元彼Y⑫サプライズの渋滞
“ただいま、あぁちゃん”
“びっくりした?”
嬉しそうな顔して帰って来た。
『おかえりなさい』
『なにこれ、仕込みだったの?』
“あぁちゃんに喜んで貰おうと思って”
“あぁちゃん来るの屋上から見てたんだよ笑”
『なにそれ笑』
『緊張したんだから、人の家に勝手に入るの、やめてよ笑』
でも、わざわざお土産なんか買って来て
プチサプライズ仕込んで
やっぱりかわいいとこあるんだね笑
だけど、待てよ?
一週間連絡して来なかったのは
もしかしてこれの為なのか?
その為の緩急?
絶対そうだ、この計画的犯行は
この男ならやりかねない笑
普段から彼は何でもよく喋る人だったけど
その日はいつもよりテンション高めで
色んな話題を次から次に続けていた。
仕事が好調だったのも勿論あったと思うけれど
何となくそれだけじゃ無い気もしていた。
疲れてるんだろうな
ストレス溜まってたんだろうな
発散してるんだろうな、きっと
そんな風に彼を感じた。
私はほぼ聞き役に徹して
何時間も話に付き合った。
日付が変わってしばらく経った頃
限界が来たのか彼に睡魔が襲った。
『眠いんでしょ?寝たら?』
『わたし帰るから、ゆっくり寝て』
“待って”
“30分だけ寝かせて”
“やらなきゃいけない仕事一つあるから30分後に起こして”
30分で起きるのかな?
仕事残ってるなら
私と喋ってる場合じゃなかったじゃん
無理することなかったのに
30分後に起こすと
“あと15分” “あと10分”
それが数回続いて
結局起きたのは1時間半後。
起きたら起きたで
“シャワーして来るから待ってて”
ちょっと!
いつまで付き合わせるのよ!
はよ帰らせて笑
シャワーから戻って来たら
今度は“腹減った“とか言って
家にあったカップ麺食べてまったりしてる。
これは朝までコースだなと思ったので
彼の溜まりに溜まった洗濯物を
片付けてあげようとした。
『その間仕事してて』
『じゃないと進まないでしょ』
そうして無理矢理仕事させた。
隣の部屋で洗濯物を干していた。
静かな広い何も無い部屋で。
隣から彼が打つキーボードの音だけが聞こえていた。
干し終わってから何気なく窓の外を見ると
高層階から見える夜景がキレイでしばらく見入っていた。
ふいに彼に呼ばれて振り向くと
“あぁちゃんって、悲しそうな顔してるよね”
え?
“会社にいる時もそうだし、今とかも”
“悲しそうな顔するよね時々”
びっくりした
そんなこと言われたの今まで無かったし
そうだとしてもそれを言葉にされたことなんて無かったから、すごい動揺した
そんな風に見られてたなんて
『そう?』
『そんなつもりないけど』
『何も考えてないよ、別に』
言い訳みたいな返事になった。
“だって俺、結構あぁちゃんのこと見てるから”
“だから分かるよ”
“色んな表情してるの俺見て来たよ”
“1人になるとなんか悲しそうなんだよね”
何か言わなきゃと思ったけど
自分のこと見透かされた気がして
言葉に詰まってしまった
“ごめん、嫌だった?”
“でも俺、適当に言ってる訳じゃないよ”
“一目見た時からずっと、俺、
あぁちゃんのこと想ってるから”
そう言って彼が私を抱きしめて来たけど
動揺していて感情が渋滞しまくった。
どういうこと?
想ってるって何を?
“知らなかったでしょ?”
“あぁちゃん、俺に興味無さそうだもんね”