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『1999年のサーフトリップ』第13章_2
雨降りじゃなければお気に入りのテトラに腰かけてサーファーたちを眺めた。波の無い日は凪の海と空を眺めた。海も空も毎日違った。陽が暮れる頃車に積んだままのサーフボードと一緒に家へ帰った。一人でご飯を食べて少し考え事をして寝た。夢は見なかった。このひと月ずっとそうだった。海部で肩の靭帯をやったのはふた月前のことだった。二度目の靭帯断絶だった。三度目はもうサーフィンできなくなるから、と医者は言った。もし、サーフィンができなくなったら…、とは考えないようにした。先の事を考えないのは得意だった。
午後になって雨が上がったのでその日も海部に行った。いつものテトラに坐った。雲の切れ間から射した陽がビーチの先の山だけを赤く照らした。光に向かって鳥の群れが飛び立った。それだけで美しい、と思った。見慣れない金髪が海に入っていた。プロサーファーの山さんが時々波を譲っていた。知り合いなのかもしれない。雲がすっかり切れて海が輝いた。目を閉じて波の音を聴いた。しばらくすると後ろで何かの割れる音がした。振り返ると港の駐車場に駐まった古いピックアップトラックの陰で男が割れたガラスの破片を拾い集めていた。テトラから降りて「こんにちは」とカズコはその男に声を掛けた。