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Black Country, New Road 歌詞解釈 "Chaos Space Marine"編

イントロダクション

 以前、Black Country, New Roadの"Ants From Up There"というアルバムに収録されている”Snow Globes”という曲の歌詞に関する考察記事を書いたのですが、①同アルバムに収録されているどの曲も歌詞が難解であること、②このアルバムは作品を通して登場するモチーフやメタファーが面白いので他の曲についてもやることで新たなつながり・アルバムを一貫したテーマが見えてくるかもしれないと思ったこと、を踏まえ1曲ずつ同じようなことをしてみようと思い立ちました。(全曲やるかはさておき…)
 ということでインスト曲のTrack 1 "Intro"を飛ばしてTrack 2 "Chaos Space Marine"から始めてみたいと思います。
 もちろん、かなり個人的な解釈なので誤りや思い込みを多く含むことが予想されます。編集可能なのがnoteのいいところなので、それらに気付いた方は優しく指摘してくださると幸いです。

歌詞

Chaos Space Marine / Black Country, New Road

And though England is mine
I must leave it all behind
The war is over
Lift the anchors set an open course
For New York state lines
I think of all that went wrong
The sailor boys line up in song
And they sing
Of London
Love they made there
Will it really last anytime?
What's that that you said to me
I'm a chaos space marine
So what? I love you
Darling will you take my metal hand? It's cold
In time you will find
These things take up space inside your mind
Where you could be keeping honest thoughts of the sea, alone

So I'm leaving this body
And I'm never coming home again
I'll bury the axe here
Between the window and the kingdom of men
I'm becoming a worm now
And I'm looking for a place to live
Here I come now

In time you will find
These things take up
In time you will find
These things take up
In time you will find
These things take you
And now - so long chumps!

I'm coming home
(Oh yeah)
Billie Eilish style
A concorde will fly
Ignore the hole I've dug again

参照:LP付属の歌詞ブックレット

WarHammer40,000

WARHAMMER 40,000の"CHAOS SPACE MARINES"ミニチュア

 この曲について考えるうえで、まずタイトルの意味が気になる。その謎を解くために、とあるテーブルゲームとそのキャラクターについて知っておく必要がある。
 そのテーブルゲーム(ミニチュアゲーム)とは"WarHammer40,000"であり、Wikipediaによると以下のようなゲームである。

ウォーハンマー40,000(WarHammer40,000、略称:40k)はゲームズワークショップから発売されたミニチュアゲームであり、第9版までが発売されている。 ウォーハンマーシリーズの一つである本作は、41千年紀という遠未来における銀河系のさまざまな惑星上で行われる局地戦を題材としている。本作にミニチュアとして登場する勢力は、人類およびその反逆者、エイリアン、モンスター、混沌(ケイオス)の僕である悪魔(ディーモン)などと大まかに分けられる。このうち、人類側の勢力は、スペースマリーンと呼ばれる分厚い装甲服に身を固めたエリート海兵隊員や、現代の地球人と変わらない生身の兵士、異端審問にいそしむ狂信者など、多岐にわたる。また、混沌の勢力には悪魔だけでなく、ケイオスマリーンと呼ばれる混沌に魅入られたスペースマリーン達も含まれる。 登場する武器はミニチュアたちはそれぞれに設定された機関銃や戦車砲といった現代でも使用される火器から、剣や斧などの白兵戦闘用武器、レーザーガン、プラズマ・ウエポン、タイタンと呼ばれる超巨大ロボットなどの仮想未来兵器、身体そのものが武器となる生体兵器、魔法のような超能力など、多種多様な武器・能力を駆使して戦う。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ウォーハンマー40,000

 タイトルである"Chaos Space Marine"とはこのミニチュアゲームに登場するキャラクターの名前だったのだ。私はこのゲームについての知識が皆無なのでなぜこのキャラクターをタイトルに選んだか考えるためにもう少し調べる必要がある。ゲーム内の"ケイオス・スペースマリーン"は以下のような設定を持つキャラであるようだ。

ケイオス・スペースマリーンこそは〈帝国〉の仇敵の中で最も唾棄される存在である。大逆者(ヘレティック・アスタルテス)の戦闘集団は、いずれもかつての英雄が堕落した姿だからだ。一万年の昔に〈ホルスの大逆〉によって〈皇帝〉への忠誠をかなぐり捨てた大逆の兵団や、〈帝国〉に正気の淵から追いやられ、今や自らの利己的な目的のみを追求するようになった叛逆の兵団に加え、暗黒神から使わされしディーモンの軍勢や地獄の魔導兵器もまた戦列に加わり、現実宇宙から素晴らしき殺戮の限りを尽くそうとしている。

https://www.warhammershop-aishndo.com/product-list/375

 ゲームの背景ストーリーを完璧に理解・解説することはあまりに多くの労力を要すると思われるが、曲の解釈には上の太字部分を理解しておけばいいように思う。

歌詞解釈

 以上を踏まえて歌詞について考えてみる。歌詞は以下のように始まる。

 "And though England is mine, I must leave it all behind. The war is over"
 "Lift the anchors set an open course for New York state lines"

 「イングランドは手に入れたが、去らないといけない。錨をあげ、ニューヨークに向かう」といったところであろうか。これはまさにChaos Space Marine的な態度であるように思える。つまり、所属を離れアナーキーな態度で旅を始める、といったところが通じるように感じられる。その後も以下のような"Home = England, London"での後悔や疑念が続く。

 "I think of all that went wrong"
 "Love they made there (England, London), will it really last anytime?"

 このような歌詞やChorusでの以下のような内容を踏まえると、この曲の大きなテーマは、"Home = England, London, body"を離れ、新たな安住の地を求めて旅を始める、ということであると考える。

 "So I'm leaving this body and I'm never coming home again"
 "I'm becoming a worm now, and I'm looking for a place to live"

 しかし面白いことに、このようにこの曲はアルバムの(Introを除いて)最初の曲として最適な、片道切符の旅の始まりを示唆する内容である一方で、この曲にはOutroで次のようにアルバムの締めくくりともとれる内容も含まれている。

 "I'm coming home"
 "Billie Eilish Style"
 "A concorde will fly"
 "Ignore the hole I've dug again"

 これらは次のような理由でアルバムの締めくくりのように感じられる。まず、"Never coming home again"という同曲中での宣言と矛盾するように、"I'm coming home"と帰還を宣言している。さらに、その他の3つの文は以下のようにアルバムの他の収録曲の一節の引用となっている。

"Billie Eilish Style":Track 5 "Good Will Hunting"で再登場する。
"A concorde will fly":Track 3 "Concorde"およびTrack 10 "Basketball Shoes"で再登場する。さらに"Concorde"はアルバムのアートワークにもなっており、アルバム中でも最重要なモチーフといえる。
"Ignore the hole I've dug again":Track 6 "Haldern"で再登場する。

 "Billie Eilish Style"についてさらに穿ちすぎな考察をしてみる。彼女のデビューアルバムである"When We All Fall Asleep, Where Do We Go?"での最終曲"goodbye"は歌詞全体がアルバム収録曲の歌詞の一節を引用する形で構成されている。
 つまり、(分かりにくいと思うが)"Billie Eilish Style"というアルバムの他の収録曲の歌詞の一節を引用するという行為そのものがBillie Eilish Styleなのだ。

まとめ

 以上のように、この曲は"Home = England, London, body"を離れ、新たな安住の地を求めてアナーキーな旅を始める"という内容のオープニングトラックであると同時に、開始点とは異なっているかもしれないが"Home"への帰還と、アルバムの他の収録曲の内容を振り返るクローザーのような役割も果たす位置付けであるように思える。("goodbye"がそうであるように。)
 あるいは要約・Abstractのような役割と捉えることもできるのかもしれない。論文などの文書において要約を全体の頭に配置するように、BC,NRはこの曲をアルバムの最初に配置した、と。

 次回以降は"Chaos Space Marine"で開始点と終着点が示された、または要約された"Ants From Up There"の旅の道中に相当するそれぞれの収録曲について考察していきたい。では。

"In time, you will find…"

シングルカット時のアートワーク

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