No.14『Q&A』
都市郊外の大型商業施設において重大死傷事故が発生した。死者69名、負傷者116名、未だ原因を特定できず――多数の被害者、目撃者が招喚されるが、ことごとく食い違う証言。防犯ビデオに写っていたのは何か?異臭は?ぬいぐるみを引きずりながら歩く少女の存在は?そもそも、本当に事故なのか?Q&Aだけで進行する著者の真骨頂!
(裏表紙より引用)
表紙にとても目を惹かれ、読むのを楽しみにしていた作品。とても面白かった。面白かったけれど、その分残念でもあった。
ショッピングモールで原因不明の事故が発生、理由も分からないまま人がたくさん死んでいく…という題材。とても面白い。読みながら、ああでもないこうでもないと自分なりに答えを予想しながら読んだのもとても楽しかった。誰かと誰かの1対1で進む構成にもとてもワクワクした。だからこそ、終わりが残念だったのだ。急にホイッと、こちらにサジを投げられたような感覚になってしまった。
表紙に書かれている「防犯ビデオに写っていたもの」「異臭」「ぬいぐるみを引きずりながら歩く少女」という文章。これがものすごく目を惹く。だから期待していた。しかし、読んで分かったことは、これらの文章は「事実」というよりも「主観的」「感覚的」「メンタル的」なものであったということだ。
私はこの小説を「ミステリ小説」だと思って買い、読んだわけだが、そもそもそこからもう間違いだったのかもしれない。この小説は、次から次へと謎は出てきても、解決はしない。読めば読むほど謎は深まっていくばかりだ。だからこそ「どうなるんだ!?真実は何だ!?」とのめり込んで読んでしまう。そして最後、急に終わって呆然としてしまう。
そして、この置いてけぼり感を抱いてしまう理由として、オチが急にファンタジックになったところも一因かもしれない。あれがファンタジックという言葉で合っているのかは分からないが…。この時ようやく「あぁ、この小説はミステリ小説ではないのだ」と気づいた。
群衆が押し寄せることによる事故というのは、明石の花火大会で起きた歩道橋の事故など、現実でも起きている。集団ヒステリーやパニックの伝染というのも非常に現実的な現象だ。そしてそれをQ&Aという形で進めていく。そうであるならば真実が欲しかった。確かに「解釈は人それぞれ」的な終わり方の作品は面白いし私も好きだ。けれど、それはこのテーマでやるには少し向いていないんじゃないかと思った。急にサジを投げられたような、パッと手綱を離されたような感覚になってしまうからだ。
ここまで残念がってしまう理由がもう一つある。この作品がミステリではなく「人の心・メンタルの揺れ動き」「いかに人の主観が曖昧なものか」ということがテーマであるとするならば、あまりにも前半の「当事者たちの証言」が面白すぎることだ。興味深すぎるのだ。堂々と万引きを繰り広げる上品な老夫婦や不審な紙袋を投げた男など、前半であまりにも興味深すぎるパーツが用意されすぎてしまっている。ここまで丁寧に「謎解きの御膳立て」をされてしまっては、真実が欲しくなっても仕方ないと思う。
確かに群衆事故というものはそもそも特定の犯人がいるわけではなく、人が過度に集まることで起きる悲劇的な現象のため、それに対して「真実をくれ!答えをくれ!」と叫ぶのは正しくないのかもしれないが、先程述べた老夫婦や男などと言った明らかに引き金になった存在が興味深すぎる。
前半のインタビュアーの正体は一体何者なのか、なども含めて「解釈は人それぞれ」なのかもしれないが…。ちょっと考察する気分にもならなかった。私が真実を考えるのではなくて、著者が用意した真実までを全て享受したかったし、そのためにこの本を開いた。
この小説は確かに面白い。面白いからこそ、残念に感じてしまった。
No.14『Q&A』
著者:恩田陸
出版:幻冬舎文庫