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君の隣③ドラマ出演

「はぁ?」
春翔さんは何を言っているんだろう。
ぽかんと口を開けたまま僕は首を傾げた。
僕の目の前にいて、今訳のわからない事を言っているのは、上月春翔さん35歳。
春翔さんは僕達のマネージャーで、いつも優しく僕達を見守ってくれている素敵なお兄さん的存在だ。
社長とは同い年で仲が良く、いつも2人で僕たちの世話をしてくれている。
でも、この話は訳がわからない。
「ドラマ?僕が?」
「そうなんだよね。この前の雑誌の撮影を見たドラマのプロデューサーと監督が是非君達を主役に撮りたいって。」
「言ってる意味がわかりません。」
「ドラマのイメージにぴったりなんだって。」
「はぁ…。一体僕達はどんなドラマのイメージにぴったりなんですか?」
「それが…」
なんか言いにくそうだ。
嫌な予感がする。
「春翔さん、はっきり言ってください。」
「えっとね、育った環境が全く違う水樹と彰人が、大学の寮で出会って、お互いを助けるうちに惹かれ合う…」
「はぁ?」
無理、無理、無理、無理〜。
なんで、僕達?
「撮影の合間に監督が見かけたらしいんだ。休憩中の2人の雰囲気がいいんだって。」
雰囲気?
どんな雰囲気の事だろう。
普段の僕達は、お互いに惹かれ合うような雰囲気は微塵も無いと思うけど。
「ほら、お前達演劇部手伝ってた事あっただろう。ショートドラマだし、3日で撮影終わるらしいんだ。これで人気が上がればグループにとってもいいし。」
「でも…」
「お願い、水樹。彰人は即快諾してくれたよ。」
「快諾?」
さらに意味がわからない。
「無理です。」
「そこをなんとか。」
「嫌です。」
どうしたらいいんだろう…
頭を抱えて困っていると、僕の肩に誰かが手を回した。
「何で嫌がるんだよ。可愛い水樹は俺の隣だと更に可愛いんだから。」
といきなり耳元で囁かれた。
「うわっ」
びっくりして、慌てて離れようとしたが、彰人くんに肩をしっかり掴まれて動けない。
「だって、僕達同じグループの仲間だし、そんなドラマ出たら気まずいじゃん。」
「全く問題ないよ。」
にこりと微笑む彰人くん。
あ、その顔何度も見たことある。
涼しい顔して、また僕をからかって遊んでるな。
「この話を受けてくれたら、グループの宣伝にもなるんだ、水樹頼むよ。」
春翔さんが目の前で、両手を合わせて縋るような顔をしている。
僕は、いつもお世話になっている春翔さんに、こんな顔をさせるのは、流石に申し訳ないと思ってしまった。
その後、社長とマネージャーとグループ全員を集めて話し合う事になり、結局僕は、断りきれず承諾した。
「流風〜。さっき助けてよって言ったのに。」
「ごめん、ごめん。でもさ、水樹の好きなお芝居だし問題ないと思うよ。」
「ひどいよ流風〜。」
「水樹〜。よろしく。」
「もー。わかったよ…」
「じゃ、早速SNS用の写真を撮ろう。さ、2人とも近寄って。まずは後ろ姿、次は手を繋いで、しばらくは顔は見せないから大丈夫だよ。次は…彰人の膝の上とかどう?」
「いいねぇ。さ、乗って。あ、顔を近づけるのどう?」
「いやぁ。いいじゃない?」
「可愛いわ、最高。」
みんなが集まると危険だ、楽しいと思うツボが一緒だから。1度こうなると止まらない。
「今日から毎日写真を投稿する予定だよ。少しずつ2人の距離が近くなるようにね。まずは手とか耳とか顔のパーツからかな。ほんと、ありがとう水樹。」
「はい、頑張ります。春翔さん。」
結局僕はこの笑顔に弱いんだよな。
僕はドキドキする胸を押さえながら家に帰った。演技は大学以来だ。見るのはとても好きなんだけど、自分がやるとなると話は別だ。
「どうしよう…僕に演技なんてできるんだろうか…」
撮影までの1週間不安と恐怖で眠れぬ夜を過ごした。
 
でも、このSNSがきっかけで僕はあの事件に巻き込まれることになったんだ。

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