Black Country, New Road 歌詞解釈 "Concorde"編
イントロダクション
前回に引き続き、Black Country, New Roadの"Ants From Up There"よりTrack 3 "Concorde"について考えていこうと思います。
歌詞
コンコルドというモチーフ
「コンコルド」はアルバムのアートワークにもなり、この曲だけでなくTrack 1, Track 8, Track 10にも登場する、"Ants From Up There"の中で最重要なモチーフといえる。このモチーフが何を象徴するものか考えるために、まずそもそも「コンコルド」とは何だったのか調べてみよう。Wikipediaによる説明は以下である。
このようにコンコルドは旅客機の一種である。しかし、普通の旅客機と比べて異なる点は、多くの資金や労力をつぎ込んで開発されたにもかかわらず非常に短い期間しか運用されないまま退役した機体である点であろう。運用の中止の直接的な要因は利益が出なかったことであったが、乗客定員数の少なさや燃費の悪さなどの問題から採算が取れないことが開発途中で判明していたという。それにもかかわらず、コンコルドの開発は続行された。このことを受けて"Concorde Fallacy"(コンコルド誤謬またはコンコルド効果)という言葉が生まれた。この「コンコルド効果」は以下のように説明される。
「事業を続けても利益が見込めないにもかかわらず、それまでの大きな投資が無駄になることを惜しんで事業をやめられない状態になること。」
つまり、高性能でフォルムも美しい旅客機であると同時に固執的な精神状態の象徴でもあるという二面性を含んでいるのがこの「コンコルド」なのだ。このモチーフがどのように機能しているか、まずはこの曲の歌詞を通じて考えていこうと思う。(もちろん、アルバムを通じて登場するので登場するたび考えてみたい。)
歌詞解釈
この曲の歌詞は一部難解な部分を含むが、比較的率直に捉えることができる。つまり、この曲のテーマは"強い憧れ・恋愛感情を抱く対象の相手と自分の非対称な関係性に悩む"ということであろう。その相手を"Concorde"、自分(Isaac)をそれを一目見ようと丘を駆け上がる"A gentle hill racer"に喩えることでそのアンバランスな関係性を巧みに表現している。
非対称ではあるが、丘の頂上で一時を共有できたと喜ぶ("For less than a moment, we'd shared the same sky")健気さが苦しくもあり、感動的でもある。
コンコルドは高性能で綺麗なフォルムの旅客機であると同時に「コンコルド効果」という言葉が生まれるように失敗が分かっていても固執してしまう精神状態の象徴でもある、二面性のあるモチーフだと述べた。今回の曲中において、前者の側面は飛行機と丘の人という非対称な関係性を表すために上手く機能していると考えるのは前述の通りである。後者についても曲中で以下のように巧みに機能していると考える。
"Concorde, this organ, the new one I'm forming"
"It's grown so persistent on you by the morning I fell to my feet"
"And the doctor said we are unfortunately running out of options to treat"
歌詞の冒頭は以上のように始まる。「新しい臓器ができ、あなたにしつこく育ち続けている。医者はもう手遅れだといった。」といったところだろうか。これはまさしく「コンコルド効果」に通ずるところがあると考える。非対称で一方的な届かぬ想いであることは分かっていても、想いをつぎ込み続けることはやめられない、というところが。
つまり、改めてこの曲のテーマについてまとめると、"強い憧れ・恋愛感情を抱く対象の相手(condorde)と自分(gentle hill racer)の非対称な関係性に悩む"ことに加え、"非対称で一方的な届かぬ想いを自覚しつつも想いを捨てられない(コンコルド効果)"ということと言えると考える。この二つのテーマを表すのにコンコルドはまさにぴったりのモチーフであったといえるだろう。
これで歌詞の解釈は充分だと思うが、面白いと思った点をもう少しだけ書いてみる。前述の通り「私 = Isaac」は一方的な想いであることを自覚している一方で、後半にかけて想いがエスカレートしていき半ば強引に相手に話しかけるような態度になっているように感じられる。
"Concorde, we're old now"
"I heard that you're on Atkins as well"
"I was made to love you, can't you tell?"
"I know you that you'll be there"
"Concorde and I die free this time"
この後半パートではもうやけになっていて、相手そのものというより自分の中の相手像のようなものを彼の中に無理やり作って話しかけているのだと思う。コンコルド本体の模倣品であるミニチュアを部屋の中で眺めるように。想いが暴走するあまり自分の中の相手像が相手と分離し、最終的にその想いは「私 = Isaac」とともに「私」の中で「死んだ」ことで終幕となっているのかもしれない。
部屋の中のコンコルドのミニチュアは袋詰めされて壁に掛かっている。
次回があれば"Bread Song"でお会いしましょう。