[訂正]2023年、日本企業は世界初"IFRSベース"のサステナ開示を迫られる!

※初めに注意
著者は公認会計士ですがサステナ開示に業務として関与してはおらず、公開情報を集めて自分の理解の整理を目的に当記事を書いています。記事への疑問・ツッコミはtwitter(@shinshint)まで。

金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について(2022年11月7日)https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221107/20221107.html
を受けてタイトルを訂正、末尾を加筆しています。

サステナビリティ開示の話、ややこしいですよね。この記事もややこしいので最初に今後の予想を書いておきます。

日本のサステナ開示動向を大胆予想

  • 2024年、世界に先駆けてIFRS S1ベースのサステナ開示が有価証券報告書に求められる(かも)

  • ただし気候変動関連の細かい開示は後回し

  • メイントピックは人的資本

あくまで私の想像にすぎませんが、以下その理由をご説明。

日本、後出しじゃんけんで先頭になっちゃうかも

2022年10月現在、IFRS財団(の中のISSB)は以下2基準の最終化を目指しています。

また並行して米国、EUともにサステナ開示ルールを24年から適用開始すべく動いています。

日本も22年6月ディスクロージャーワーキンググループ報告(DWG報告)を公表。「サステナ開示やってくぞ!」と意気込みを表明しました。ただ、具体的にXX年からXXを開示というところは未確定です。

ディスクロージャーワーキンググループ資料

ここまでであればいつもの「欧米に一歩遅れてついていくジャパン」ですが、よくよくスケジュールを見るとちょっと違う未来もあるかも、というのが私の想像。

もう一度書きますが、日本では具体的にXX年からXXを開示というところは未確定です。
逆に言えば、具体的なスケジュールや内容はこれから決まる。
そして22年中にIFRSサステナ基準S1,S2は最終化されます。
一方で欧米は既に24年からのルールを決めています。
なので最終化されたIFRS基準を反映したルールを日本が採用すると、世界に先駆けて「IFRSベース」の開示実務が出来上がるわけです。まさに後出しじゃんけんの勝利。

実際にできるかどうか・やるかどうかは置いておいて、じゃんけんの順番的に可能性はある。

IFRS基準をそのまま取り入れる?

「なるほど、じゃあIFRS S1,S2を丸ごとなるはやで取り入れていくんだね!」
「ごめん、ちょっと待って」

結論から言えば、DWG報告を見るとIFRS S1,S2をすぐにそのまま取り入れることはなさそう。
後述しますが気候変動関連(IFRS S2)についてはかなり塩対応です。
むしろ注目したいのはサステナ全般(IFRS S1)。

ただその前に、IFRSサステナ基準なんて良く知らんわという皆さんにS1,S2の位置づけを雑に説明すると、

IFRS S1「会社は重要なサステナ情報は全部しっかり説明しろな。枠組みはTCFD4要素(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標目標)で。あとこれから気候変動のS2みたいにテーマ別に基準作っていくから、そのテーマの細かい項目はそっち見てな。」
ということです。

基準案の文章で見るとド頭のここ。「サステナビリティ関連のリスク及び機会のすべて」。

IFRS S1 号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」
2.報告企業は、企業がさらされている重大な(significant)サステナビリティ関連のリスク及び機会のすべてに関して重要性がある(material)情報を開示しなければならない。(略)

IFRS S1 号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」[案]より

この「重要なサステナ情報は全部しっかり説明」というのが新しい。
米国やEUのルールや実務は先行していますが、気候変動なんかについての項目積み上げで実務を作ってきたので包括的なルールは今まで存在しなかった。それを作ろうというのがIFRS S1。

そして、DWG報告が描いている開示ルールは「全部しっかり説明」を求めている。正確にいえば気候変動など具体的なテーマを絞っていない書きぶりになっている。
つまりIFRS S1と足並みが揃っているんです。

とはいえ、それでもIFRS S1をそのまま取り入れていくわけではない。あくまでも形式面ではS1に揃えて、中身は実務対応しやすいように抜けるものは抜いていく感じ。詳しいところは後述。

そんなものではありますが、欧米に先んじてIFRS(をベースにしたそれっぽい)開示をやってのけるとしたら、今後ISSBもSECも各国企業も日本の実務に大注目。金融庁その他諸々は鼻高々でしょう。日本企業にメリットがあるかは分かりませんが。

どんな開示になりそう?

じゃあ具体的にどんな開示ルールになりそうか?
まず現状のステータスを抑えると、22年6月にDWG報告が出て、これから対応する開示府令の公布が行われるステータスです。

大和証券レポートより


そしてDWG報告の内容をまとめると、

  • 有報にサステナ情報記載欄を新設。TCFD&IFRSと同じ4要素の枠組み

  • 4要素のうち、ガバナンス/リスク管理は開示必須

  • 対象はサステナ全般(気候関連とかテーマ絞らず何でも)

  • 人的資本の戦略/指標目標については具体的な開示項目を提案

  • 女性管理職比率など多様性3指標は「従業員の状況欄」に開示追加

大和証券レポートより


ここで個人的な注目ポイントは3つ。

  1. 対象がサステナ全般って広すぎ

  2. 気候変動どこいった?

  3. 政府がやりたいのは人的資本


1.対象がサステナ全般って広すぎ

さっき出てきた「重要なサステナ情報は全部しっかり説明」という話です。

とはいえ、いきなり「全部」を求められても実務対応は難しい。
そもそも「サステナビリティ情報」って何?サステナ情報の重要性って財務情報の重要性と同じなの?

実はIFRS S1にすら「サステナビリティ」とか「重要性」の定義は出てきません。どうすりゃいいんだということで、IFRS S1に対して経団連やSSBJが出したコメントでも修正を求めています。

「サステナビリティ」の明確な定義を行うべきである。BC30・31において、「サステナビリティ」の概念についての一定の説明があるが、これのみでは、「サステナビリティ」の範囲は不明瞭である。

「重大な(significant)」は、企業が開示するサステナビリティ関連のリスク及び機会の範囲を規定する、重要な用語であるにもかかわらず、定義が行われていない。要求事項の解釈にばらつきが生じると考えられることから、「重大な(significant)」の明確な定義が必要である。

経団連コメント

なので、おそらく・きっと・多分、S1最終案では定義がもうちょっと明確になってくる。それを踏まえて日本でもルールを作っていきましょう、という流れがDWG報告にも書かれています。

その上で、国際的な比較可能性の担保等の観点から、SSBJ において、ISSB が策定する基準を踏まえ、速やかに具体的開示内容を検討すべきである。
その後、当ワーキング・グループにおいて、当該具体的開示内容を有価証券報告書の「記載欄」へ追加する検討を行うことが考えられる。

DWG報告


2.気候変動どこいった?

上述の米国やEUのルールでは気候関連は24年から細かい開示が必要になります。でもDWG報告では「重要なら開示」との方向性です。そもそもサステナビリティ全般について「重要なものを開示」という建付なので、気候関連を特別扱いしていません。

この塩対応っぷりは金融庁謹製のDWG報告概要資料からも分かります。

DWG報告の概要

お気づきだろうか?
「気候」の文字がどこにもないことに・・・

IFRS S2(気候関連)を受けて進めるSSBJの基準開発についても「迅速に検討に取り掛かることが期待される」って何だか急かしてそうな~そうでもなさそうな~書きっぷりだったり。

そこで、まずは、基準策定に向けた議論の途上にある ISSB の気候関連開示基準の策定に積極的に参画し、日本の意見が取り込まれた国際基準の実現を目指すことが望ましい。その後、本年中に最終化予定の ISSB の気候関連開示基準を踏まえ、SSBJ において 迅速に具体的開示内容の検討に取り掛かることが期待される。

DWG報告

なので、あんまり政府は気候変動開示に力入れてないのかなと感じます。今更欧米の動きを巻き返すのは無理だしね。

3.政府がやりたいのは人的資本

気候変動に力入ってないなら、じゃあ何開示すんの?
各社が好き勝手なテーマをバラバラに書くだけ?

いえいえ、サステナ開示で政府にはちゃんと狙いがあります(多分)
それが人的資本開示。
人材版伊藤レポート2.0や人的資本開示指針など最近の政府の動きに一致してますね。

その姿勢が伺えるのが先ほども引用した図の人的資本のところ。
4要素のうち戦略・指標目標の項目として人材育成方針やその指標の開示を求めています。

大和証券レポートより(再掲)

でもこの建付、ちょっと変な気がしませんか?
そもそもサステナ全般について戦略・指標目標は「重要性があれば開示」としています。なのに人的資本だけは今の段階から具体的項目が決まっている。

一方で4要素残りの2つであるガバナンス・リスク管理については、サステナ全般として開示必須。
となると、人的資本についてはいち早く4つの要素をカバーした開示になるわけです。

またもう1つ気になるのが、女性管理職比率など多様性3指標はサステナ記載欄ではなく既存の「従業員の状況欄」で開示すること。
せっかく包括的な記載欄を作ろうとしてるのになぜでしょうかね?

邪推すれば、サステナ記載欄をすぐに追加するのは無理なんで、多様性指標だけは早期(2023年)に開示開始とするためでは?
とにかく人的資本開示の実務を早急に広げたい!そんな姿勢が見えてくる。

こうした力の入れっぷりですが、実はDWGの事務局資料からも透けて見えます。

これは22年3月開催時の資料なのですが、「人的資本・多様性」開示について
「ISSBの基準策定作業を先取りして取組を進める」
との事務局の認識が示されています。国際的なルール設定競争で先んじるとはなかなか日本政府らしからぬ姿勢です。

DWG第7回事務局説明資料

結局ここに示されていた内容はDWG報告に盛り込まれましたので、政府としては現時点で日本は一歩リードと考えているはず。
※議事録を見ると委員から「先取り」という言葉にツッコミされてたり、同じ事務局資料に米英の先行する動きが例示されてたりはしますが。

以上、諸々の観点から人的資本こそが政府が日本企業に求める開示なんじゃないかと推理したわけでした。

で、今後の展開は?

前回18年DWG報告の後の動きとしては、同じ18年度中に改正開示府令が出され、項目によって19年or20年から有報に適用開始となりました。

となると、今回22年DWG報告についても似たような展開ではないか。これも大胆に想像を交えてまとめるとこんな感じ。

大和証券レポートに一部筆者加工

既述の通り、「従業員の状況欄」への多様性項目の追加は23年からすぐ実施でしょう。

一方で「サステナ記載欄」の新設には以下のプロセスが必要です。

  1. IFRS S1,S2最終化を待つ

  2. SSBJがS1を元に基準作成

  3. DWGで2.の基準などなど検討

  4. 開示府令を改正

    ※更にDWG報告は並行して「記述情報の開示に関する原則」についてサステナ開示を視野に含めた形に改訂するよう求めている

これは23年適用開始には絶対間に合わない。でも頑張って急いだら奇跡的に24年に間に合うかも、といった感じでしょうか。
(・・・うーん、やっぱ25年かもね。。)

まとめ

まあここまで書いてきましたが、所詮は勝手な想像というわけで最初の大胆予想を再掲します。

  • 2024年、世界に先駆けてIFRS S1ベースのサステナ開示が有価証券報告書に求められる(かも)

  • ただし気候変動関連の細かい開示は後回し

  • 開示のメイントピックは人的資本

今後の実務に役立つ結論としては、少なくとも人的資本開示だけは政府がマジなので今のうちに動き始めましょう、ということですね!

(22年11月9日)加筆

なんて記事を書いていましたが、11月7日に金融庁が
「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表についてhttps://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221107/20221107.html
を公表しました。

すみません、なんとサステナビリティ記載欄も含めて23年適用開始ですって!各社担当者のライフ持続可能性がヤバい!

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