20才の頃、風呂なしアパートに簡易シャワールームを作った話
自分の中では全く大したことしたつもりはないものの、ふと人に話すとびっくりされるネタなので書いてみます。当時の写真とかは残っておらず文字ばかりになりますが、ご興味あれば…。
ご注意
20年近く前の話です。
賃貸契約違反なのはもちろんのこと、建物や人の安全に関わる事なので令和に生きる皆様は絶対マネしないでください。また書かれている内容について、当時お世話になった方に配慮して若干フェイク入れてます。
(おおむね事実)
昔の話ですが…。
カバー写真は2003~2005年頃の下北沢。まだ小田急線が地下化されておらず、そこらじゅうに「開かずの踏切」があった頃。
時代背景 (主観)
時は200X年。
”生まれた年が悪かった”…
これだけの理由で就職氷河期の辛酸を舐めさせられる先人を目の当たりにした私たちは、やっすい給料で搾取されるだけの「正社員」に見切りをつけ、「フリーター」という生き方を選ぶことで自由を手に入れようとしていました。
コンビニ
深夜アルバイト大募集!
22時~翌7時
時給1,100円!
フルタイム・フリーター大歓迎!
こんな、まともに考えたら異常でしかない求人がそこらじゅうにあふれていて(いや今も全然あるか…)、昇給もボーナスも有休も、なんなら社会保険すら付与されないまま働く若者達が、まだまだ豊かだった親のスネをかじりながら自由と不自由を満喫していた頃。
(ちなみに私はかじれるスネはありません…)
ご多分に漏れずフリーターとして貧乏暮らしをしていた(そしてご多分に漏れずバンドマンだった)私は、毎日巨大なゴキブリが出る下北のアパートに嫌気がさし、ついに引っ越しを決意します。
ターゲットは、高円寺
大好きだった下北を離れ、選んだ先は高円寺。
今どうなってるのかサッパリわかりませんが、当時の高円寺は貧乏人とアウトサイダーと飲んだくれに優しいディープタウンでした。
蛍光色の髪をハリネズミのようにセットしたモヒカンパンクロッカー、ボブマーリーとチェゲバラを崇拝するドレッドヘアのお兄ちゃん、革ジャンを着たタトゥーまみれのハードロッカー、売れない芸人と役者、全身インド服のスパイス男女、そしてもちろんサブカル系古着女子が入り乱れる高円寺。
個人経営のバーやカフェ、ファイヤーキングを置いた雑貨屋、オサレな古本屋、都心なのにアホみたいに安い八百屋と肉屋が常に価格合戦を繰り広げる高円寺。
ガード下にはむげん堂と安い飲み屋街、駅前で歌うミュージシャンとタムロ族、朝になるとあちこちに酔っ払いが落ちている。
ああ懐かしい。ゆるくて雑で器の広い街、高円寺。
私は酒が飲めませんが、24時間ワイワイしてる中央線沿いは「アタシ、東京にいる!!」って気分を味わうのに最高でした。
手取り15万で物件探し
色々記憶があいまいですが、たしか当時の私のバイト収入は手取り15万円ほど。風呂付アパートは駅からすごく遠いボロ物件でも6万以上するし、プラス光熱費もかかってしまう。
当時の私はいわゆる”バンド中心”生活でして、就職なんて全く考えてなかったし、そもそも中卒の自分がまともな仕事にありつけるなんて全く思っていませんでした。
「…じゃあ、家賃抑えればいいじゃーん!!」
なんとも短絡的な勢いで、固定費を5万円以内に抑えられる方法を模索しはじめたのです。
(※当時は低所得層向けの減税制度があって、住民税がとても安かったのです。さらに若気の至りで年金も払ってなかったので手取りが多かった。良い子はマネしないでね。…。あの減税制度を復活させたらみんな凄く助かると思うなぁ。)
風呂ナシ物件の相場
今は多分相当数がなくなっていると思いますが、あの頃はまだ「風呂ナシアパート」がちょこちょこ残っていました。たいてい今にも崩れ落ちそうなボロい木造の建物で、部屋は6畳ほど、専用トイレがついてれば4万円、トイレ共同タイプなら2.5万円からといった相場。
風呂ナシにいる住人のほとんどは男性だし、そんな家に住んでる感じの人たちなのでプライバシーゼロ、モラル崩壊したカオスな異世界であることを覚悟しなければなりません。
(風呂ナシに住んでた友達がいたのですが、隣室の携帯バイブレーションが普通に聞こえた時は衝撃だったなぁ…。)
20歳だった無鉄砲な私ですが、あまりに不衛生かつプライバシーが保てない家は無理…。ごくたまに女性専用の風呂ナシ物件が現れたりするので、狙うならそこだ!と思っておりました。
さて、予算的に風呂ナシ決定となった状態で、私に残った風呂オプションは一体何があるのか。
銭湯
一番メジャーな方法は、銭湯に通う事。
いまや絶滅危惧種というか、ある種現代のアミューズメントと化した銭湯。当時の東京には昔ながらの銭湯がまだ結構残っていて、地域の憩いの場(?)として大いにその機能を果たしておりました。
しかし、一回の値段は400円。一カ月30日通えば、12,000円。
…うーん、高い!!
私の中のドケチ根性が首を縦に振りません。もともとカラスの行水タイプでシャワーがあれば全く問題ないもので、銭湯の醍醐味である湯舟にそこまで魅力も感じない…そこに毎日400円も払う価値は見出せず、毎日通うくらいならさっさと風呂付探した方が早い…。
しかも!冬になったらめちゃめちゃ寒い中凍えながら行き来しなくちゃならないし、夏は風呂上りですっきりした途端に汗だくで帰らにゃならん。そんな生活…無理!
いや、その前にまずね、女性には超絶厄介な”生理”があるんです…。
※補足
ピンと来ない男性諸君の為にアラフォー姉さんがわざわざ丁寧に書いて差し上げますけど、生理になるとアソコから血がポタポタ(時にドロドロ)流れ続けるので、水を汚さないため共同浴槽に入ることはできません。洗い場でシャワーだけなら浴びられますが、知らない人が見ている場でアタクシの赤い水が流れる様を公開するのはかなり抵抗があるのでやはり無理。
生理は通常1週間程度続くし、状況によっては1日に何回かシャワー浴びたいし、そもそも生理っていう哺乳類の仕組みは全世界から消えてなくなってほしい・・・(若いころ、痛すぎて2回救急車呼んだ人の叫び)
そんなわけで、せめて生理中は自分の家で風呂に入れる状況にしたい…。
コインシャワー
そういえば高円寺には、2か所くらいコインシャワーがありました。値段は忘れたけど銭湯より安かったはず。
ただしシャワー個室は男女共用だし、前の人の使い方がひどかったら最悪だし、銭湯と同じデメリット「冬寒い、夏暑い」問題を解決できてない。
あれ…女性専用もあったのかな…?いや、「風呂ナシ」人口の大半が男性なので、つくっても儲からない=存在してなかった気がする。
もし家のすぐ隣にコインシャワーがあるなら考える余地もあったかも…いやいや、冬場に意を決して向かってみたら全部埋まってたとか、ドアあけたら髪の毛とか大量に落ちてて入る気なくしたりとか、そういうリスク考えるとやっぱりナシ。
そこで思いつきました。
ないなら、つくればいいのよ。
えっ天才?天才なの?マジ?すごくね?
なんでみんなやらないの…?
どんな方法で作るのか、そもそも個人で風呂を作ることなんて可能なのかもわからないまま、私は自分のクレバーっぷりに大興奮しておりました。
…ちなみにわたくし、DIYが得意でもなんでもなく、むしろ不器用オブ不器用です。しかしですね…私の生来備わった異常なほどの節約精神そして「バイトは増やしたくない」というダメ人間根性が私をこの妙案へと導いたのです。
風呂が作れる部屋とは
早速、今となっては考えられないほど遅~~いインターネットを駆使して情報収集をはじめました。TwitterもFacebookもYoutubeもないので、誰かが乗せてるブログ記事をコツコツあさる日々。
一週間ほどで、”風呂っぽいもの”を作る手段と必要な材料を確認することができました。
第一条件: 排水
まず絶対的に「排水」が必要です。考えてみれば当然ですが、風呂からでた水を流す場所がなければ、風呂はつくることができないのです…。
風呂ナシアパートで「排水」ができる部屋はずばり…
”洗濯機置き場”のある部屋!!!!
そこには、必ず排水用の穴が備わっていて、好きなだけお湯を流すことができる。
第二条件:お湯が出る
風呂ナシ物件の場合、そもそも部屋にシンクがなく水が通ってなかったり、あってもガスが引かれておらず水Onlyだったりします。コツコツお湯を沸かして洗面器にためて行水する人もいるかもですが、ワタクシほら、一応女性ですし、髪も洗いたいですし、少量の水でやりくりするなんて到底不可能。
なお、風呂ナシアパートの共有スペースに炊事場があり、そこに瞬間湯沸かし器 (若い子知ってる?)が設置されていることがあります。これがあれば最低限のお湯を確保できる…かもしれないけど、みんなが料理する場所で髪洗ったら迷惑だし、全身洗うなんてもちろん超NG。
やはり部屋にお湯が来ていない限り、私が望む風呂は実現できません。
(瞬間湯沸かし器って秒でお湯が出て便利だけど、日本では少なくなってるね。私のセルビアのおうちにはあるよ!便利だよ!)
第三条件:浴槽(バスタブ)が設置できる
お湯を引いたならば、そのお湯をジャーッと体にかけられる空間が必要です。しかも絶対水漏れしないように、深くて丈夫でコンパクトな…そう、浴槽が!!!
※さすがにお湯を貯めようとは思ってません
バスタブにはもちろん排水穴がついてるわけで、そこにホースをつないで洗濯機用排水溝に流せばよいのです!
さらに!!!
この浴槽の内周をぐるっと囲うようにシャワーカーテンをつければ…
アラ簡単!簡易シャワールームのできあがり!!
え?なに?天才?天才なの…?
※当時の私の感想です
血眼になってヤフオクを探したところ、写真のようなバスタブを配送込み1万円で発見。
※知らない方の為に説明すると、上の写真はバランス釜タイプのお風呂。昭和の産物ですね。お風呂に入るときは浴槽に一度水を貯めてから、横のボイラー?でお湯をわかします。
メリットは追い炊きができること、デメリットは沸かしすぎると超高温になること、なによりも全てのステップが面倒臭いこと。
17歳の時に下北で住んだアパートがこのお風呂でした。冬は水圧が弱すぎて凍えたなぁ…。
第四条件:バスタブと湯沸かし器の距離が近い
最後に気にしなければならないのが、バスタブと湯沸かし器との距離。
洗濯機置き場にある蛇口は水しか出ないので、キッチンに設置されているであろう湯沸かし器の蛇口からバスタブまでお湯をひかねばなりません。本来水が流れるべきでない床の上をお湯が通ることになるので、繋げるホースの距離は短いほど◎。
…さらにいうと、お湯をジャーッと出すためのスイッチはバスタブ側ではなく湯沸かし器側についているので、この距離はやはりできるだけ短くなければなりません。
物件、あったわ
オンラインの賃貸検索サイトをあさっていたら、見つけてしまいました。
JR高円寺駅 徒歩5分
女性限定
風呂なし
トイレ付
2階
和室10畳+キッチン2畳
光熱費込み 50,000円
さらに…
キッチン(湯沸かし器!)
洗濯機置き場あり (排水アリ!キッチンのすぐ近く!!)
速攻で不動産屋にかけこんで交渉し、すぐに契約。
この物件、普通に人が住んでいる一軒家の2階の一部で、外階段から自分の部屋に入れる仕組みになっています。THE 和室だけどとても広いし、大きい押し入れもあって最高でした。なにより安い。そして駅近…!
風呂、作った
必要部品を買い物
すぐにでもシャワーを完成させたい私は、入居したその日に東急ハンズへかけ込み、
・水道用ビニールテープ
・長~いシャワーホース
・シャワーヘッド
・シャワーホースと蛇口をつなげそうなパーツ
・排水用ホース
・シャワーカーテン
・シャワーカーテンを天井にとめる留め具など(画鋲みたいなピン)
を買いあさりました。
ていうか、ちゃんと完成できる保証なんてどこにもなかったのに今考えたら本当に無謀だったな…。
ハンズから家に戻り、早速長~いシャワーホースの取り付けに取り掛かる私…。
が…
写真が残っていないのが残念ですが、部屋は上の写真のようなキッチンでして、こういう瞬間湯沸かし器って独特の蛇口の形してるんですよね。「これなら繋げられるかな」と当てずっぽうで買った部品ではホースが全くかみ合わず大苦戦。
当然ですが、瞬間湯沸かし器ってのはガスが通っているわけで、その蛇口からさらに何かを繋げるなんて全く想定されてない(いや危険だし)のですよ。もちろん接続アダプターもないし…ここは根性でなんとかするしかありません。
再度ハンズを巡った結果、なんとかしてホースを接続することに成功。
(ここの詳細覚えてないけど、確かに繋げられました)
バスタブ
さて、次がバスタブ!!
ヤフオクで買ったバスタブを入居日に合わせてを搬入してもらったのですが、これがかなりリスキーでした。
というわけで、同じ建物に住んでいる家族に見られないタイミングを見計らってサササーーッと家の中に運び入れてもらいました!!!
いやーあぶなかったな!!
…ていうかマジで当時の自分アホやな!!
排水セッティング
バスタブの穴はバスタブの底部分についているわけで、そこから排水溝にホースを引く為にはバスタブを少し底上げしなくちゃいけません。というわけで下のようなブロックをどっかからもらってきてバスタブの下に設置。
(高円寺で知り合った園芸の人にもらった気がする…。)
排水ホースはたしか普通にスポッとはめてピンでとめて、そこに防水テープで固定することで問題なく接続できました。おそるおそるバスタブに水を流してみたところ、無事に排水できて感動したなぁ。
シャワーカーテンで空間を囲う
シャワーを浴びるからには水ハネ必至。
お部屋を濡らして大家さんに迷惑をかけてはいけないので(いやこの時点で大迷惑)、シャワーカーテンをピンで天井にくっつけて、バスタブの内周に沿ってぐるっと垂らす形で四角いシャワールーム(偽)を作成しました。
部屋の天井がやや高めで、知り合いから脚立を借りてつけた気がする。
いよいよ、ホースからお湯をだす!!!
ドキドキしながら、瞬間湯沸かし器につながったホースを伸ばしてお湯をだしてみたところ…
見事、開通!!!!
無事にシャワールーム的な風呂が完成しました!!
これで、銭湯に行かずに、タダで風呂に入れる…。
(光熱費が家賃に含まれている)
私のド貧乏根性が、見事に実を結んだ瞬間でした。
…いやいやいや、今考えたら絶対ガス代と水道代が跳ね上がってたはずですよね…。当時の大家さん、本当にごめんなさい…。
風呂ナシ部屋の風呂アリ生活、あっけなく終わる
はい。
結果的に言うと、この生活は8カ月で終わりを迎えます。
ショボいながら自作したこのシャワールームは問題なく機能していましたし、銭湯に行かず24時間好きな時間にシャワーが浴びられるのは最高の一言に尽きましたが、冬が来るにつれ、瞬間湯沸かし器の弱っちい水圧では体が冷えて仕方ないということに気づかされてしまったのです…。
さ、ら、に…
このアパートについていた専用トイレが和式だったのですが、これを使っていくうちに私の高貴な衛星観念が限界を迎え、使用に耐えられなくなってしまいました。
まさか風呂ではなく、トイレが原因でギブアップするとは…。
たまたまちょうどよい条件で部屋が見つかったこともあり、今度は普通に風呂のある部屋に引っ越した20歳の私…。
・・・
かける言葉、ナシ!!!
あほか!!!!
みなさま、どうか絶対にマネしないでくださいね。
ご清聴、ありがとうございました。