玉音放送を生で聴いたおばあちゃん
忘れられないおばあちゃんがいる。
私がBC(ビューティカウンセラー)をしていた頃のお客さま。
いつも可愛らしいお洋服を着て
明るいピンクのリップを塗って
小さな身体でゆっくり歩いて
上品で穏やかに話していたおばあちゃん。
週に1~2回はお会いして
軽くおしゃべりする時もあれば
Make up用品を買いに来たのに全く違う話で盛り上がってしまい
気がつけば1時間経っていたという事もよくあった。
私よりも何十年と人生の先輩だったけど
どこか感性が似ていて
とても気の合う大好きなお客さまだった。
その週はおばあちゃんの誕生日があったので
化粧品メーカーからと個人的に用意したプレゼントをお渡しする為
スケジュールを空けて待っていた。
明るい笑顔で“会いたかったわ”って歩いて来たその姿が可愛らしくて
今日はいっぱい話そうって思った。
先週買ったファンデーションの話。
買おうか迷ってるワンピースの話。
息子さんの話。
近所のお友達の話。
一通り話して笑って楽しんでいたはずが
どこかで流れが戦争の話題になった。
私はとても戦争の話が好きで
というよりその時代の背景に強く惹かれるところがあるので
見たり読んだり聞いたりするのが好きだった。
前から浮かんでいたけど
なんとなく言えずにいたそのこと
思い切って聞いてみた。
玉音放送って聴かれてたんですか?
“聴いてたわよ”
“お昼頃にね、女学校にいるとき”
“ラジオがね、
雑音がうるさくて何言ってるのか全然分からなかったのよ”
笑って教えてくれたけど
私は密かに感動していた。
生で聴かれていた方を目の前にしている事に。
どんな気持ちになったのか。
どの様な想いがあったのか。
思わず聞いてしまった。
戦争が終わったなんて実感が湧かなかったこと。
日本が負けたという複雑な想いがあったこと。
偉い人や身内にたくさんの別れがあったこと。
苦しかったけど希望もあったこと。
自由になる方が大変だったこと。
丁寧に穏やかに思い出しながら教えてくれた。
いつの間にか私たちは涙を流しながら
手を繋いで話し合っていた。
店内の片隅にあるブースの中で
お客さまと社員の私が泣きながら話しているのを知って
責任者や他の社員が心配して声を掛けて来た。
“戦争の話が止まらないのよ”
“誕生日のこと忘れてたわ”
そうおばあちゃんが言った言葉に
ドッと笑いが起こった。
激しく哀しい時代を生き
現代では味わうことのない苦しみを経験し
何十年経っても消えない傷を持ち続けてる。
言葉にならない貴重な女性の人生の一部を知って
心底感銘を受けた。
素敵な出逢いと命の尊さを教えてくれたこのおばあちゃんに感謝してやまない。
今は、痛みの無い世界で
笑って過ごされています様に。