ミュウとは一体なんだったのか?~ミュウを巡る謎~
今日も変わらずツイッターをやっていると、こんなつぶやきが流れてきました。
「ポケットモンスターのミュウは、デバッグプログラムを抜いた300バイトの容量にねじ込んだ」と言う話です。実はこの話に関して私は十年近く、「そのデバッグプログラム自体がミュウなのではないか」という仮説を提唱しています。
正確には、「もともとデバッグに使っていたモンスターの領域に、ミュウという名前と図鑑情報、そしてグラフィックを与えたもの」がミュウなのではないかと、そう考えているんですね。
なぜ、私がこのように考えるようになったのか。少し説明させてください。
信頼できる情報源に当たれ!
ミュウほど、曖昧な情報に溢れたゲームキャラクターはいないでしょう。私が子供の頃から、ヤマブキシティのデパートでミュウが釣れるとか、サントアンヌ号が出港する前になみのりをするとミュウのいる島につけるとか、様々な噂がまことしやかに囁かれていました。
ネットにも、誕生秘話について怪しげな情報が溢れています。そこで、今回はまず信頼できる情報源として、以下を挙げさせていただきます。
書籍「ポケモンストーリー」
日経BPから2000年に発売された、ポケモンビジネスを扱った本です。真面目な本なのですが、田尻智の生い立ちやアイディアのもとなどが記されており、15年近く前に読んだ本ですが、大変勉強になりました。
ただ、今めちゃくちゃ値上がりしているんですね。この記事を書く前に買って再読しようと思ったんですが、18000円はびっくりです。どこかの古本屋で見つけたときはGETしたほうがいいかもですね。
この本は、まだポケモン発売から4年ほどということもあり、「誰がミュウをいれたのか」ということは徹底的にボカした書き方になっています。田尻智は、都市伝説が好きで、ゼビウスの都市伝説を検証したこともあった。なんてエピソードが紹介され、まるで田尻智が最初から全部仕組んでいたような印象に取れるような部分もありますが、「田尻智がミュウの実装を指示したのか」「田尻智はミュウの存在を知っていたのか」という部分は煮えきらない書き方をしていた記憶があります。
というのも、本でも指摘されることですが、ゲームフリークのやった「契約と違うものを納品した」「任天堂の知らないデータが存在した」というのは、一歩間違えれば訴訟にもつながるヤバい事案でして、田尻智を守る意味でも断定した書き方ができなかった……ということはあるのでしょう。
任天堂公式:社長が訊く
今は亡き任天堂の岩田社長が担当していた人気コーナー「社長が訊く」でのゲームフリークのプログラマ、森本氏の証言です。
このインタビュー記事では、重要ワード「300バイトの空き容量に入れた」という情報が出てきます。流石に岩田社長相手に嘘はつかないでしょう。という気持ちもありますし、本人が言っているので誤解もなさそうです。
なお、この動画で森本さんは「田尻智も交えたイタズラでした」と田尻智の関与を明言しています。
ゲームフリーク公式動画
ゲームフリークの公式動画でも、
「任天堂は知らなかった」
「ゲームフリーク全体でやった」
ということを証言しています。
以上3つの情報源から、「ミュウの実装は終盤になって決まった」「任天堂が知らずに大問題になった」ということは、少なくともゲームフリーク、任天堂両者の考える事実と見て良いと思います。
ミュウがデバッグ用のモンスターであると考える理由
さて、上記が事実として、私がミュウをデバッグ用のモンスターであったと考える理由は以下になります。
種族値が全て100である
ミュウのパラメータは全て100。HP、こうげき、ぼうぎょ、とくしゅ、すばやさが全て100になっています。めちゃくちゃデバッグ向きのポケモンだと思いませんか?
すべてのわざマシンを使える
これは他の理由に比べると弱いのですが、ミュウは全てのわざマシンを使えます。つまり、わざマシンで提供されている技なら全て利用可能です。わざマシンのデバッグや、わざの確認には便利ではないでしょうか?なお私は当初「すべてのわざが使える」と書きましたが、これは不正確でした。(一応、ゆびをふるを覚えますからすべての技は使えるのですが)
ただ、ポケモン自体は、バグポケの挙動から、「わざマシンが使えるかどうか」のチェックはしているようですが、そのポケモンが使って良い技なのかは特に管理していない様子。デバッグ用のツールで技を指し示すポインタを入れ替えてしまえば、どんな技でも使えるでしょうから、デバッグするときはこちらの仕組みを使うのが自然なように思えます。
ミュウの仕様だと、わざマシンが存在するわざしかデバッグできませんから、この説はちょっと苦しいかも……
完成度が妙に高い
3つ目の理由になりますが、「証言通り土壇場でいれたにしては完成度が高すぎる」ということが挙げられます。ポケモンには「けつばん」という名前のモンスターが存在しますが、読んではいけないメモリを読んでいるようで、めちゃくちゃな挙動をします。
「ミュウはデバッグ用のモンスターだったのでは」説に対して、「だったらけつばんはどうなんだ」という反論もあることはあるのですが、けつばんとミュウでは完成度が全く違います。けつばんはモンスターとして意味のあるパラメータにはなっていません。
これは今回調べて知ったのですが、けつばんを入れた状態でオーキド博士に図鑑をみせると、バグるけれども、ミュウならバグらない。という現象があるそう。考えてみれば配布キャンペーンにもあるように、ミュウの存在自体は特にバグを引き起こすこともなく存在可能なんですよね。
いくら領域が空いていたからって、そこに新しいモンスターを急遽ねじ込んでバグが起こらないものなんでしょうか?
まあ、初代ポケモンはやたらとバグが多いですが、ミュウ自体に関しては、ちゃんと動作確認はしている様に見えます。もしミュウがデバッグ用のモンスターであったなら、当然動かしているわけで、ゲームフリークが「ミュウという隠しモンスターを入れても特に問題はない」と考えるのも自然に思えます。
森本さんのやったことはなんだったのか?
森本さんはインタビューにて「300バイトの空き容量に入れた」と証言しています。しかし、この証言、「そもそも300バイトに収まるのか?」という疑問があるんですよね。
今回計算して気がついたのですが、初代ポケモンのドット絵について調べると、正面向きのもので56×56 だそうです。(※といってもネットの情報なのでどうなのか。ゲームのドットを直接持ってくることはできませんので、目測ですが、だいたいそれぐらいはあるようです)
また、初代ポケモンは4階調、つまり1ドットにつき2bitの情報量を持ちます。……つまりですよ、ポケモンの正面のドット絵は、56×56×2の6272bitの情報量を持つことになります。つまり784byteです。
……あれ?この時点で300byte超えてない?
これに加えて、手持ちの時の背中向きのグラ、鳴き声、図鑑の説明文、種族値などのパラメータが必要になるわけで、どう考えても入りそうにありません。
森本さん、これはどういうことなんですか??
まさか森本さんが嘘を言っているとは思えません。300byteという具体的な数字が出てくることを考えても勘違いとも思えない。となると、一体どういうことが起こっていたのでしょうか?この謎についてしばらく考えていたのですがふと天啓が、よくよくみると、ミュウのドット絵ってちょっと小さいように思えます。
早速調べてみると、リザードンやガルーラ、サイドンといったモンスターは、確かに56×56ぐらいの大きさで描かれているようなのですが、ポッポやカブト、キャタピーやピッピという進化前のポケモンは軒並み小さい。
大体32×32の間に収まりそうに思えます。ミュウのドット絵も同様。ということは、初代ポケモンは容量節約のために、二種類の大きさのドット絵を持つか、または可変長のような仕組みを使っているのではないでしょうか?
といいますか、進化後の大きなドット絵と、進化前の小さなドット絵が混在している場合、同じ大きさでドット絵を定義すると、余白が無駄になるわけで、容量の少なさと戦っていた時代のゲームではそんな実装はとてもじゃないですがしないでしょう。
仮に32×32でドット絵が作成されているとすると……32×32×2の2048bit、つまり、256byteで証言通り300byteに収まるのです!
また、以下の動画によると、どうやら圧縮技術も使っていた様子。
この動画では「データの空き容量の関係で小さく、シンプルな色使いにした」と証言しています。データの圧縮方法は様々なものがあるのですが、一番単純な「同じ色が並んでいる場所は、連続している数字を書いて省略」みたいな作り方をしていると考えると、確かに同じ色が多い方が高圧縮になるでしょう。
そう考えると、このドット絵をうまく圧縮して、図鑑や鳴き声などの他のデータをいれると、なんとか300バイトに収まるのでは?という気になります。
つまり、森本さんがやったことというのは、以下のようなことだったのではないでしょうか?
ポケモンの開発時において、パラメータが全て100のモンスターを作り、デバッグに利用していた。モンスターはデバッグツールを利用して手持ちに加えたり相手として出現させたりしていた。デバッグ用のモンスターなので、当然名前も仮だし、グラフィックも存在しない。図鑑もない。
開発の終盤に差し掛かり、デバッグツールを削除した所、300バイトの容量が空いた。ここでゲームフリーク内部で1つのアイディアが浮かぶ。この領域にグラフィックと図鑑のデータを入れて、あのデバッグ用のモンスターに与えれば、151匹目のポケモンを実装できるのではないか?そうだ、ストーリーに出てきたミュウはどうだろう?
幸い、デバッグとして使ってきたわけですから、動作は保証されています。あとは、グラフィックと図鑑の記述だけです。そこで、容量を超えないように慎重に、ドット絵を書き、図鑑の記述を書いて300バイトに収めた……と。
つまり、森本さんがやったことは、名前のないモンスターに、姿形と名前を与えることだったのではないでしょうか?それを300バイトの容量になんとかねじ込んだ。と表現しているのではないでしょうか?
以上は私の勝手な想像になります。しかし、そう考えると非常に筋が通るんですね。デバッグした後のプログラムに手を加えるなんて、プログラマは絶対にやりたがりませんが、この説だと、モンスター自体の動作確認は実行しているわけです。あとは見た目を整えるだけですので、問題ないと判断する気持ちはよくわかります。
謎は謎のままの方が美しいかもしれない
以上、私が考える「ミュウは本当はデバッグ用のモンスターだったのではないか?」説を紹介させていただきました。
繰り返しになりますが、これまでの話はすべて私の勝手な想像になります。本当はデバッグ用のモンスターなど存在せず、バカ正直に全モンスターを召喚してデバッグしていたのかもしれません(すごい手間ですが……)
もしくは、開発の終盤になって、けつばん。の1つをモンスターとして完成させただけなのかもしれません。
なにはともあれ、真実は田尻智や森本さんという関係者のみが知っているわけですが、彼らがまだ存命とはいえ、流石に直接聞きに行くわけにもいきません。正直、田尻智を前にしてまともに話ができる自信もありませんしね。(思い出があふれてフリーズしてしまいます)
いつの日か、この説が本人たちの耳に届き、本当はどうだったのか、教えてくれる日がくるのでしょうか。それとも謎は謎のまま、幻として永遠に残り続けるものなのでしょうか?
案外、ここが解らない方が、都市伝説に彩られたミュウにはふさわしいかもしれません。そう思いながら筆をおかせていただきます。
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