元彼Ｙ⑦へこたれない性格

当時彼は
私がそれまで出会ってきた歳下の男性の中で誰よりも群を抜いて印象深かった。
年齢の割には妙に落ち着いていて
テキパキハキハキ的確な物言いをするし
仕事風景を見ていても、相当なキャリアを積んで来たんだろうと思うほど取引先と物怖じせずにやりとりをしていた。
肝が据わっているというか器が深いというか
究極な場面であっても感情を高ぶらせること無く冷静沈着に問題を解決するタイプ。

社内や社外で年齢を１０歳も誤魔化していたのは、業務上関わる相手に気を遣わせない為の配慮であったり、
本名を名乗らず母親の旧姓を使っていたのは、その界隈では名の知れた父親が社長であり、その二世であることを隠す為の手段でもあったり。
２３歳でここまでしたたかな男は珍しかった。
実際、その事実を知っていたのは私を含め数人程度で、ほとんどの関係者が彼は３０代の一般社員だと思っていた。
決して老けている訳では無く、独特の空気感が漂っていて大人びていたというか。
彼の生まれ育った環境がそうならざるを得ない性質を作り上げたのかもしれないけれど、中身を知れば理解が深まり、当初私が彼に抱いていた印象も次第に薄れていった。

生意気で強引で自己中で振り回されることもあったけれど、私とは正反対のその性格は楽にさせてくれたようにも思える。
”へこたれない性格”
彼のママが言っていたけれど、
私が見て来た印象はまさにその言葉通りで、
誰に何を言われようと思われようと
相手が誰でどんな人であろうと
崩される事なく居続けられる彼のメンタルは
私にとって羨ましくもあった。
自分が手にしたくても入れられないものが
彼にあることに気付いて見る目が変わった。