パニック発作:急行電車
パニック発作の不安が強くなるのが怖いから電車に乗る必要がある時は
時間が掛かっても各駅停車の普通に乗る様にしていた。
その日は予定の時間に遅れそうで
いくつかの駅を通過する急行電車に乗ろうと考えた。
次の停車駅まで10分。
外の景色は見慣れてるし
乗客も少ない時間だし
席もゆったり座れる。
たった10分間の乗車時間だからいけるはず。
運転席に近い場所の席に座った。
前にも横にも乗客はいなかった。
外の景色を確認して
次の停車駅までの景色をシミュレーションした。
大丈夫、いける。
発車のアナウンスが流れる。
少し緊張が走った。
車掌の笛が鳴る。
あ、ちょっと、不安。
ドアが閉まりそう。
やっぱり、出たいかも。
いや、もう、出られない、間に合わない。
ドアが閉まる。
ゆっくりと発車する。
発車して1分程。
動悸がして来た。
呼吸がしづらくなる。
死ぬかもしれない不安感で頭の中がいっぱいになる。
だめだ、やっぱり、だめだった。
急行乗るんじゃなかった。
どうしよう。
まだ乗ったばっかりなのに。
後何分?
怖い。
やめて、ひどくならないで。
深呼吸しよう。
落ち着いて。
だめ、ここに座ってるのが窮屈で怖い。
ドアに、ドアの所に行こう。
外に近いところへ。
電車の中にいて外に近いところなんて
実際は無いけれど
それでもすぐ外に出られる場所として
座席よりもドアの前にいる方が
不安が軽減されるような気になるのです。
呼吸を整えながらドアの前に移動する。
扉の隙間からわずかに入って来る外気で呼吸する。
外はすぐ近くにあるんだと自分に言い聞かせる。
外の景色がまだ停車駅まで遠い事が分かるから不安が強くなる。
目をつむって影響されないようにする。
ゆっくり深呼吸しようとする。
後どのくらいかな?
まだかな?
苦しい。
頭の中から恐怖感が消えない。
このまま息が出来なくなったらどうしよう。
倒れそう。
足の感覚が無くなっていく感じがする。
お願い。
早く着いて。
それまで耐えて、お願い。
駅に着いた。
ドアが開く。
電車に乗り込む乗客が目の前にいる。
うつむいてゆっくりと一歩を踏み出す。
動作の遅い私を見て
すれ違う乗客が怪訝な表情をしている様な気がしてしまう。
どこか陰になる所へ。
人目につかない所へ行かないと。
誰にも見られたくない。
数歩進んだところで限界が来て
その場に座り込んだ。
両手を地面に付けて
肩で息をする。
コンクリートの地面を見ながら
もう外だから解放されたんだよと自分に暗示を掛ける。
後ろから、誰かの声が聞こえた。
“大丈夫ですか!”
振り向く余裕なんて無かったし
振り向く勇気も出なかった。
聞こえないふりして無視してしまった。
罪悪感と恥ずかしさで
早くその場を離れたかった。
電車が発車した。
ほっとした。
数メートル先のベンチ目指して立ち上がった。
ベンチに座れば大丈夫。
人目につかない。
辿り着いたベンチに座って1人で泣いた。