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plmasa
まだ小さい手のひらで、僕は大人を知る
僕は電車の中で思った。
クチャクチャうるさい
ズルズルうるさい
ハアハアうるさい
ペチャクチャうるさい
ギャーギャーうるさい
シャカシャカうるさい
みんな消えちゃえ。
ジロジロ目障り
キョロキョロ目障り
うろうろ目障り
チョロチョロ目障り
ノソノソ目障り
みんな消えちゃえ
ブーブー汚い
ゲーゲー汚い
ハアハア汚い
コンコン汚い
ゲホゲホ汚い
シクシク汚ない
みんな消えちゃえ
隣の席の男が、スマホをみつめながら鼻水をズルズルと何度も啜る。
はやく鼻をかんでくれと思いながら、うるさく汚い彼のことを、僕はジロジロと見つめていた。
耐えきれなくなった僕は、挙動不審に席を立ち上がって、ウロウロ、キョロキョロと別の席を探している。
ハァーとため息混じりに座った僕の息の中には、ヘドロのような口臭が混じっていた。
批判してきたこの僕が、一番汚く一番先に消えるべきなのかもしれない。
今まで思い感じてきたことが、情けなく悲しくなってくると自然と鼻水が出てきた。
ティッシュをすぐに取り出すことが出来なかった僕は、鼻水が垂れ落ちる前にズルズルと鼻を啜っていた。
「どうぞ。」
隣の人にもらったティッシュには、大人の優しさが含まれていた。
こんなに年をとったのに、僕はまだ大人になれていない。
「ありがとう。」
僕も、はやくこの子のような大人になりたい。