Black Country, New Road 歌詞解釈 "Bread Song"編
イントロダクション
引き続きBlack Country, New Roadの2ndアルバムである"Ants From Up There"よりTrack 4 "Bread Song"について考えていきたいと思います。
歌詞
Bread
この曲のタイトルにもなっている"Bread"は、もちろんパンのことである。「パンの歌」と題されたこの曲ではパンのことを指す単語として"Bread"の他に"toast"(もちろんトーストのこと)が登場する。さらにパンに関連するワードとしては"crumbs"と"particle (of bread)"が挙げられるだろう。これらのパンに関する記述はchorusの一節にまとまって以下のように現れている。
"Don't eat your toast in my bed"
"I never felt the crumbs until you said 'This place is not for any men nor
particles of bread'"
私は、題名にも関された「パン」について言及しているこの部分にこの曲のテーマが集約されていると考える。そのテーマについて考えるうえで、私は"crumbs"という単語に注目したい。単純に考えれば「パンのくず」ということになりそうな気がするが、それだけでは「"This place is not for any men nor particles of bread"と言われて初めて"crumbs"に気が付いた」という一節を捉えきれてはいないだろう。"crumbs"=「パンのくず」とすると、"Don't eat your toast in my bed"及び"This place is not for (中略) particles of bread"という部分については、文字通りparticles of bread=「パンのくず」であるから、すんなりと理解できる。その一方で、"This place is not for any men"と言われて気が付いた"crumbs"については疑問が残る。では「ここはどの男のための場所でもない」と言われて気が付いた"crumbs"とは何のことだったのだろう?
歌詞解釈
私は、この曲のテーマは"親しいと思っていた相手からの拒絶"とまとめることができると考える。この曲は次のように「私=Isaac」が電話を通じてパートナーをつなぎとめようとしている描写から始まる。
"OK well I just woke up, and you already don't care that I tried my best to
hold you through the headset that you wear"
"And as tight as I might hold it over where the signals good, there's no way to save your evening now through the little phone that could"
「あなたを繋ぎ止めようとベストを尽くしたのをあなたは既に気にしていないようだ。この小さな電話であなたの夜をとっておいてもらうのは厳しいらしい。」といったところだろうか。この部分からすでに「私」から相手への想いと相手から「私」の想いの間には温度差が感じられる。
("as tight as"の部分は「私が電話をtightに握るのと同じぐらい、あなたの夜をとっておいてもらうにはスケジュールがtightみたいだ」という意味?)
次の節ではそんな状況の中でも気丈にふるまって見せてはいるものの最終的に"I was still losing"と「私」の敗北感が吐露されている。これらの描写に続いて最重要といえるchorus部分になだれ込む。改めてサビ部分の歌詞を見てみよう。
"So show mе the land you acquire"
"And slip into something beside the holes you try to hide"
"And lay out your rules for the night"
"'Don't eat your toast in my bed'"
"Oh darling I, I never felt the crumbs until you said"
"'This place is not for any man nor particles of bread'"
太字にした箇所が相手側の言葉である。「手に入れた土地を私に見せて。そしてあなたが隠そうとする穴の傍の何かに滑り込む。そしてあなたの夜のルールを並べてみる。『私のベッドの中でトーストを食べないで』。嗚呼、私はあなたに『ここはどの男の場所でも、パンの破片の場所でもない』と言われるまで"crumbs"に気が付かなかったよ。」といったところだろう。
このchorus部分はベッドというプライベートな空間を舞台に展開されている。「私」は親密さの証を求めてか、相手のベッド、そしてそれに象徴される心の奥深くに入り込もうとするが、"crumbs"を落としたせいでそこから追い出されてしまっていると見受けられる。
この文脈をもとに考えると、「パンのくず」以外にもう一つ"crumbs"が表すものとは、ベッドというパーソナルな空間で「私」がこぼす「ダメな部分の断片」のようなものだと言えるだろう。この部分の説明は筆者より歌詞サイトGeniusの注釈に掲載されていた文章が優れていると思ったので、最後にこれを引用しておく。
まとめ
"Bread Song"のテーマは親しいと一方的に思っていた相手からの拒絶と親密な関係の構築の難しさへの葛藤とまとめられるだろう。ベッドのなかで落とされたくない"crumbs"として「パンのくず」と「親しい相手だからこそ見せてしまうダメな側面」のふたつを重ね合わせて表現しているのが巧みだ。深い仲を築きたいが、それがゆえにダメな部分をさらけ出してしまうことに「私」は葛藤しているのだろう。
前回に続き「一方的な想い」がテーマであるように思うが、"Concorde"は近づくことさえかなわない相手への想いが題材であった一方で、この"Bread Song"は関係値がある中で最深部に踏み入ることの難しさが題材となっているように感じられる。
いずれにしても切ない。"Chaos Space Marine"で冷たく啖呵を切るように始まった"Ants From Up There"の旅は続く2曲のうちに途端に切なく内向的な感情で埋められてしまった。果たして「私」は本当に"Home"から出ることができているのだろうか?
小さな家のミニチュアがそれをますます疑問にさせる。
次回があれば"Good Will Hunting"で会いましょう
(念のため同タイトルの映画を観てから書こうと思います)