組み立てることって、とっても大事なんじゃないかと思うのですよね。結論が私と同じじゃなくても、全然構わないんですよ。自分なりの理論を組み立てて、「競馬力の向上」を目指してゆく。ここは、是非とも皆さんに意識してもらいたいポイントであることを、付け加えておこうと思います。
では、本題に戻りましょう。ここからは、個人的に思い入れのあるレースでもあるので、全頭解説を載せておくことにします。是非、ご参考にしてくださいませ。
①ワールドリバイバル
春シーズンは一線級相手にまったく歯が立たず、秋初戦の前走も、それほど成長した様子はうかがえない。先行力があって、人気薄で好走するタイプの馬ではあるが、さすがにここでは……。
②アサマノイタズラ
中山で外が伸びる馬場、そして瞬発力を要求されないレースになった時にめっぽう強いので、阪神コース、そして今の馬場への適性はかなり高そう。ただ、ハマり切った前走のセントライト記念勝ちと、スプリングS2着内容を見る限りは、ここでは力が足りない印象も。気性面に課題が残る点もネックで、当日のパドックの様子はしっかりとチェックしたい。
③タイトルホルダー
前走は、完全に包まれてレースにならずノーカウント。春シーズンのレース内容から、ここでも力上位は明らかだろう。前に行ける脚質も魅力で、この馬のキャラクターとコース形態はガッチリと噛み合っている。問題はスタミナの部分で、横山武Jの積極的な立ち回りが最終的にどちらに転ぶか。母系から距離はこなせそうだが、あまり前半からガシガシ行き過ぎると、末を失うパターンも一応は考えてはおきたい。
④ロードトゥフェイム
地味ながら、ほとんどのレースで人気以上に走る頑張り屋。短距離馬を多く輩出しているマツリダゴッホ産駒でも、この母の仔なら、距離に心配は要らないだろう。上がりがかかる阪神の馬場も合いそうで、ポテンシャル的には明らかに劣勢でも、半分くらいの馬を負かせる力は持っている。
⑤レッドジェネシス
この馬のベストパフォーマンスは、春のゆきやなぎ賞。道中で脚を使っているのに、直線で後続を突き放したレースぶりは圧巻だった。ダービーでは上位馬にまったく歯が立たなかったが、敗因は高速馬場への適性と鞍上の作戦面の問題。ここは、得意の阪神コースが舞台だし、この馬の特性をよく知る川田Jに手が戻るなら、ダービーの着順は気にしなくていいだろう。能力的にも、京都新聞杯勝ちの際に毎日杯4着のルペルカーリアとマカオンドールに完勝しているのだから、ここを勝てるだけの担保はあると考えたい。
⑥セファーラジエル
デビュー戦で、皐月賞5着のヨーホーレイクと接戦を演じているように、ここまで残してきた成績以上のポテンシャルを秘めていることは間違いない。馬のキャラ的にも、スパッと切れるというよりはパワーで押すタイプなので、レース条件も悪くないように思える。問題は、やはり気性面。道中で行きたがったり、逆にやめてしまったりと、長距離戦を走るには、不安要素のほうが大きいか。鞍上の立ち回りのうまさを考慮に入れても、計算上はやや足りない。
⑦ディープモンスター
アクシデントがあったダービーを参考外とすれば、皐月賞は善戦の部類でもあり、それなりの評価は必要なのかもしれない。ただし、やはりパンチ不足は否めず、ぶっつけ本番の臨戦過程にも割引が必要だろう。ある程度、距離には対応できそうだが、特にプラスに作用するとも思えず、どうにも強調材料に欠けるイメージしか湧いてこない。
⑧エアサージュ
ここ2戦連勝中も、前々走はともかく、前走はいかにも相手に恵まれた印象しかない。タイプ的に、特に出脚が速いわけでもないので、展開利も見込みづらいここは、苦戦必至と見る。
⑨ヴェローチェオロ
ひと夏越した前走が、思った以上に力強い走りで完勝。阪神適性の高さと、夏を越しての成長度を合わせて考えれば、それなりに侮れない面はある。ただしこの馬、ブルードメアサイアーの血が出ているのか、頭の高い独特の走法。イメージ的に、これ以上の距離延長がプラスに出るとは思えず、ならば、いいところ見せ場止まりか。
⑩モンテディオ
春は青葉賞で大負けせず、ひと夏越して権利取りに成功。菊花賞というレースへの適性に関しては、申し分ないものと考えていいだろう。ただし、前走は完璧なレース運びができての完敗。さすがにコース適性の高さだけで、馬券圏内に喰い込めるほど、GⅠの舞台は甘くないだろう。
⑪ディヴァインラヴ
前走の木曽川特別は、ローズSと同日に行われたレース。ラップ構成の比較から見ても、ほぼ互角といってレベルのパフォーマンスは見せられていた。しかも当時は、内1頭半分がまったく伸びない特殊なバイアスがあったわけで、刺さって入ってはいけないスペースに突っ込んでしまったこの馬には、見た目以上に大きな負荷がかかっていたはず。それを押しのけての好時計勝ちなら、素直に評価しない手はないだろう。レースセンスも良く、目立ったウィークポイントもない馬。あとは、小倉の長距離戦をこなしているとはいえ、究極の底力比べになった時がどうか。課題はそこだけ。
⑫ノースザワールド
ダートから芝に戻す際に、菊花賞の秘密兵器にならないか、個人的に注視していた馬。着順だけをみれば、連続2着と格好はつけているが、レース内容をよく分析してみると、普通の2勝クラスの上位馬程度の評価が精一杯であった。レースセンスがいい分、見せ場くらいはあってもいいが、さすがに勝ち負けまでは苦しいだろう。
⑬アリーヴォ
堅実で相手なり。春はヴェローチェオロと接戦を演じているくらいだから、まったく箸にも棒にもかからぬ存在ではない。ただし、距離延長がプラスかと言えばやや微妙だし、これまでに戦ってきた相手関係を考えると、やはりここでは荷が重そうに見える。あとは鞍上の意外性に期待か。
⑭ステラヴェローチェ
春は、ハイレベルのレースで好勝負を続け、秋初戦も、苦しい位置からの差し切りと、さすがの力を見せつけている。ただ、皐月賞は死んだフリからのイン強襲で、ダービーは自分の競馬に徹して馬場の一番いいところを通っての3着と、戦績ほどの強さを感じさせないにも事実。前走も得意の道悪が味方した部分もあって、どうにもピタリとは噛み合わなそうなこのレースで、どれくらいのパフォーマンスを見せられるか、未知数の部分も多い。
⑮ヴァイスメテオール
フィエールマンと同じ臨戦過程を歩むこの馬だが、レース内容をちゃんと比較すれば、フィエールマンに遠く及ばないことはすぐにわかる。前走は、低レベル戦で内を上手く立ち回って完勝しただけだし、プリンシパルSでは、出遅れて苦しい競馬を強いられた分があったとは言え、バジオウに完敗。この比較からすると、ここで好勝負できる裏付けには乏しい。外枠、距離延長も微妙で、触手を伸ばす理由を見つけることすら難しいのが率直なところ。
⑯グラティアス
皐月賞、ダービーではそこそこ見せ場をつくっていた馬だけに、前走のレース内容にはガッカリ。さらに今回は、輸送、外枠と悪条件が重なったように見えるし、短距離志向の強い厩舎所属でもあって、この条件で一気の巻き返しを期待するのはちょっと酷かも。
⑰ヴィクティファルス
デビュー2戦目にして、強い後のダービー1,2着馬に割って入ったこの馬だが、その後スプリングS勝ちはあるものの、やや期待外れのレースを続けている印象が強い。前走も、前が詰まったと言えばそうだが、開けば突き抜けそうな脚色だったわけでもなく、敗因はそれだけではないだろう。血統的な魅力はあるが、ここで一気の巻き返しを期待するのはどうだろうか。
⑱オーソクレース
ここまで崩れることなく堅実に走ってきたこの馬、鞍上に対する信頼度や前走からの上積みを考慮して、ここでもそこそこは人気するのだろう。ただし、前走はねっきりはっきりの3着だし、そこから上積みがあったとしても、アサマノイタズラを逆転するところまでがやっと。そんな印象も拭えない。血統的に距離延長歓迎と見る向きもあるが、体型的には中距離馬寄りでもあって、冷静に見れば、それほど強調点が見当たらないのも事実だろう。
では、最後にまとめを。
ここで取り上げるのは、内から順に③タイトルホルダー、⑤レッドジェネシス、⑪ディヴァインラヴの3頭。基本、ほぼ横並びの想定ですが、期待度の差が明確になるよう、一応、順番を付けておこうと思います。
中心は、⑪ディヴァインラヴで行きます。
実はこのレース、展開面が非常に読みづらくて、タイトルホルダーがレースを積極的に進め過ぎて失速するケースも想像できるし、逆にペースが落ち着いて、レッドジェネシスが脚の使いどころを間違えるケースも想像できるのですよね。
そんな中、⑪ディヴァインラヴには、どんなレースになっても対応できる器用さがありますから、その点を優先して最上位扱いとしました。よって、イメージとしては、勝ち切る期待よりも、馬券圏内を確保してくれる確率が高いという意味での選択。そう理解してもらいたいですね。
福永Jのことですから、おそらく好位のインで上手に脚を溜めてくれるはず。そうなれば、勝負どころで必ずひと脚は使ってくれるはずですから、仮に最後の追い比べで見劣ったとしても、先週のアンドヴァラナウト同様、馬券圏内は確保してくれるだろうと期待しています。
2番手は、③タイトルホルダー。この馬、皐月賞のレース内容が純粋に強かったですし、残り千m地点で一気にペースアップした中で、前受けして2着を死守できたということは、一定のスタミナを備えていることの十分な裏付けにはなります。
ここが田辺Jだったら、もっと評価を下げようかと思ったのですが、横山武Jなら、少なくとも脚を余して負けることだけはないでしょう。だとすれば、最低でも4角先頭のシーンは作ってくれるはずですし、出し切って失速する分には、同じ負けるにしても納得がいきますからね。評価は2番手ですけど、勝つ確率だけを言うならば、この馬を最上位としていいのかもしれません。
そして3番手が、⑤レッドジェネシスになります。
この馬、とにかくエンジンのかかりが遅くて不器用。反面、ひとたびエンジンがかかると長くいい脚を使える個性派なんですよね。下級条件戦を何度も勝ちあぐねたことを見てもわかるとおり、こうした不器用なタイプは、不発がどうしても頻発します。その分、3番手という評価にはしましたが、川田Jなら、勝負どころから強気に仕掛けていくはずなので、ダービーのような負け方をする心配は要らないでしょう。
あとは道中の流れと、仕掛けどころ次第。それがうまくハマれば、この馬が勝つシーンも容易に想像できますし、逆にハマらなければ、着外に沈むシーンもパッと頭に浮かんでくるわけですが、相対的な期待度では、上位2頭とほぼ同等の評価をしていいように思っています。
このほか、⑭ステラヴェローチェは、ここで勝ち負けできるだけの裏付けが十分にあるわけですが、どうしてもこの阪神の3,000mという舞台で、勝ち負けを演じるシーンを想像できなかったのですよね。
最終追い切りであっさりと遅れたことなど、ほかにも心配材料はあるわけですが、やはり消すと決めた理由は、自分なりのビジョンがパッと頭に思い浮かばなかったことに尽きます。なので、この馬にやられるのは仕方がないと割り切ることにして、ここは3頭に絞り込み、レースを観ることにしようと思います。
なにはともあれ、全馬無事で、そして昨年同様に、素晴らしいレースが展開されることを心から期待しています!
できることなら、みなさんの馬券が的中するとよりよいのですが……。
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