サーフ ブンガク カマクラ の曲の歌詞に沿って物語を描いてみる④
腰越クライベイビー
夜の腰越海岸。遠く江ノ島を望み、静かな波音と、薄明かりの大洋。ぼんやりと考えるのは、
子どもの頃と今では海との接し方が違うということ。
腰上まで波に浸かって、傷に海水が染み込む痛み、そして涙目になって砂浜が滲む。自力では泳いで行けない所にブイがぷかぷかと浮かんでいる。
油性のペンで書いた手紙を瓶に詰めて、海へ泳がせる。
その宛先は、もう誰だったか忘れてしまった。
大人になって、独りで夜の海に出向くと、未だ
に少し怖い気持ちがある。不気味であり厳かであり、自分が立ち入っては行けないような気がしてくる。
砂浜に残った自分の足跡はたどたどしく、自分の今までを示しているようで、なんだか頼りない。誰かの残したカップ麺のゴミが黒ずんで、夜の暗闇に溶け込んでいる。
昔瓶に詰めて書いた手紙は未来の自分に向けて書いたのかもしれないな、不意にそう思った。
今の願いや希望を紙に書いて瓶に詰めて波に託しても、いつかその思いを拾って開くのは、自分自身以外にはありえないのかもしれない。
あの頃腰上まであった波は、今はもう膝くらいのところで往復している。
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