金髪と、黒髪と。
『精神が危険な状態にある人が、見た目をいきなり変えることって多いんです』
「え、似合ってませんか?」
『似合っては、いますけど。大丈夫ですか?』
「ずっとやってみたかったんです、金髪」
『大丈夫なら、いいですけど』
「なんだか、生との間にすこし距離ができてしまって」
『はい?』
「どっちでもいいなぁって思い始めて」
『・・・死んではだめですよ』
「産業医はそう言うしかないですよね」
『それはそうですが』
「ごめんなさい。そう思ったら、吹っ切れてしまったというか」
『それでも死んではだめです』
「たぶん、そこまでじゃないです。やってみたかったのはほんとうなので」
『大丈夫なら、いいですけど』
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『深刻にならないことが、生きることのコツなんだって』
「そう」
『深刻になるって、何かに囚われるってことでしょう』
「うん」
『それって、ちょっと怖いなって思っちゃう』
「怖い?」
『だって他にも、素敵なことはたくさんあるのに』
「囚われないなんて、できるのかな」
『私はそうしてきたけれど』
「僕は深刻にしか生きてこなかったかもしれない」
『・・・それはちょっと羨ましい』
「深刻になってる場所が違うのかな」
『場所?』
「何かに深刻な人と、深刻にならないことに深刻な人がいる」
『それはそうかもしれないけど』
「何かは、人によって違うけど」
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『僕はね、重力を感じたいんだよね』
「それって、疲れませんか」
『人は重力から逃れられないよ、忘れがちだけど』
「・・・どうやって感じればいいんですか」
『誰かと対峙するとき、自分がフェイクじゃないかを確認する』
「それに答えてくれる人なんているんですか」
『真面目に生きていれば、出会うよ』
「ほんとうに出会えますか」
『確証は、持てないけど』
「真面目に生きるって、なんですかね」
『それはね、いつでも剣を抜けるようにしておくってことだよ』
「そんな大人っているんですか」
『いろんな大人がいるからね』
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『ほんとうにいいんですか』
「まだすこし、迷っていますけど」
『こんなに綺麗に抜けてるのに』
「でも、なんだか戻してみたくなったんです」
『一瞬で、戻っちゃいますよ』
「ちゃんと生きようかな、と思って」
『お仕事ですかね』
「まぁ、そんなところです」
『ちょっとさみしいですね』
「はい、とっても」
『3ヶ月間くらいでしたね』
「短いような、長いような」
『まぁ、黒髪も似合いますから』
「そうですかね」
『そうですよ』
「へへ」