No.2『石黒くんに春は来ない』
学校の女王・京香に告白し振られた石黒くんが意識不明の重体で発見された。クラス全員に失恋をバラされたショックによる自殺未遂かと思われたが、学校は知らん顔。しかし半年後、名ばかりの偽善グループライン「石黒くんを待つ会」に、病院で眠り続けているはずの本人が参加し大混乱に。“復活”は復讐の合図⁉弱肉強食だった教室の生態系が崩れ出す。
(裏表紙より)
完全にジャケ買いした。表紙の絵があまりにも美しくて、手に取った。あらすじを読むと学校が舞台のイヤミスものっぽくて、一瞬「学校モノはしんどいから読みたくないなァ~」と思ったのだが、表紙がとにかく美しくて、我慢できなくなって、気づいたら購入していた。
読んでいくと、とにかく共感できる点が多くて、胸が痛くなった。学年LINEやクラスLINEなど、いわゆるパブリックともいえる場で、クラスの中心、まさに「スクールカースト上位」な人たちが内輪の話題で盛り上がる。「石黒くんを待つ会」といったグループ名を軽率につけてしまうセンス。スクールカースト上位な生徒と親密になる教師。リアルすぎる。自分たちの行いが、どこかで誰かを傷つけているかもしれないなんて考えもしないのだろうなという言動。意識不明で生死を彷徨っている人間すらも小ネタとしてイジってしまう、スクールカースト上位な人たちの、恐ろしいほどの無邪気さ。そしてそんな生徒と「仲良くする」教師に至っては、ここまでリアルに描かれると僕自身の当時を思い出して読んでいて体調が悪くなってしまった。自分と関わりの薄い生徒はモブとでも思っているのだろうか、自分の言動で生徒が傷ついていることに気づきもしない。本書に出てくる教師も、高校時代から精神的に成長できていないにも関わらず高校教師になってしまった、そんなキャラクターだった。
読んでいて思わず息を飲んだのが「久住京香というブランド」という言葉。これが一番ガツンときた。スクールカーストは最上位にまでのぼり詰めたら、ブランドと化す。学生時代から靄として感じていたが、言語化できずにもどかしい思いをしていたのを、代わりに言葉にしてもらったような感覚がした。
大きな社会でも小さな社会でも、上下関係というのはどこにでも存在する。30人程度で構成されたクラスという、閉鎖的でごく小さな社会にも存在する。スクールカースト問題、いじめ、学生同士の差別。いろんな問題が渦巻く中で、石黒くんの事件が起きる。それがきっかけとなって、スクールカースト下位の存在からの下克上が始まる。主人公の恵は、それに初めは違和感があって、傍観者の立場でいようとしていた。でもすぐに、一緒になって反撃行動に乗っていく。主人公だからといって、中立ではない。中立ではいられない。そのあたりが、うまく闇を表していると思った。
僕が購入した文庫本の帯には、「アオハルなんて、キレイゴト。」と書いてあったが、まさにそうだと思った。この作品は、青春学園ミステリに見せかけた、ドロドロとした復讐劇だ。
ミステリと呼ぶには、少しだけ物足りないと思う。犯人や黒幕は、案外予想通りだった。読者をアッと言わせるどんでん返しだけだけが読みたいなら、心の底から満足することはできないかもしれない。
ただ、予想通りだったのがつまらなかったわけでは決してなく、とても面白かったし、心の底から満足できた。最後には、本当にゾクッとさせられた。学生特有の、学生にしか持っていないリアルで複雑な関係。心理描写の深さやリアルさ。登場人物たちが発する言葉の一つ一つがリアルで、本当にうまいと思った。
No.2『石黒くんに春は来ない』
著者:武田綾乃/出版:幻冬舎文庫