梨著『かわいそ笑』【考察・完全解説】
梨著『かわいそ笑』の考察・完全解説です。
『かわいそ笑』のプロットは複雑です。作中作中作の3層構造が頻出します。ですので、本稿はできるかぎり簡潔にまとめます。
そのため、既読者のみを対象とします。
なお、先行研究に『梨著 かわいそ笑 に隠された謎を徹底考察』があります。
一部、冗長と脱落があるように思いましたので、本稿の結論の後にあわせて指摘します。
○方法
本書を整理するために必要なのは、各物語のメタデータ=創作者を特定することです。
身元不明の創作者が複数いること、一部の創作者が悪意によって物語を創作していることが、本書(『かわいそ笑』)のプロットを複雑にしています。
○プロット
○第1話
・名前:これは横次鈴という人が体験した怪談です.dox
・創作者:創作者①
・・作中年:2000年代初め
・・登場人物:「私」=創作者①、「りん」
・・呪法:裏鬼門①
・・呪法の対象:対象者①(男性)
・・怪異:家内に出現するもの
・名前:本書(『かわいそ笑』)
・創作者:40代前半の女性
・聴取者:梨
・・作中年:現在
・・登場人物:「私」=創作者①=40代前半の女性、「りん」(『これは……』に準じる)
・・・作中作:『これは……』
・・呪法:裏鬼門②
・・呪法の対象:「りん」=横次鈴
・名前:mixiトピック「【怪奇・不思議】同人で起こった怖い体験を語りましょう」
・創作者:mixiユーザー[23]
・・作中年:「だいぶ昔」
・・登場人物:「私」=mixiユーザー[23]、同人作家
・・呪法:裏鬼門③=『これは……』
・・呪法の対象:対象者②(不明)
○第2話
・名前:Amebaブログ「しがないおじさんの独り言。〜つれづれなるままに〜」
・創作者:ブロガー
・・作中年:2ちゃんねる全盛期
・・怪異:トリミングされたセーラー服の女の画像
・名前:『ヤバすぎる実話怪談 暗黒の章』
・創作者:実話怪談の著者
・作中年:作中年①
・登場人物:洋子(仮名)(大学生)
・・作中作:名前:『欠けた心霊写真』
・・・創作者:洋子さん(仮名)
・・・作中年:作中年①(ガラケー時代)
・・・登場人物:洋子さん(仮名)、友人
・・・怪異:心霊写真
・名前:20210908.wave 文字起こしデータ(加筆済み)
・創作者:創作者②-1
・聴取者:創作者②-2
・作中年:2021年
・・作中作:名前:同題
・・・創作者:「僕」
・・・作中年:2000年代中頃
・・・登場人物:「僕」、「すず」
・・・怪異1:セーラー服の女の死体の画像
・・・怪異1の発生源:「すず」
・・・怪異2:家内に出現するセーラー服の女の死体、女性(「セーラー服の女の死体の画像」をトリミング)
・・・備考:"どこまでが幻覚なのかも分からないからもういい"
○第3話
・名前:「あらいさらし」(1)-(14)(メールデータ)
・創作者:創作者③
・・作中年:「数年前」
・・登場人物:「私」(同人作家)=創作者③、フリーメールの送信者、友人の同人作家(男性)
・・呪法:裏鬼門④
・・呪法の対象:対象者③(男性)
・・怪異:セーラー服の女の死体の画像
・名前:「無題」
・創作者:創作者③
・・・作中作:「あらいさらし」(1)-(14)
・・呪法:裏鬼門⑤
・・呪法の対象:「鈴ちゃん」=「よこつぎすず」
○第4話
・名前:「文芸館 臥待月の翡翠」
・創作者:「りん」*
・名前:mixiトピック「【怪奇・不思議】同人で起こった怖い体験を語りましょう」
・創作者:mixiユーザー[36]
・・作中年:テキストサイト全盛期
・・・作中作:「これは横次鈴という人が体験した怪談です」*(「文芸館 臥待月の翡翠」掲載)
・・呪法1:名前の代入
・・呪法1の対象:横次鈴
・・呪法2:裏鬼門⑥(未遂)
・・呪法2の対象:横次鈴
・名前:微電波コピペ保管庫 ログno.52(初出:週末怖い話スレ)
・創作者:>>142
・呪法:名前の代入
・備考:>>156が興味をもつ
・名前:微電波コピペ保管庫 ログno.112(初出不明)=「これは横次鈴という人が体験した怪談です」*
・創作者:創作者④
・・作中年:作中年②
・・登場人物:「私」、「鈴」(メンヘラ)
・・怪異:「鈴」が認識した幽霊、セーラー服を着た「鈴」の死体
・名前:あとがき
・創作者:創作者⑤
・呪法:怪談の拡散
・呪法の対象:「鈴さん」
・名前:『ヤバすぎる実話怪談 奈落の章』
・創作者:実話怪談の著者
・作中年:作中年①-2
・登場人物:洋子(仮名)(新卒)
・・作中作:名前:『続・欠けた心霊写真』
・・・創作者:洋子さん
・・・作中年:作中年①-2
・・・登場人物:洋子さん(仮名)、友人
・・・怪異:心霊写真=セーラー服を着た女の画像(『欠けた心霊写真』では心霊写真の内容は不明)の拡散、セーラー服を着た友人
・・・備考1:友人はセーラー服を着た女に呪いを転嫁しようとしている
・・・備考2:"そうなった振りをしている人"
○第5話
・名前:本書(『かわいそ笑』)
・創作者:梨
・・作中年:十数年前
・・怪異:「幽霊に合う方法」、「リダンツ」
・・作中作:無題.mp3
・・・創作者:創作者⑥(男性)
・・・呪法:名前の代入
・・・呪法の対象:対象者④
・・・備考:自己責任系もとい他者責任系
・名前:本書(『かわいそ笑』)
・創作者:40代前半の女性
・聴取者:梨
・・呪法:怪談の拡散=本書、裏鬼門⑥
・・呪法の対象:「あの人」(故人)
・・備考:「あの人」には幽霊になってほしい
○整理
各物語をメタデータ(創作者)で整理します。
以下、「創作者:物語:物語の登場人物」でタグ化します。
○身元が確かな=実在する創作者
○身元が不確かな=虚実が不明の創作者
身元が不確かな創作者について特定します。
第1に、創作者⑥は明確に梨による虚構です。梨による地の文と、創作者⑥の語りが融合しているからです。
第2に、>>142については特定は不要としていいでしょう。投稿の内容が一般的すぎ、誰でもいいからです。
第3に、創作者①と創作者③、創作者⑤は、ともに横次鈴への裏鬼門を実践しようとしているため、同一人物と見ていいでしょう。
次に、実在する創作者について特定します。
40代前半の女性も、梨を通じて、横井鈴への裏鬼門を実践しようとしているため、創作者①と創作者③、創作者⑤と同一人物と見ていいでしょう。
ガラケー時代に20代前半だった洋子(仮名)は、現在の40代前半の女性と、同一人物でありそうです。
ただし、創作者①の話に登場する「りん」と、洋子(仮名)の話に登場する「友人」も、同年代です。
ですが、「りん」と「友人」は作中作の登場人物であり、より抽象的なオブジェクトです。
よって、洋子(仮名)と、40代前半の女性、創作者①、創作者③、創作者⑤は同一人物であると見るほうが確実です。
これで、残る身元が不確かな創作者は、創作者②と創作者④だけです。
注意しなければならないのは、創作者②の「20210908.wave 文字起こしデータ(加筆済み)」が、テキストファイルであることです。
そのため、実際には、創作者②が男性であるかすら不明です。創作者②は「セーラー服の女の死体の画像」のオリジナルについて語っています。
創作者⑤はセーラー服の女の死体を撮影したことを語っています。ただし、死体に損壊を加えたと語っていて、これはトリミングされた「セーラー服の女の死体の画像」と矛盾します。
メタデータ(創作者)の整理ができました。次に、各物語の入れ子構造を整理します。
もっとも抽象化の次元が低いのは、当然ながら本書(『かわいそ笑』)です。
次に抽象化の次元が低いのは、mixiユーザーが体験した横次鈴への裏鬼門(未遂)、洋子(仮名)がした実話怪談への取材協力、インターネット掲示板で拡散されたセーラー服の女の画像です。
もっとも抽象化の次元が高いのは、『これは…』、『欠けた心霊写真』、『続・欠けた心霊写真』、『2021…』、『あらいさらし』、『これは…』*の作中作、『あとがき』です。
裏鬼門のうち、作中作の『これは…』に登場する裏鬼門①と、『あらいさらし』に登場する裏鬼門④は、身元不明の男性を対象としています。これは抽象化の次元が高すぎるため、男性の存在もろとも、虚構と見ていいでしょう。
残る裏鬼門は、すべて横次鈴を対象としています。
40代前半の女性は「あの人」を呪法の対象にしています。40代前半の女性は創作者①と創作者③、創作者⑤ですので、「あの人」は横次鈴となります。
セーラー服の女の画像については、そのオリジナルにまつわる『2021…』と『欠けた心霊写真』、その撮影にまつわる『これは…』*は作中作です。
くり返しになりますが、『これは…』*は確実に虚構です。死体の様子が、拡散されたセーラー服の女の画像と矛盾しているためです。
『2021…』と『欠けた心霊写真』も、抽象化の次元が高すぎるため、真偽が疑わしいです。
ここで、セーラー服の女の画像にまつわる『あらいさらし』が、創作者③により、横次鈴への裏鬼門を媒介するために創作されたものであることに注目すべきでしょう。
いわば、横次鈴への裏鬼門をデータオブジェクトとするプログラムか、ウイルスとする宿主のようなものです。
また、本書(『かわいそ笑』)によれば、40代前半の女性(=洋子(仮名))はオリジナルの写真を所持しています。
よって、セーラー服の女の画像も、40代前半の女性が横次鈴への裏鬼門のために拡散したと考えていいでしょう。
では、40代前半の女性はどのようにセーラー服の女の写真を撮影したのでしょう。考えられる仮説は4通りあります。
1. 40代前半の女性が自撮りした
2. 横次鈴の死体を撮影した
3. 第三者の死体を撮影した
4. 第三者経由で写真を入手した
5. 心霊現象により入手した
このうち3番目、5番目の仮説は整合性が乏しいです。
1番目の仮説では、40代前半の女性がセーラー服の女の画像という呪法(最終的には、横次鈴への裏鬼門という呪法)の道具として自撮りしたことになります。
言うまでもありませんが、セーラー服の女が死体だということは、『2021…』と『あらいさらし』のみで言及されていて、真偽が疑わしいです。
ですが、この場合、40代前半の女性が、なぜセーラー服の女というモチーフを選んだかが不明です。
2番目の仮説は、『これは…』と『これは…』*と整合する部分があります。もちろん、『これは…』と『これは…』*は虚構でしょう。ただし、この両者には、創作者と「りん」、「鈴」の自宅の距離が近いという共通点があります。40代前半の女性が『これは…』と『これは…』*を創作するとき、現実における自分と横次鈴をモデルとしたことはありそうです。
また、40代前半の女性によれば、「あの人」=横次鈴は故人です。本書(『かわいそ笑』)において、死者に関する言及は、セーラー服の女の死体と『あらいさらし』の対象者③(男性)だけです。よって、かなり確実に、セーラー服の女の死体と横次鈴には関係があります。
ただし、くり返しになりますが、セーラー服の女が死体だということは真偽が疑わしいです。
ですが、セーラー服を着て自殺するということは、メンヘラ気質の「りん」(「文芸館」管理人)の行動としてありそうです。さらに、「文芸館 臥待月の翡翠」にはトイレへの言及もあります。
なお、4番目の仮説につき、「文芸館 臥待月の翡翠」には画像の掲載への言及があります。よって、元々の写真は「文芸館 臥待月の翡翠」に掲載された、あるいは「りん」(「文芸館」管理人)が掲載するつもりでいたものということが考えられます。
ただし、その場合、40代前半の女性は出所が明らかな画像を転用することになり、虚構だと発覚する危険が大きいです。
また、これ以外で、元々は横次鈴、あるいは他の第三者が所持する画像だったと考えることは意味がありません。画像の出所を先送りにするだけです。
よって、40代前半の女性が「りん」(「文芸館」管理人)=横次鈴の自殺死体を発見し、反射的に撮影したと見ていいでしょう。
○結論
以上から、作中の出来事を時系列で整理できます。
そもそもの始まりが>>142の呪法であることは、スレ番による時系列から確実です。
さて、ここに最後の疑問が残ります。
それは、梨はなぜ40代前半の女性に協力し、本書(『かわいそ笑』)を創作したかということです。
注目すべきは、『続・欠けた心霊写真』で語られる「呪いは転嫁できる」ということと、『無題.mp3』で語られる「自己責任系もとい他者責任系」ということです。
つまり、梨は40代前半の女性によって横次鈴への呪いに巻きこまれ、その呪いを転嫁すべく、自分も横次鈴への呪いに加担したということです。
なお、始まりである横次鈴への呪いは、裏鬼門という複雑なものでなく、>>142の名前の代入という簡単で、気まぐれにできるものであることに注意すべきです。
これは横次鈴への呪いに巻きこまれた人々が、自身が呪いから逃れるために、さらに多くの人々を横次鈴への呪いに巻きこむという、横次鈴への呪詛の自動供給システム、横次鈴への呪いという自己増殖するシステムなのです。
そして、この考察もまた… と、締めるべきなのでしょうが、あまりに茶番劇なのでやめておきます。
最後に、『梨著 かわいそ笑 に隠された謎を徹底考察』の冗長と脱落について、僭越ながら御指摘させていただきます。
本記事は、なぜ梨が本書(『かわいそ笑』)を創作したかという根本的な疑問点が無視されています。
また、セーラー服の女の画像について、「リダンツ」の現実改変能力を用いて作成したという突飛な仮説を立てています。言うまでもなく、「リダンツ」にそのような現実改変能力があるなどということは、執筆者のPIROSHKI氏の創作です。
以上、批判や誹謗中傷でないことを御理解いただければ幸いです。