気まぐれの美しさ『(原作)打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(私と映画#4)

※この記事は、映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』のネタバレを含みますのでご注意ください。


私がこの映画を知ったのは、一昔前に『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』というアニメ映画が公開されると話題になったときである。

米津玄師が好きなので、アニメ映画の主題歌を軽音楽部で組んでいたバンドでコピーしたりもしたが、正直なところアニメ映画自体はあまりにも不評だったため、見る気にならなかった。もちろん原作映画の方は評価も高く、予告映像の雰囲気がとても好きだったので、いつか見てみたいとずっと思っていて、今回やっと見ることができた。


この物語は、なんとたった1日の間に起こった出来事である。それを約50分という短さにまとめているのだが、大人になった私が普段過ごしている1日よりも、ずっと濃かったような感覚がある。

小学生くらい幼いと、その未熟さゆえに突拍子もない言動をすることは多々ある。やっぱり行かないと約束を破ってみたり、親に内緒でちょっと遠出してみたり、そして花火は横から見たら丸いのか平べったいのか賭けてみたり……。

子どもの気分が変わるのは、夕立が降り始めるように突然である。幼いながらも、互いに腹が立つし、互いに傷付くし、互いに大きく振り回される。しかし、子どもだからこそできるその刹那的な生き方が、幼い頃の思い出を儚く美しいものとして胸の中に残すのだと感じた。


祐介がなずなとの約束を破ったのは、彼の言う通りなずなのことが好きだというのは冗談だったからなのだろうか、なずなのことは好きだったけど照れくさくなってしまったからなのだろうか、なずなが本当は典道のことが好きだというのに気付いていたからなのだろうか、それともやはり小学生という幼さゆえの気まぐれだったのだろうか。

なずなは、祐介が水泳対決で勝ったルートで彼を花火大会に誘うときには「好きだからよ」と言っていたが、典道が勝ったルートでは理由をはぐらかしていた。本当は典道のことが好きだったからこそ、軽々しくその言葉を口にできなかったのではないだろうか。では、なぜ彼女は典道に軽々しく「今度会えるの2学期だね。楽しみだね」と嘘を吐いたのだろうか。しかし、彼女は電車の切符を買おうとしてすぐ止めて、そのことを典道にしらばっくれるくらいだから、それもやはり気まぐれだったのかもしれない。

子ども特有の刹那的な生き方が、水泳対決をして勝つのは祐介なのか典道なのか、花火は横から見たら丸いのか平べったいのか以外にも、無数の選択肢を提示していた。物語はたった1日の間の出来事だが、典道やなずな、祐介や友人たちにとって、事あるごとにきっと振り返って考えてしまう、永遠に色褪せない思い出となったのではないかと感じる。


最後に不真面目な感想を書いておくと、何と言っても、内容がたった1日の間の物語で、しかも映像は約50分という短さなのに、満足感がすごかった。今は夏と言ったら暑すぎてなるべく外に出たくないし、外に出たとしても暑すぎて楽しむどころではないけど、夏という季節はこんなにも魅力的なものだったんだと思い出させてくれました。あと奥菜恵さんが美しすぎた。

舞台は千葉県海上郡飯岡町(現在の旭市)だそうで、とても素敵なところだなと思ったので今度10月の花火大会にお邪魔する予定です。


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