アナログにかえろうじゃん

漫画のデジタルツールのクリスタがプロ漫画家にも浸透してきたのが大体2011年頃だったように覚えてます。ちょうど、私もレギュラー先の漫画家さんがクリスタを導入する一大決心をして皆で一通りやれそうな感じがつかめた頃大震災があって、SOHOに切り替えるのにたまたま「ちょうど良かった」のを記憶しています。
一通りやれそう、というのはデジタル作画原稿が実際に雑誌に載っても「アナログ作画した原稿と遜色ない」のを確認して、そこまで調整できるようになったと思ったという意味です。
確かにその時はそう思ったんですよ。
それ以前から「デジタルだとみんな同じ線になっちゃうよねー」「個性とかないよねー」とか言われていましたが、ブラシも微調整できるようになったし。プロ漫画家さんの中にはわざとガサついたアナログみを演出する方もいたりして、創意工夫はデジタルになっても変わらないところがあった。

でもこの2024年の今、色々見渡しても、その後デビューした新人さんたちふくめ、デジタル作画に慣れた漫画家さんは大体、どんどん線が太くなったり単調になったり、線が荒れていったり、美しさも色気もない無神経な代わり映えのしない線になっていってる事が殆どに思うんですよね。

漫画を読むとき、その漫画家さん独自の線とベタとトーンワークから紡ぎ出されるそれぞれの美にどっぷり浸るのも楽しみだったわけですよ。一コマ一コマ味わいがある。憂き世の一時のオアシスだったから、漫画ってとても愛されてたと思うんですよね。

アナログでペン入れするときは非常に気を使います。失敗したらホワイト塗って上から描くんですが、崩れやすいからさらに失敗する可能性大。なのでそれは注意して髪なら髪の繊細さ、筋肉なら筋肉の力強さなんかを表現するべく、手前と奥とで見分けがつきやすいように、でも印刷で消えないレベルを維持して、等々、自然にその時色んなことを考えて皆ペン入れしてきたと思います。

デジタルでも気を付けていないわけじゃないんでしょうが、かすれ線からごん太の線までの自在さ、愛嬌とあたたかみ、一線一線すべて違う入りと抜きetc。同じ下書きにペン入れしても人によって違う持ち味になる。

アナログの線はまさに生きていたんですよ。その生命に触れることが楽しみであり癒しでありだったわけですよ。大げさに言えば。

クリスタだのフォトショだのというツールの新しさと利便性と話題性で、色んな漫画家さんもイラストレーターさんも「これに切り替えなくちゃ」と何故か思ってしまってる所があると思うんですが、でも美しい線でペン入れ出来るのって、その作家の特殊技能だったはずです。
世界の他の誰にも真似のできない、唯一無二のその人だけの特殊技能です。自慢にしていいものだったはずです。

私が初めてGペンを使ってみたのは確か小6とかそれくらい。初めてペンいれしてみた絵は線が全然汚くて、色々な漫画家さんの絵と比べて酷い有様でした。「印刷されたら綺麗な線になるのかな?」と思いました。が、多分そのあとに雑誌「ぱふ」を見て創作同人サークルに加入し、そこが会員ならカットを数点載せてくれるので、印刷された自分の絵も確認することができたのですが、やっぱり酷い。「自分が綺麗な線をひかなきゃいけないんだ」と当たり前の事に気が付き、そこから地味に、当時はペン入れ指南の本も動画もあるわけないので、ひたすら練習と工夫を重ねて、17,8歳の頃ようやく親からも「ちょっと雑誌に載ってるような絵になってきた」と言われるようになったんです。
アナログ時代の漫画家やイラストレーターは皆そうやって何枚も何年も練習していい線をひけるようになったはずなんですよ。

デジタルは使ってみればやっぱり「画材の一つ」。
「水彩じゃなきゃいけない」とか「アクリルじゃなきゃいけない」とかないように、デジタルじゃなきゃいけないわけじゃないじゃないですか。
前は皆「こんな感じの作品にするにはどうしたらいいか」と色んなツールを試して、もっともイケそうなツールを選んでたし、それでいいと思うんですよね。

料理は同じレシピでも料理人によっておいしさが違うし、音楽は同じ譜面と楽器でも演奏家によって違う。ダンスも同じ振り付けでも著名なダンサーが踊ればまったくモノが違う。ほんの微細な火加減、指使い、足さばきの角度、そういう気づかいや工夫や注意の積み重ねで「良さ」は生まれます。
素晴らしくできる人は人間国宝だったりそのジャンルの歴史に残るような人だったわけですよ。
その微細な違いは勘違いじゃなくやっぱりそれだけの価値がちゃんとある。

業務用カレーと名店のカレーが同じわけないし、アシュケナージと機械演奏が同じな訳ないじゃないですか。
カレーやピアノなら誰でも納得する明確な「違い」なのに、漫画は「新しいツールや技術が偉い」ような風潮がはびこってるのは何故なんでしょうね。

アナログでやれてた人は、その素晴らしく価値のある技術を自分で捨てる事はないんじゃないでしょうか?

デジタルでしか描けない人が一生懸命「だってこれがナウなんだから」とかいったって知ったこっちゃねえでスルーしてればいい話なんですよ。
またアナログでペン入れして素晴らしい線を見せてくださいよ。

って、ほんと最近見るに堪える漫画がなくて、アナログ時代の漫画を漁るしかなくて書いちゃいましたわ。ふう。










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