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元彼Y⑲過去が追い掛けて来る

彼は本当によく耐えて来たと思う。
たった1人の女の為に全力で。
意地もあったと思うけど
本気で守ることを示すことで
私を変えられると考えていたと思うから。
彼の貫いた信念は本物だったし
間違いなく私は彼に心を動かされた。
この頃に出逢っていたのが彼で良かったと
今でもそう思える。

年齢は離れていたけど
不思議なくらいハマってたよね。
独特な私を面白がるYの懐の深さがあったから
笑いも絶えなかったんだろうとも思うけど。

私がまだアルバイトしてた頃、会社に来ていたYのママに言われた事があったの。
“息子からあなたの話聞かされてる”
“迷惑じゃなかったら色々叱ってやって”
“息子のことお願いね”って。
話さなかったけど、
ママが私に色々教えてくれた。
明け透けに話してくれたママは、
私のこと心配してくれてたのかな笑
昔は結構雑に遊んでたんだよね。
だから私のことも珍しい女だし落としてやろうとか思ってるのかなって感じたこともあったけど、実際はそんな安い男じゃなかったよね。
少なからず私の前では不安な側面は無かったし
その頃の不安定な私には理想だったと思う。
在り来りな言葉は使いたくないけど
諦めずに掴まえてくれたYは誠実だったし
私にはもったいない人だったと思ってる。
毎日呆れるほど話して長い間一緒にいたけど
何一つ変わること無くずっと強い男で居続けてくれたから。
幸せだった私。
ママにもそう伝えたかったな。
幸せにされ過ぎたと思ってること。
この世に私と11年の差を持って生まれて来たYは、私よりもずっと深い愛を持った素敵な男性でしたよ、と。


それからたくさんの月日が流れて
同時期にYも私も仕事に追われる日々が続いて
すれ違いが増えて行ったね。
私の仕事が異動により空港勤務になったことで
生活スケジュールが大きく変わったのが致命的だったのかな。
居住地の都合で夜中の3時に起きて準備して
車と電車で2時間近く掛けて通勤して
仕事が終わって真っ直ぐ帰宅しても19時過ぎ。
夕食食べて洗濯してお風呂入ったら
あっという間に寝る時間。
日課の電話も出来なくなって、
普通に逢うのも難しくなっていったね。
Yは寝る時間も無い程に仕事に拘束されて
めまぐるしい日々だった。
電話の最中に寝落ちすることも増えていって、逢ってる時も眠気に襲われながらも必死で起きようとしてたよね。
私といると眠くなるって言ってたけど
疲れてたんだと思うよ。
若いとは言え激務だったもんね。

可哀想だと思ってた。
私も慣れないシフトやタスクで体調崩したりして苦労してたけど、彼の責任とプレッシャーを考えたら比べ物にならない程の苦悩を抱えていたと思うから。
二世という宿命を背負った彼を見ていて
同情したりもした。
これからどうなるのかな。
この先どうすればいいのかなって思うようになったりした。


疲労困憊の彼を見ていて言ったことがある。
『しんどいのに私に逢いに来て余計疲れない?』
『その時間睡眠に使ったら?』
“寝ても疲れ取れないよ”
“あぁちゃんに逢わないと俺マジで死ぬ”
“充電させて貰わないとキツイ”
彼から生まれる言葉を
素直に嬉しいと感じる時もあれば
そうでない想いが馳せる日もあって
こうした本音を目の当たりにすると
会社の為に命を削ってるとさえ感じる様になって、私は同時に怖くなった。
彼をリスペクトする気持ちは確かにあったし、私の役目は出来うる限り彼の療法であることだと思っていたけれど、私のベクトルは少しずつ方向を変えてしまうようになった。

近い将来、彼は会社を継いで多くの社員を背負って行く立場になる。
近々、海外に別会社を設立する予定も迫っていた。
今が一番大事で、一番忙しい時かもしれないのに、私が負担になっている様な気がしてならなかった。
そしてこの先、私にも解決しなければならない現実と記憶があることを思い出さずにはいられなかった。


彼の寝顔を見ながら
はじめて淋しいという感情が湧いた。
心がざわついたのを覚えてる。
仕舞っておいたはずの記憶と
激しい不安に苛まれて
今在るはずの現実が霞んで見えた。

振り返れば
この日がきっかけでおかしくなった気がする
私が壊れ始めたんだと思ってる
私が私じゃなくなって
どうすることも出来なくなった
変わってしまったというより
手付かずにしていた過去から
もう逃げられなくなってしまって
心が錯乱しているようだった
過去と共存し続け生きてる私は
けじめを付けるには遅過ぎて
幸せになるには早過ぎたんだと
全ては自分が招いた運命で
この恋の責任の所在は私にある

今ならそう分かるんだけどな




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