サーフ ブンガク カマクラ の曲の歌詞に沿って物語を書いてみる③
江の島エスカー
江ノ島に渡る白い橋は通る人の割に狭い。そして、長い割に渡っている時の体感時間は短い。
島に着いて、いろんな食べ歩きの店を横たえる坂を登っていくと、江の島エスカーは待っている。
エスカーとは、要は有料エスカレーターのことで、頂上まで約5分で行くことができるのだ。
湘南の広々としたパノラマを見渡すべく、このエスカーに乗るのだ。
江の島エスカーの搭乗券を買おうとした時、この場所にまつわる埼玉の友人の話を思い出した。
彼はヤンキーだが全く筋金入りではなく、こと女性関係はとてもピュアである。初めてできた彼女と江の島エスカーに乗り、夜の波音をBGMに初めてのキスをしたという。金髪に大きめのピアスをつけた彼と、そんなエピソードのミスマッチ感が何だか笑えるなぁなどと思いながら、エスカーに乗る。
頂上に着くと、想像していたよりは高さはなかった。平日の午後だったからか、人影はなく、波の音が静かに聞こえてくる。晴れ渡る空の下水平線を眺めていると、気がつけば1時間が経っていた。
不意に埼玉のアイツの、顔も見たことのない初めての彼女が頭に浮かび、どうしてか、胸の奥が痛くなったことに自分でも驚きを感じた。
エスカーに復路は無い。帰りの坂道で、TVで見たことのあるしらすパンという名物を買って食べた。埼玉のアイツも食べたのだろうか。
誰かが止めたカワサキ製のバイクが、海に反射した陽の光で眩しかった。もう一度白い橋を渡る時、行きよりもゆっくりと渡った気がした。
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