おなまえ
ドアノブを回したことはありますか?
私は不思議と毎日回しています。
毎日回している私にとってドアノブは日常に欠かせないアイテムなのですが、これをもし欠かしてしまったらどうなるのでしょうか。
きっと全ての扉を引き戸として作り替えるしかなくなってしまい、費用の捻出に首が回らなくなった私達は「気を回しすぎだと言われるくらいドアノブを気にかければ良かった」と後悔、やがて忙しさで目も回り始めてしまい、最後には頭の回転を止めるのです。恐ろしいですね。
しかしドアノブを回すことは無くなるので腱鞘炎とはおさらばできそうです。こんなに嬉しいことが他にあるでしょうか。私はあります。
以上のことから、ドアノブを無くしてはいけないことがわかりました。
では反対に、ドアノブの数を増やすとどうなるのでしょうか。
もしかしたら身の回りのドアノブを増やすことでより色鮮やかな日常を過ごせるのではないか? 最近はこんなことばかり考えてしまいます。
検証も兼ねて、まずは知り合いに次々とドアノブを送りつけてみようと思います。
もちろん「あなたの日常に彩りを!」という善意の贈り物ではあるのですが、中にはこれまでの人生でドアノブを回したことが無い人がいるかもしれません。そうなれば「正体不明の物体を送りつけるな」と憤慨、確かに単体で見ればよくわからないものを私へ送り返してくることになるでしょう。それはそれで自然とドアノブが私の元に集まってくることになるので一石二鳥です。この場合の一石が私に向かって投げつけられた物であることは言うまでもありません。
とはいえ、何があっても人に石を投げるなんてことはあってはならないので、そんなことしたらダメだよとブーメランを投げておこうと思います。
さて、回るといえば、私の名前にも回るという意味の英単語『spin』が含まれています。
この名前ですが、かれこれ十年以上の付き合いになります。脳よりは短いですが、それでもかなり長い付き合いですね。
そんな中でspinhairとしてお会いさせていただいた方が何名かおられるのですが、ほとんどの方が開口一番こう仰いました。
「もしかしてspinhairさんですか?」
「はじめまして!」
「いつもお世話になってます!」
お会いした皆様、それはもう丁寧に挨拶をしてくださいました。こんな私に、なんて優しく素晴らしい方々なのだと感服したことを今でも覚えています。お世話になっているのは私の方です。
しかし問題は二の句、或いはしばらくしてからのことです。
「実際に会ってみると全然spinhairじゃないですね」
「スピンしてるヘアーはどこですか?」
「偽物ですか?」
「騙したんですか?」
「思ってたより弱そうですね」
「こんなに弱いとは思ってませんでした」
そうです。名前負けとは言いますが、私の場合は本体がハンドルネームに大敗北しているのです。
言うなれば事実改変です。語感が流行りの漫画みたいです。
このままでは商品名に誤解を招く表現があるということで通報されてしまい炎上、長らく着ていないスーツを引っぱり出して謝罪記事を書かなければなりません。
ですが待ってください。
これにはちゃんとした言い訳があるのです。通報するのは24歳成人男性が必死こいて言い訳する様を見届けてからでも、遅くはないと思いませんか。思ってください。泣きますよ。
ともかく、どうか私の魂が籠もった言い訳を聞いてやってください。きっと損はさせません。得もさせませんが、見知らぬ生き物の咽び泣きだけは回避できます。
あれは小学五年生の頃のことです。
私は元々かなりの短髪で、癖毛とはまるっきり無縁でした。しかし私の中には私自身も知らない、秘められた力の奔流のようなものが渦巻いていたのです。
思い付きで髪を伸ばし始めていた私の毛先に、それは徐々に発現していきました。一方向だけを向いていた髪達は徐々に曲がり、程無くしてそれはもう見事な天然パーマを形成するに至ったのです。
端的に言えば、髪を伸ばすことで天パが出始めました。よくあることだと聞いています。
私がspinhairを名乗り始めたのはちょうどその頃です。
当時『うごくメモ帳』というDSiのソフトでネットに触れていた私は、何を考えていたのか本名をハンドルネームに設定したまま長らくネットの海を漂っていました。もちろん何も考えていなかっただけなのですが、本体に設定した自分の名前がそのまま反映される仕様だったこともあり、それはもう驚くほど正直に本名をそのまま設定してしまっていたのです。
作品を見せていただくだけの立場だったこともあり特に不都合は無かったのですが、それでも途中で気が付きます。「これは本名を書いたプラカードを掲げて街中を闊歩するに等しい行いなのでは?」と。
ようやく気が付いた私は、首から下のあらゆる毛が抜け落ちてしまいそうな恐怖を感じながら、慌てて代わりとなる名前を考えました。
そして目についたのは、既に立派な天パになっていた自分の髪です。
天パ。
髪が、くるくる。
髪が回転。
回る髪。
極めて単純、だからこそ明快。
私はこれだと思いました。
spinhairの誕生です。
しかし、この記事をここまで読んでくださっている皆様はもうお察しのことでしょう。
その通りです。
髪を伸ばすことで表れた私の天パは、髪を短くしてしまえばいとも簡単になりを潜めてしまうのです。
spinhairの名を使い始めてからしばらくして、伸ばした前髪を邪魔だと感じることが増えた私は久しぶりに髪をばっさり切ってしまいました。
するとどうでしょう。いえ、言うまでもないでしょう。天パは治まります。
友人知人からも「天パじゃなくなってる!」「久しぶりに天パじゃないとこ見た!」「性根がひん曲がってるのが目立つようになったね」などと言われ、自分の頭がspinhairだと言い張ることは難しくなってしまいました。
しかしspinhairと名乗ることはやめられません。理由は簡単です。愛着が湧いてしまっていたのです。
それがspinhairを名乗っておきながら、とてもspinなhairとは言えない頭を帽子の台にしている生き物が今日もさまよっている経緯となります。
いかがでしたでしょうか。
体を表していた名前は完全に置いてけぼりをくらった形になり、裸の王様の頭にただ一つ乗っかったままの冠の如くです。
しかしそれこそが私の存在表明。髪が無くなったとしても私はspinhairと名乗り続けるでしょう。
なのでどうか、私をホラ吹き男爵と呼ばないでください。
straighthairまでなら大丈夫です。
それ以上のツッコミは、私の心の中の三歳児が「こっちは三歳だぞ!! ばぶ!!」と癇癪を起こしてしまうので、お控えいただければ幸いでございます。
私の心の中にいるので三歳児も声変わり済の認識で間違いません。
最後になりますが、私は回転という事象に特段思い入れはありません。
その場でくるくる回ってみても酔って気持ち悪くなるだけなので、いつになったら改善してくれるのかなと思っています。三半規管のアップデートを待ちましょう。
ちなみに三半規管の近くには『蝸牛』、『うずまき管』と呼ばれるものがあるそうです。
回りすぎじゃないかなぁ、と思いました。
それではここまでのご拝読、誠にありがとうございました。またお会いできると嬉しいです。
見出し画像はこの記事を書いている時に飲み終わったペットボトル飲料のキャップです。
しっかり回して締めましょう。