部長にシュタインズゲート
中国出身の部長がアニメに精通してることを知った時は正直驚いた。
最近の流行りを嬉々として話す私に、
「シラン」
と興味なさそうに返すのが常であったのに。
昨日も『最近ダンダダンって漫画がアニメ化されるみたいで〜』と後ろでキーボードを叩いている部長に懲りずに話しかけていた。
が、想定外すぎる「もう4話まで出てるヨ」という返事に作業を止めて振り返る私である。
『え、部長アニメみるんですか』
「オレアニメ詳しいヨ」
現世に疎すぎる彼がなぜ...
深掘りしていくと、どうやら部長が毎日惰性で続けてるゲームでいろんなアニメキャラがコラボしているらしい。
「強いキャラ気になってイッパイアニメ観たヨ」
あの銀髪天パの侍も、スライムに生まれ変わったあの人も、人喰いに変わった白髪の彼も、ゲームコラボで知ったようだ。
「金カム観終わって今ひまネ〜」
オススメある?と聞かれた私はまさか部長とこんな話ができる日が来るとは...!と鼻息を荒くしながらも数多のアニメの中から、
『シュタゲ観てくださいよ』
と自信満々に答えた。
このアニメは私が観てきたものの中でも真っ当に好みで、何周も観てきた傑作なのである。
タイムリープコンテンツをこよなく愛す私が、声を大にして言う代表作である。
熱を込めて力説する私に部長も「フーン」と言いながらも気になるような素ぶりを見せてくれていた。
そして今日、出社するとめずらしく仮眠室で部長が爆睡していた。
『部長、もう営業時間始まるから起きないと』
と遠慮なく起こさせていただいたのだが、何だか寝起きがつらそうなのである。
仮眠室にある冷蔵庫からエナジードリンクを拝借しながらも、昨日遅かったんですか?と尋ねると、
「ゲートのアニメ、みたヨ」
と言うのだ。
一瞬何のことを言ってるのかわからなかったのだが、「レンジの...ラボメンの...」というから昨日勧めたばかりのシュタゲのことだとわかった。
え?全24話ほどあるのだが?と怯えつつもどうやら1.5倍速で観切ったらしい。
「10話くらいまで、よくわからなかったヨ...」
そう言うので、ああ、本当にちゃんと観てくれたんだなと感心してしまった私である。
賞賛の言葉を滅多に口に出さない部長なので、まあまあだったネと言いはするも、おそらく睡眠時間を削って朝まで観る価値があったということだろう。
お気に召してくれて何よりである。
そんな朝を迎えつつ、作業にとりかかって小一時間が経つと小腹が空いてきたのだ。
社員さん達からの差し入れから何か頂こうと席を立つと、部長が腹ヘッタ?と聞いてきた。
『はい、なんか簡単に食べれるものないかと思って』
と言うと、オレアルヨと冷蔵庫にドタドタと何かを取りに行ってくれるではないか。
お言葉に甘えて腰を下ろして待っていると、そこには寂しいお口にピッタリ、黄色の万能食、バナナを手に持った部長がやってきたのだ。
わーい、と小さく喜びながら一本頂き、軽く握ると不思議な感触がする。
何だか不安になるほどの柔らかさ。
不安そうな私を察したのか、
「2週間前のバナナ」
とシンプルかつ端的な説明を部長から頂く。
あかんやろと一瞥しながらも食べ物を粗末にしないという強い意思を持ち、どこかを握るたびに形を変える黄色い物体の皮を剥く。
案の定、真っ黒になっているドロドロの中身が顔を出したのだ。
まじであかんやつやんと部長を見ると、誇らしげな顔でこう言ったのだ。