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忍殺TRPGソロリプレイ【イタチを求めてジャングルへ】

ドーモ。今回は2019年8月にTwitter上にてプレイしたソロシナリオのリプレイ小説を投稿させていただきます。プレイしたのはどくどくウール=サンの【イタチを求めてジャングルへ】です。

挑戦するのは目付きの悪いお嬢様育ちで工場勤務経験ありの女ソウカイ・ニンジャ、デッドリーチェイサー。

ニンジャネーム:デッドリーチェイサー
カラテ:4
ニューロン:4
ワザマエ:5
ジツ:3(カトン)
体力:4
精神力:4
脚力:3
装備:カタナ
レリック:なし
サイバネ:なし
生い立ち:実家のカネ(初期万札+10)
名声・ソウカイヤ:4
万札:12

なお、難易度はノーマルでプレイしています。元シナリオに固有名詞を追加したりしていなかったりしますが、ご了承ください。

ヘッダー画像の使用元はこちら(https://www.photo-ac.com/main/detail/3041572)です。

プロローグ

 ネオサイタマはトコロザワ・ピラー、ショドー作業室。「ドーモ、わたくしはデッドリーチェイサーと申します」陰鬱な目つきの女ニンジャは正座し、オジギを行った。「これはご丁寧に。ドーモ……」そう言って彼女と相対するニンジャ――キモノ姿の奥ゆかしい女性ニンジャは、一枚のショドーをその場でしたため、差し出した。

 そこには美しい書体で『ハーフペーパー』と記されている。彼女のニンジャネームであった。ネオサイタマ在住ではない読者諸兄には説明せねばなるまい。この所作は、ショドーで身を立てている者の正式なアイサツである。「おお……」思わずため息が漏れる。なんたるショドー技量か。ショドー10段……否、30段はくだるまい。

「……して、オーガニック・イタチというのは……あの動物のイタチでよろしいのですか?」デッドリーチェイサーはピラーの廊下に貼り出されていたショドー貼り紙を懐から取り出した。『とある事情で失ってしまったショドー筆を新調したく、素材となるオーガニック・イタチを捕獲してきて下さる方を募ります……』

 ハーフペーパーは頷く。「左様です。古来よりイタチの毛は筆の素材として最良とされておりますが……タマチャン・ジャングルに生息するオーガニック・イタチの毛は、特に弾力としなやかさに優れているのです」「なるほど……」デッドリーチェイサーは頷いた。

 タマチャン・ジャングルはネオサイタマ北部、中国地方の大半を占める広大な原生林である。方位磁針やGPSも用を成さず、凶暴なバイオアニマルがヒトを襲う、都市部とはまた違う恐るべき地なのだ。「そこにオーガニック・イタチが生息しているのですね」

「入門者向けの安価な筆は養殖バイオイタチの毛を使うことも多いのですが、やはりオーガニックの品質には敵いません。……如何でしょう? いくらか前金をお渡しした上で、成功報酬は……この程度、となりますが」ハーフペーパーは細筆で金額をしたためる。彼女は謙遜しているが、悪くない金額だ。

「承知しました」デッドリーチェイサーは頷いた。「吉報をお待ち下さい」ハーフペーパーは微笑んだ。いざ行かん、タマチャン・ジャングル。

前金として【万札:2】獲得。

1.

 工場地帯から遠く離れたタマチャン・ジャングルは、重金属酸性雨などとは縁がないとばかりの、雲ひとつ無い快晴であった。もっとも、原生林特有の湿度から、照りつける日差しは却って不快感を煽る。帯刀したデッドリーチェイサーは道なき道を進む。……その時!

「ガァァァァッ!」突如彼女のもとに飛び出してきたのは、恐るべき巨躯の野生生物……すなわち、バイオパンダであった。読者の多くはパンダといえば動物園でバンブーの葉を食べながらタイヤで遊び、愛嬌を振りまく姿を思い浮かべるであろう。しかし野生のバイオパンダは違う。彼らは無慈悲な肉食獣である!

 腹を空かせた猛獣を前に、デッドリーチェイサーは眉一つ動かさず……代わりに、ムチのように右手を走らせる!「イヤーッ!」ニンジャの武器、スリケンである!「ギャウンッ!?」スリケンはバイオパンダの額に命中し、獣は悲鳴をあげた。「ギャウン!」獣は踵を返すと、その場から逃げ去っていった。

 デッドリーチェイサーはスリケンを拾い、歩き出した。「……バイオパンダは美味しくないですよね。多分」彼女の同居人は育ち盛りの少女が1人と、放っておくとケミカル菓子だけで1日を過ごしかねない不健康者が1人。そのため、美味で栄養豊富な献立を考えるのが、デッドリーチェイサーの直近の命題である。

「グリズリーは右手が美味しいと聞きますが、パンダはどうなのでしょう」ブツブツと思案する彼女だったが、その優れたニンジャ感覚は頭上の奇怪な音を聞き逃さなかった。「……なんですかね?」直後、何かが大量に降り注いだ! ナムサン! ぬらぬらとした全長15cmほどの、吸血ヒルの大群!

 ひとたび肌に食らいつけば容易には離さず標的を粘液まみれにしてしまう恐るべき吸血ヒル達はデッドリーチェイサーの胸部目掛けて落下し……その全てが目測を誤ったとばかりに地に落ち、ビタビタと跳ねた。「……」デッドリーチェイサーは何か言いたげな表情を一瞬浮かべたが、思い直して先へと歩を進める。

 その後も様々な困難が彼女の前に立ち塞がった。落下してくる毒蛇、落下してくる毒グモ、落下してくる毒サソリ……デッドリーチェイサーはその全てを踏破し、タマチャン・ジャングルを進む。日差しは相変わらず強く、女ニンジャは額にじんわりと汗が浮かぶのを感じた。

「……あら?」やがて彼女の目前に現れたのは、ブリキの煙突を備えた木製の小屋であった。ニンジャ感覚は人の気配を感じ取る。そして、鼻孔をくすぐる獣の脂の香り……。「これは……?」興味を覚えたデッドリーチェイサーは小屋の入り口を覗き込む。表札の類は無い。

 小屋の中でなにかの作業をしていた老人も、デッドリーチェイサーの気配に気付いたようだ。「なんじゃい、お前さんは」気難しそうな老人だった。両手の指には黒い煤が染み付いている。小屋の入り口には旧式ながらよく手入れされた猟銃が一挺。(この方は……猟師? ……いえ、恐らくは……)

 デッドリーチェイサーは姿勢を正し、オジギを行った。「ドーモ。わたくしはアカギ・ホオヅキと申します」ニンジャネームを名乗らなかったのは、不要なトラブルを避けるためだ。「……墨職人のお方とお見受けいたしましたが」老人はオジギを返した。「如何にも左様。ドーモ、クロジです」

2.

「ほう。筆の材料調達を依頼された、とな」クロジと名乗った老職人の小屋……工房に通されたデッドリーチェイサーは事の次第を説明した。ニンジャであるとは明かさなかったものの、己がヤクザであることは隠さなかった。相手は人生経験豊富な職人だ。隠したところで見抜くだろう。

 デッドリーチェイサーは頷き、クロジが出したチャを飲んだ。「ありがとうございます。ご馳走になってしまいまして」老職人は笑った。「わしをひと目で墨作りの者と見たのが気に入った。よくわかったな?」「貴方の指の煤の痕と、動物……バイオ鹿の脂の臭いで推理したまでです」

 伝統的な高級墨は、木を燃やして作った煤を、脂で固めて作る。脂は鹿のものが最良とされる。「成程タマチャン・ジャングルであれば、木にもバイオ鹿にも困らないということですね」デッドリーチェイサーは感心したように頷いた。「そういうことだ。もっとも、わしは既に引退の身だがな」

「ネオサイタマにはもうわしの墨を必要とする者はおらん。どうせ家族も無い」それでも今なお、墨を作り続けるのは……職人の本能であると、クロジは言った。「飯を食い、水を飲むのと同じよ。それなくては生きていけんのさ」デッドリーチェイサーは何も言わず、チャを飲んだ。

 クロジは腕を組んだ。「しかし……オーガニック・イタチか。確かにこの先に群生地がある。あるにはあるが……危険だぞ」その言葉にデッドリーチェイサーは首を傾げる。「イタチとはそれほど危ない動物なのですか?」クロジは頷く。「ただのイタチならばかわいいものだ。だがな……」

 ……しばし会話を交わした後、デッドリーチェイサーは今一度オジギをした。「では、わたくしはこれで……ご忠告、感謝いたします」クロジは頷くと、やがて立ち上がった。「少し待ちなさい。ちょいとした頼みがある」そして工房の棚をしばらく物色し、一つの包みを取り出した。

 デッドリーチェイサーはそれを受け取る。聞くまでもなくわかる。中身は、この老職人の作品だ。「そいつをな、あんたに仕事を依頼したショドーのセンセイに渡してはくれんか」そして、照れくさそうに笑った。「さっきは引退だのなんだのと偉そうな事を言ったが、自分の作品を……子を世に出してやりたくなるのも、職人ってもんなのさ」

「承知しました。それではゴキゲンヨ」「オタッシャデー」デッドリーチェイサーはタマチャン・ジャングルを進む。

3.

「イヤーッ!」老人と別れて1時間ほど経過した頃。道なき道を進むデッドリーチェイサーは、ニンジャ第六感の警告に従いブリッジ回避を行った。飛来したのは、明らかに人工物である毒矢だ! 「イヤーッ!」更にバック転を放ち、時間差で放たれた二の矢を避ける!

 ザンシンし、更なる攻撃が無いことを確かめる。矢の飛来した方角を確かめると、何やら機械……赤外線センサーと接続された、クロスボウが見つかった。一見しても新しいものだとわかる。となれば、設置した人間が居るはずだ。「クロジ=サンではないですよね」彼は脂を毒で汚す真似はすまい。

 罠に注意をはらいつつ、デッドリーチェイサーは先を急ぐ。じきに日が暮れる。ジャングル内で野営は避けたいところだ。その時、前方が不自然に開けていることに彼女は気付いた。「……コケシマート?」錆びた看板には見慣れたロゴマークが掲げられている。「どなたか、いるのですか?」

「ブモー……」

 彼女の声に答えるかのように、低い鳴き声が聞こえた。巨大な体躯の動物だった。「牛?」それも数匹の牛が、草を食んでいる。牛達は皆、耳にプラスチック製のタグをつけていた。野生ではなく、家畜である証だ。「だ、誰だ!?」「まさか奴か!?」その時、彼女の元へ数名の人影が走り寄ってきた。1人は手に散弾銃を持っている。

 敵意がないことを示すべく、オジギを行う。「ドーモ、わたくしはアカギ・ホオヅキです」そうでなくとも、ニンジャにとってアイサツは絶対である。散弾銃を持った男性が、銃を下げてアイサツをした。「ドーモ、我々はバファロー・インダストリの者です。これはシツレイを」聞いたことのないカイシャだ。

「ここは?」デッドリーチェイサーは率直な疑問を投げた。「何故こんなところで牛の飼育を?」男は少し迷った後、答えた。「我々はオーガニック水牛を飼育し、その乳で作ったチーズをIRCで販売しているカイシャなのです」「なんと、バイオ水牛ではないのですか?」女ニンジャは驚きの声をあげた。

 昨今、ネオサイタマ……否、日本中の動物の大半はヨロシサン製薬のバイオ遺伝子を持つバイオ生物が成り代わりつつある。バイオ遺伝子を持たぬオーガニック生物は非常に貴重だ。ヨロシサン製薬はそれらを率先して駆逐しているという噂もある。

 また、バイオ水牛はネオサイタマではとてもポピュラーな家畜であり、ミニ水牛がペットとしても人気なのだ。

『デッドリーチェイサー=サン! バイオミニ水牛だって! カワイイ!』『ペットなんて面倒見られないでしょう。我慢なさい』

『デッドリーチェイサー=サン、道でバイオスズメが死にそうになってたんだけど……』『わかりました。タレと塩どちらが良いでしょう?』『ヤキトリ!? 食べないよ!?』

 視線の先をバイオスズメが横切り、デッドリーチェイサーは我に返った。男たちは仕事に戻り、散弾銃の男のみが彼女の前に立っていた。「ヤキトリ……」空腹を覚える。「はあ……お腹空いてるんですか? ……そうだ、あまり量は無いけど、うちのチーズを食べていってください」

 勧められるままにチーズを食にしたデッドリーチェイサーは、口内に立ち上る芳醇な香りと味わいに、感嘆の声を漏らす。「素晴らしい」男は頷いた。「我々はこのチーズでカイシャを大きくしてみせますよ」デッドリーチェイサーは微笑む。「ところで、貴女は何故ここに?」男は訝しんだ。

 ……デッドリーチェイサーは事の次第を説明した。ニンジャであることは勿論、今度はヤクザであることも隠した。暗黒メガコーポとの繋がっていると知られれば、警戒されるに違いない。「なるほど。しかし……オーガニック・イタチですか」先の老人と似たような反応だ。

「先程、この先のイタチの中に、危険な者がいると耳にしました」デッドリーチェイサーはクロジ老から聞いた話を挙げる。「よもや、途中で出くわした毒矢罠はあなた方が?」男は慌てる。「そ、そうです。奴はうちの牛を襲うもので……大丈夫でしたか?」「ええ、まあ」曖昧に答える。

 2つの情報を整理すると、こうだ。この先のオーガニック・イタチ群生地に、突然変異かそれとも栄養が良かったのか、10フィート長の大イタチがボスとして君臨し、我が物顔で家畜や他の野生動物を襲っているということだ。「ふむ……」イタチは人間も襲うだろうか?

「ご馳走になりました。それでは、わたくしはこれで」「オタッシャデー」日が暮れる前に泊まっていくよう言われながらも固辞し、カイシャの名刺を受け取ったデッドリーチェイサーは、丁寧にオジギをするとコケシマート跡地を後にした。「ブモー……」オーガニック水牛が低い鳴き声で、彼女を見送った。

4.

 それからもデッドリーチェイサーはジャングルを進んだ。日が落ちたジャングルを進むのは、モータルであれば自殺行為にほかならない。もっとも、彼女のニンジャ視力であれば月の光のみでも日中と変わらず進むことができる。……そして、彼女はようやく目的の地へと辿り着いた。

 見よ、自然に広けた空間で、希少なオーガニック・イタチがバイオネズミを食べ、我が物顔で駆け回っている。あれらの1匹でも持ち帰れば、依頼は十分に達成できたといえるだろう。
 
 しかし、だ。デッドリーチェイサーのニンジャ感覚は、彼女に突き刺さる目線に気付いていた。開けた群生地の中央、巨大な獣が、両の眼を彼女に向けている。「……あれが」デッドリーチェイサーが一歩を踏み出すと、イタチ達は散るようにその場を離れ、遠巻きに侵入者を見た。

 そして彼らの主である大イタチは、ゆっくりと立ち上がる。情報通り、10フィート以上の体躯の白いイタチだ。その口元は赤く汚れている。大イタチの周りに転がっている肉と骨は、先のカイシャから奪ったオーガニック水牛であろう。

「キシャアアアッ!!」大イタチは警告の声をあげた。デッドリーチェイサーは構わずに歩を進める。あのイタチをなんとかしなければ、目的は果たせない……!

「あの嬢ちゃん、大丈夫かね」クロジはフートンで寝返りをうちながら、昼間のヤクザの女を思い浮かべた。大イタチの目を盗んでオーガニック・イタチを捕獲するのは難儀するだろう。彼女はカタナを帯びており、そこそこの使い手のようだったが……。「死ぬなよ」そう呟くと、彼は眠りについた。

「大丈夫かな……」コケシマート跡地で、男は仕掛け直す罠の準備をしながら独りごちた。もしも大イタチに襲われていたら? それに、タマチャン・ジャングルで夜を明かすのは危険だ。やはり無理にでも止めるべきだったのではないか?「明日、様子を見に行かないと」男は一人、頷いた。

 デッドリーチェイサーは歩を進める。大イタチは侵入者が逃げずに向かってくることを見て取り、自慢の爪を振りかざした。追い払うか、それとも仕留めて腹に収めるか。飛びかからんとした大イタチは……侵入者の目が、妖しく輝いたことに気付いた。

 どん、と不思議な音がタマチャン・ジャングルに響いた。驚いたバイオ九官鳥やバイオコウノトリが、我先にと飛び立つ。人間であればそれを知るだろう。爆発音だ。それも不自然なまでの、超自然の爆発だった。

 そして、オーガニック・イタチ達の目の前で……彼らの王が、後ろにどさりと倒れた。大イタチの体躯は、9フィート程度に縮んでいた。頭が丸ごと吹き飛んで、なくなっていたのだ。大イタチは絶命していた。

「はァ……」デッドリーチェイサーは息を吐いた。下腹がむず痒い。彼女に宿ったニンジャソウルが、更なる殺戮を求めているのを感じる。爆発寸前の嗜虐心を、文字通りのカトン・ジツという形でケダモノに叩きつけたデッドリーチェイサーは……その場にくずおれ、髪をかきむしる。

 今に始まった話ではない。昼間の老人とにこやかに話している間、老人を惨たらしく殺し、高く売れそうな墨や猟銃を奪いとる衝動は彼女のニューロンで常に荒れ狂っていた。大志を抱く男たちの成果に驚きながら、男を惨たらしく殺してカイシャを乗っ取るアイディアが山のように浮かんでいた。

「楽になってしまいなさいよ」自分自身に呟く。「皆、そうしているでしょう?」ソウカイヤの名のもとに暴虐を働き、責められるどころか称賛を受けるニンジャを彼女は何人も見てきた。彼らを咎めだてするつもりなど、微塵もない。良心の呵責などはない。ドラゴン・ドージョー? ヤクザ天狗? ニンジャ殺戮者? 何するものぞ。我はニンジャ。世界の女王なり。

「あああアアアあァァあッ!!」

 タマチャン・ジャングルに、叫び声が一つ響き……。

 やがて、デッドリーチェイサーは何もなかったかのように、すっくと立ち上がった。「……」しばし考える。「先輩からの依頼はオーガニック・イタチ……もう、これでいいですよね」そうして、首のない大イタチの死骸を肩に背負う。「よし、帰りましょう」自分に言い聞かせるように呟き、デッドリーチェイサーは歩き出した。

 自分たちの王を殺した侵入者が王の死体とともに立ち去ったのを、オーガニック・イタチ達は不安げに見つめ、やがて元のとおりに広間に散った。王を失った彼らの生活は一変するだろう。これからは自ら外敵と戦い、餌を己の手で手に入れなければならない……。

 何匹かのイタチは、侵入者が残していった『それ』をクンクンと嗅いだ。様子は変わっているが、未消化の牛の乳のようだった。彼らは『それ』を舐めてみようと試み……慌ててその場を飛び退いた。小さな爆発が起き、『それ』が燃えてなくなった。

「……カイシャの人たちが様子を見に来て、気付かれたら恥ずかしいですよね」大イタチを担いだままの侵入者は独り言を呟き、また去っていった。ドクロめいた月の明かりが、真っ赤に赤面している顔を少しだけ照らした。

5.

「な、なんと……! こんなに大きな……!」トコロザワ・ピラーの一室。ショドー家にしてニンジャであるハーフペーパーは、驚きの声をあげた。

 当初デッドリーチェイサーは仕留めた大イタチをそのままピラーに持ち込むつもりだったが、同居人に連絡したところ、そのままでは腐るかもしれないとアドバイスを受けた。故にハーフペーパーに連絡した上で、一晩かけて内臓と血を抜いて処置している。

 そして翌日、すなわち今日。「……ハッ!」我に返ったハーフペーパーは、折り目正しくオジギをした。デッドリーチェイサーはオジギを返す。「……カトン・ジツで少し焦げてますが、大丈夫でしょうか?」木っ端微塵になった頭が必要だと言われたらどうしようか、と悩んでいたのだが杞憂だったらしい。
 
「問題ありません。ありがとうございます」ハーフペーパーはそう言うと、用意していた封筒を取り出した。デッドリーチェイサーは奥ゆかしく受け取る。無論、その場で中身を確かめるようなシツレイかつ破廉恥な真似はしないが……一夜の仕事としては、なかなかの金額であることを厚みと重さから察した。

【万札:15】【余暇:2日】【名声:1】獲得

 それを懐に収め……そこで、老職人に頼まれたものを思い出す。懐の包みを取り出し、差し出す。「先輩。これを……タマチャン・ジャングルで出会ったクロジという方から是非渡してほしい、とのことです」ハーフペーパーは首を傾げながら受け取る。
 
 彼女もそれがショドーのための墨であることを察したようだ。「クロジ……クロジ=サン……え、まさか……!?」そして、包みを開けた彼女は……。

「……こほん。これは、素晴らしいものです。クロジ=サンとは、クロジ・オクリ=サンに違いありません。伝説といわれた、墨職人です」ハーフペーパーは冷静さを保ちつつ、説明した。「なんと……それ程のお方とは」偶然に驚きつつ、デッドリーチェイサーもまた、努めて冷静さを保った。

 ハーフペーパーは「ほう」と息を吐く。「本当にありがとうございます。……数日したらまた来て頂けますか? 是非とも、このイタチで作る筆と、墨の成果をあなたに見せたいのです」デッドリーチェイサーは自然に微笑む。「是非とも。今後ともよしなに、先輩」

 その後、チャを飲みつつ2人はしばし歓談した。「カトン・ジツですか……私もなんらかのユニーク・ジツに目覚めるなどしませんかね」「……まあ、色々ありますが便利ですよ。わたくしはソウルに付随してきましたが、きっかけがあって目覚める方もいるそうです」「きっかけですか」……。
 
「ところでどうして、私を先輩と呼ぶのですか? いえ、不快ではないのですが」「ええと、なんというかそんなアトモスフィアが……」「先輩!? 先輩って言いました!? 私も先輩って呼んでください! 呼びなさい!」「アナヤ!? どなたですか!?」……。

エピローグ

「なんぞこれ」ライトニングウォーカーは率直な声を出した。「オーラを感じる」サードウィーラーは歴史の重みを感じ取ったかのように呻いた。デッドリーチェイサーが掲げた額縁の中には、ハーフペーパー渾身のショドーが収められている。「先輩からいただきました。ドージョーに飾りましょう」

『偉大なるショドー』獲得

 あれから数日。3人の周りにはこれといって大きな事件もない。時折ニンジャソウルが内心で荒れ狂うが、デッドリーチェイサーはそれをカラテ・トレーニングで発散することを覚えた。人間の首を吹き飛ばす代わりに、的に向けてスリケンを投じる。十投げても足りなくば百。百で足りなくば千。

 もっとも、ニンジャソウルの衝動というのは波がある。制御しきれなくなる時、己はどうなるのか。自問自答したその時、マンションのベルが鳴った。「デッドリーチェイサー=サン、ヒキャクがなんか持ってきたけど」サードウィーラーの言葉にハッとした彼女はドージョーを出た。

 シャワーで汗を流し、部屋着に着替えたデッドリーチェイサーは、入れ違いに脱衣所に入ってきたライトニングウォーカーの豊満なバストをじっと見た。デッドリーチェイサーのバストは……対象的なまでに平坦である。「何? 羨ましい?」視線に気付いたライトニングウォーカーが冗談めかして言った。

「いえ……ちょっと先日の仕事のことを思い出して」デッドリーチェイサーは真顔で言った。「タマチャン・ジャングルで胸部スレスレに吸血ヒルの大群が落ちてきたのですが、あなただったらそのままえらいことになっていたのでは、と」「恐ろしいこと言わないでくれる!?」

 かくして、今日も一日が終わる。割烹着姿のデッドリーチェイサーは、炊きたてのコメの具合を確かめ、続いて届いたばかりの箱を開封した。独特の香りが立ち込める。「なにそれ? チーズ?」匂いが気になったのか、サードウィーラーがキッチンへやってきた。

「多少のご縁ができまして……トキコ=サンに注文していただきました」冷蔵庫にマグネットで貼ってある、バファロー・インダストリ社の名刺を指し示した。「オーガニック・チーズ・スシ……きっと、美味しいですよ」その言葉に、少女の顔がぱっと明るくなる。デッドリーチェイサーも釣られて笑顔になり……。

 そしてふと、ピラーでの光景を思い出した。先日、墨の包みをハーフペーパーが開けたときのことだ。
 
「……ふふっ」

 アカギ・ホオヅキは含み笑いを漏らす。ネンコも年齢も彼女より上の、奥ゆかしいハーフペーパー先輩が、まるで誕生日プレゼントを受け取った童女のような声をあげたことは……生涯の秘密にしなければならない。

《おしまい》

リザルト

【万札:17】獲得、マンションの家賃として【万札:3】を支払う。

余暇2日はすべてワザマエトレーニングを行うも、全て失敗。まぁそういうときもあります。なお累計オプションは不採用なので失敗は失敗のみです。

ニンジャネーム:デッドリーチェイサー
カラテ:4
ニューロン:4
ワザマエ:5
ジツ:3(カトン)
体力:4
精神力:4
脚力:3
装備:カタナ
レリック:なし
サイバネ:なし
生い立ち:実家のカネ(初期万札+10)
名声・ソウカイヤ:5
万札:20

ステータスそのものは変わらずとも、名声が5に到達し、名の知られたサンシタとなりました。社会人2年目めいたオーラが身を包んでおります。

シナリオ上に登場したハーフペーパー=サンは、どくどくウール=サンが創作したショドーのタツジンなニンジャです。……もうひとり出てきた気がする? 気の所為ですよ。モーターロクメンタイもそうだそうだと言っています。

それでは次の機会にお会いしましょう。どくどくウール=サン、楽しいシナリオをありがとうございました!