
帰省の話
9連休のゴールデンウィーク。間の平日も有給を取って、わたしはその中の5日間実家に帰省した。
年末に両親が離婚し、今は母親が家を出ていくまでの猶予期間のため、おそらく父と母に揃って会うのはこれが最後だ。
面白いことに、家庭内別居同然だった両親は他人になったことで関係が修復した。傍から見れば離婚したことなど気づけないほどに、朗らかに会話をして同じ家で生活している。今まで逐一気になっていたことも、紙切れ1枚提出して籍を抜いた瞬間どうでもよくなり寛容になれるというのだから、人間関係というものは不思議なものだ。
とはいえどちらも新しい人生を始める気マンマンで、今は残された共に過ごす最後の時間というわけだ。
わたしの実家はとても田舎にある。
電車は30分に1本しか来ないし、実家から最寄りの無人駅までもコンビニも歩いて30分はかかるし、海と山に囲まれたリゾート地だ。
少子高齢化と車社会のために街に人は全然歩いていないし、商業施設の類いはほとんど無い。子供のころ建ったばかりだったピカピカのコンビニも、帰省する度に古めかしくなっていて驚く。
子供の頃は田舎だとか不便だとかを強く感じることは無かったのに、東京のネオンの中で生活すようになった今のわたしには酷く退屈だ。
このところ、母親はよくわたしに言っていた。
「もっと都会で生活してみたかった。あなたは自分で稼ぐ力があるからいいね。」
母は何年も前から父に対する不満を口にしていたが、この田舎で、専業主婦で、稼ぐ能力の無い母がまさか本当に別れることになるとは思っていなかった。
それもそのはず、別れを切り出したのは父だというのだから。
男性の気持ちというとは、何歳になってもどれだけ一緒にいても完璧に理解するのは難しいのだろう。
わたしといえば1年すら恋愛関係を続けることができないんだから、どんな理由があれ30年一緒にいるなんてすごいと正直感心する。
小学生のころ両親が建てた実家はいつの間にか老朽化していて、壁紙が剥がれたりトイレの鍵がかからなくなったりしている。
新築でこの家に引っ越してきたとき、どこもかしこも新しく綺麗な全てに心を動かしていたことが懐かしい。初めて与えられた自分の部屋が誇らしかった。この部屋でたくさん笑ったし、同じくらい泣いた。
すっかり生活感が出てしまっているこの家にも、これからは帰ってくることが減るだろう。
4匹飼っていた猫はここ数年で2匹になった。
わたしが1番に可愛がっていた子ももう13歳、最近はお腹の調子が悪いそうですっかり痩せてしまっている。実家を出て何年も経つのに、帰省するたびわたしを覚えていて甘えてくれる。朝起きれば物音に気付いて必ずおはようの挨拶をしにくる。
この子とあとどれくらいの時間を過ごせるのだろうか。
海と山に囲まれたこの場所には、わたしの心をときめかせるものがひどく少ない。
人が少なく小洒落た場所も無いこの街では、着飾る必要がまるでない。これを買うために頑張ろうと思えるハイブランドの入ったデパートも、心を踊らせる仕事も無い。
帰ってくるたびにわたしは、たくさん働いて、素敵な服を着て、デパコスで化粧をして、毎月様々な美容を施して、武装して高層ビルの間を風を切って歩くことが好きだと思い知る。
人も、街も、変わっていく。