“無冠の最強ライブバンド” Base Ball Bear、「3」回目の武道館公演を観た
※敬称略で記載しています。
2022年11月10日(木) 快晴
Base Ball Bear 20th Anniversary「(This Is The)Base Ball Bear part.3」日本武道館公演
11月11日が結成記念日であるBase Ball Bearの、20周年イヤー最後の1日。“晴れバンド”として名高いベボベを祝福するかのような清々しい秋晴れ、10年ぶり・キャリア3度目となる日本武道館公演。
ステージ上にはバンドのトレードマークとなっている「電波塔」を模した巨大なセット。XTC「Making Plans for Nigel」と観客の拍手をBGMにメンバーが登場するのも、そのまま明かりのないステージ上で3人がひそひそ話をしてからライブが始まるのも、紛れもなくいつも通りの光景で、だけどそこにいる誰もが今日は特別な夜だとわかっていた。
オープニング・ナンバーは「17才」。ギター・ドラム・ベースが同時に全音符を鳴らす特徴的なイントロが静寂を突き破る瞬間の、この瑞々しさとメンバーの晴れやかな表情は、特殊な演出なんてなくても私たちを何よりワクワクさせてくれる。小出の挨拶「どうもBase Ball Bearです」の声音からは少しだけ緊張も感じられたが、武道館で聞く馴染みの挨拶はやっぱり格別だった。
続く「DIARY KEY」は最新アルバム収録の曲。それは「17才」から実に10年以上経ってリリースされた曲ということでもあり、たった2曲でもうベボベの長いキャリアと逞しく鍛えられた演奏力を見せつけられたのである。
ライブの定番曲でもある「LOVE MATHEMATICS」では、“キラキラ”というより“ギラギラ”と形容するほうがしっくりくる鮮やかなレーザー光線が客席に伸びる。派手な演出は大きな会場の醍醐味でもあるが、特効に負けない攻撃的な演奏に観客の気持ちがどんどん盛り上がっていくのを肌で感じた。
この日最初のMCは小出の「武道館を感謝で埋め尽くしたい」→「今、口先だけで喋ってしまった」というまさかの「感謝キャンセル」で始まった。でもこのMCの脱力感もベボベのかけがえのない魅力。
少し会場の空気が緩んだタイミングで、間髪入れずにメジャーデビュー曲「GIRL FRIEND」。リリース時からメンバーが1人減っているということもあり、確実に当時のサウンドとは異なるものになっているのだが、4人時代より今のほうがこの曲の持つ尊い青臭さが強調されているような気すらする。
続けて「LOVE LETTER FROM HEART BEAT」。ちょっと風変わりなギターリフやサビに差し掛かる前のキメの心地よさなど、実に“ベボベらしさ”が詰まっている曲である。この曲は1度目の武道館公演でも演奏している少し懐かしい曲でもあるのだけど、いつ何度聞いても新しく我々の心に刺さる名曲だ。
「short hair」のイントロはかなり削ぎ落とされたシンプルなエイトビートだけど、この世のイントロの中で最も胸がおどるイントロのひとつだと思う。Cメロの
という歌詞は、形を変えながらも活動を続けてきたベボベと、彼らを長く追い続けてきたファン(私個人の体感として、ベボベは他のアーティストと比べても長い間追いかけているファンが多いような気がしている)とも重なる部分があり、この日はいつにも増して心を揺さぶられた。
さらに「初恋」へとラブソングの流れが続いていく。アニメ映画の主題歌だから、ベボベを好きになるきっかけがこの曲だという人も多いかもしれない。2度目の武道館公演の数ヶ月後に発売されているから、その頃にファンになって10年経ち、武道館に立つベボベをやっと観られたという人もたくさんいるのだろう。
2回目のMCでは小出から「武道館は退館時間が決まっているので今日のMCは短めにする」とのお触れが。関根の「平常心を保つつもりで入ったスタバで、全身にグッズを身につけたファンが“飛行機で武道館に行きます”とツイートしているのを見て、感極まり泣いてしまった」というエピソードを聞き、ファンのこちらが感極ってしまう。堀之内は「もう感極まってる」と前置きして笑いを誘ったのち、「感情が昂るのはどんなステージの時も一緒。ということは、感極まるのが自分にとっての平常運転だと思う」と語った。小出が「来てくれるあなたたちは僕たちの宝です」と締めくくる頃には「短め」とは到底言えないほどの時間が経過していたけど、たっぷり時間を使ってそれぞれの言葉で気持ちを伝えてくれたことが本当に嬉しかった。
続く「ポラリス」は、3人のスリーピースバンドとしての決意をボーカルリレー形式で歌った曲。
と歌い出しから「3」が並ぶ、遊び心たっぷりの歌詞を、ドラムを一段高い位置に設置した堀之内・センターを開けて左右対象に並ぶ小出・関根が三角形の並びで歌唱する。「電波塔」もよく見たら三角形をしている。3度目の武道館公演。このあたりでおそらく、私を含めて多くの観客が「3」にこだわったライブであることに気づいたと思う。
4人時代のベボベはどちらかといえば「小出がフロントマンとしてメンバーを引っ張っていくバンド」だった。リーダーがカリスマ性で導くタイプのバンドは決して少なくないし、事実としてベボベもそうやってたくさんの名曲を生み出してきた。それに比べると、3人になってからのベボベは「メンバーみんなが支えあって作るバンド」であるような印象を受ける。
堀之内のボーカルパートで小出・関根がドラム台の段差に腰かけて微笑みながら演奏し、そして堀之内が「武道館!」と叫んだとき、確実に意識して育ててきたであろう「スリーピースバンドとしてのBase Ball Bear」の、ひとつの完成形を見たような気がした。奇しくも「ポラリス」リリースは3年前のことである。
照明が白くステージを包んで、「ホワイトワイライト」へ。
変化や別れを想起させる曲をここに持ってきたのは、きっとベボベにとって「変化」は必然で、且つ成長とセットになっているからなのだろう。落ち着いた曲調に反して、3人の瞳に炎が灯っているように感じた。
打って変わって「海へ」は最新アルバム収録のギターロック。真っ直ぐで若々しさすら感じる曲だが、今のベボベだから鳴らせる円熟味も同時に味わうことができる。青いライトがステージからアリーナに降り注いで、跳ねる人々がさながら海のようにうねっていた。
観客が待っていたとばかりに揃って手を挙げたのは「changes」のイントロ。過去2回の武道館でも演奏されているベボベの代表曲だ。そしてこの曲でも小出は変化への肯定を高らかに歌い上げる。
こう振り返ってみると、小出はずいぶん前から「変化」を歌詞に綴ってきているように思う。どんな風に変化していくかは、そのとき直面してみないとわからない。だけどどんな風に変化していったとしても、思っても見なかった新しい世界が私たちを待っている。優れた創作者が時にする“予言”のようなものなのか、はたまた小出の考え方の根幹に根付いているものなのかは本人のみぞ知るところだが、我々がこれまでもこれからもベボベの音楽に支えられて生活を続けていくのは間違いなく「新現実」だ。
小出はゆっくりと語った。「大ヒット曲がなく、賞を貰ったことがない“無冠のバンド”である」「でも、“20年やってきた”っていう箔はついてきたんじゃないかな。“皆勤賞”は持っている」「武道館3回目の挑戦権を得ることができたのは、20年間追いかけてくださったみなさんのおかげだと本当に思っています。ありがとうございます」。初めのMCでは「口先だけで喋ってしまった」と言っていたけれど、ここで小出が話したのは心からの感謝の言葉。
この日の動員は過去2回と同じくらいの人数だという。かなり明け透けなエピソードに少し笑ってしまったが、なるほどそれはすごい。20代の絶賛売り出し中のベボベが冬休みに開催していた2回の武道館公演と、20周年のベテラン(もう中堅を脱したんじゃないかな)バンドが平日に開催した今回の武道館。先にも「長く追いかけている人が多い」とは書いたけれど、自力じゃライブに行けない歳だった私も今日は有給で来ているのだから、“その層”がどれほど多いのかは想像に難くない。
「ファンをふるいにかける活動ばかりしてきた」「みなさんの中に“4人時代のBase Ball Bearがいる”っていう人もたくさんいると思う」「それを僕らは否定するつもりもなくて、その4人時代の蓄積の上に僕らがいる」「でも、武道館に20年目に立つことができたのは、この3人で頑張ったからなんですよ」
私はこのMCでの小出の言葉と、頷いた関根・堀之内の清々しい顔をずっと忘れないと思う。「4人だったけど、もう3人であること」の強調。それは“ふるいにかけられた”側のファンからしたらひどく冷たい言葉だったかもしれないけれど、4人から3人になる瞬間を経て“ふるいに残った”私からしたら涎が出るほど嬉しかったのだ。
なおも小出は凛とした顔で続ける。
「21年目以降も、よろしくお願いします」
「そんなキッズな気持ちで作りました。「海になりたい part.3」という曲です」
この日会場で販売された最新シングルの表題曲は、泣けるほどに直球のギターロック。3人が試行錯誤を経て辿り着いた、今この瞬間においてのBase Ball Bearの最高傑作である。積み上げてきた歴史に裏打ちされたパワーは眩しいほどに鮮烈で、美しかった。
続けて演奏した「すべては君のせいで」は3人体制になって最初に発表された曲。スリーピースとしてのベボベの幕開けを飾ったこの曲があったから「海になりたい part.3」に繋がったのだ、という物語にも彩られ、3人のグルーヴはますます深みを増すばかりだ。MVの撮影地が武道館に程近い靖国通りだというのも、スリーピースのベボベが武道館に立つのは運命だったことを確信させる材料となる。
感傷には浸らせないぜ、とでも言わんばかりに「「それって、for 誰?」part.1」のシニカルな歌詞が冴えわたり、勢いに乗ったまま「十字架 You and I」へと続く。
かつてこのファンキーなライブチューンは脱退したギタリストが間奏で“踊る”のが通例だったが、3人になったベボベは楽器だけでひたすら“魅せる”。特に小出のギターソロは鬼気迫るものがあり、もともとギター2本で弾いていたことを忘れるほどの完成されたパフォーマンスを見せてくれた。
突然の小出のラップで始まるのは「The Cut」。本来であれば客演・RHYMESTERのラッパーが蹴る2人分のバース・ボーカル・ギター(元々は2本)をすべて小出が担うライブバージョンは、ファンにとってはもはやお馴染み。小出のすごいところは、RHYMESTERの真似ではなく「小出のフロウ」でラップができる巧みさだと思う。もちろんそれを可能にしているのは、ソリッド且つグルーヴィーなリズム隊2人の技術。
数々のアーティストとコラボ楽曲を発表してきたベボベだから、ファンの間ではゲスト参加が予想されていたりしたが、この日は「3人」で演ってくれるのだということがここまでくるとハッキリわかる。武道館公演の開催を発表した日比谷野音公演でたくさんのゲストを呼んでいたのも、武道館では徹底してギター・ドラム・ベースのミニマムで正統派な3人編成だけでやり切ることを決めていたからかもしれない。
観客のボルテージをさらに引き上げる、力強いベースのイントロで始まった「Stairway Generation」。ライブも終盤となり、こんなに楽しいのに心のどこかに寂しさが忍び寄ってくる。3人体制になったばかりのとき、スリーピースで演奏するのは難しいかもな、と思ったことをふと思い出し、時を経てライブの定番曲に返り咲いたこの曲に思い切り拳を振り上げた。
拍手が鳴り止むと、切なげな小出のギターから「ドラマチック」の演奏がスタート。熱気に包まれた場内の空気が一瞬ぴりっとしたのは、観客みんなが「ラストの曲だ」と直感したからだろう。
あの風景も今は思い出で、この風景もまた思い出に変わっていく。変化を臆しないベボベを追いかけていると、“ドラマチック”極まりないドキュメンタリーをたびたび目撃することになる。それはさながら一度きりのドラマで、もちろん今日この日もその1ページとして刻まれてゆく。
1度目の武道館ではオープニングテーマだった曲を、この日のエンディングテーマにさせるわけにはいかない。本編が終了するとアンコールを求める手拍子が暗闇に広がった。
ステージが明転した瞬間、観客の目が明るさに慣れるのも待たずに「風来」の歌い出しが鳴り出す。
ライブツアーを想起させる歌詞のこの曲は、コロナ感染拡大直前にリリースされたアルバム「C3」に収録されたことにより、ライブでの演奏回数が極端に少ない曲のうちのひとつだ。
演奏が終わるとモニターに来年からのツアーが発表され、「次の旅」の始まりが宣言された。また全国各地でベボベが演奏する。この日は叶わなかった客席からの声援も、近い将来また届けられる日が来るのかもしれない。
喜びに満ち溢れた空気の中、小出から「武道館の退館時間オーバーにつき、延滞料金発生が確定」の旨が伝えられ、開き直って繰り広げられた“いつものMC”の一幕でこんなやりとりがあった。
小出「(武道館公演)次は10年後……と言わず、5年後、3年後なり」
小出「みなさん、そしてこれからも10年後、20年後、30年後、50年後も、会いましょう。解散は……」
堀之内「しません!絶対に!」
小出はこの日の少し前にもすでにツイッターで「解散しない宣言」をしていたので、このやりとりは事実上のダメ押し。
ベボベが変化してきたのと同じように観客である我々も当然変化していくわけだから、私は簡単に「一生好き」とか「一生応援する」とか言わないようにしているのだけど、こんな彼らを前にしたら、やっぱり「Base Ball Bearと、彼らの音楽とずっと一緒に生きていきたい」と強く思った。
堀之内の雄叫びを合図にインディーズデビュー作である「夕方ジェネレーション」が始まる。このままブチ上げて、大団円で終わり。それがベボベの鉄板だ。
けれど、この日の本当のラストに選ばれたのは「ドライブ」。
「生きている音」は生活に纏わる音かもしれないし、心音かもしれないし、聴く人それぞれの捉え方があると思うけど、このときばかりは武道館で彼ら3人の鳴らす音が「生きている音」そのものだった。
演奏中、タイムオーバーをとうに超えた武道館の場内が、客席を含めてすべてパッと明るくなった。ベボベの3人も観客の表情も全部見えてしまう、色気のない蛍光灯の光。
その光景が、なんだか文化祭の日の体育館のようだと思った。アリーナに等間隔に並べられた青緑色の椅子も、立っても座っても自由に楽しんでいいスタンド席も。
そういえば、Base Ball Bearは高校の文化祭で演奏するために始まったのだった。
何度もファンのことを”宝”だと口にしてくれた小出が、「愛しているよ」と歌って3度目の武道館公演を締めくくる。
ミドルテンポの「生」の讃歌が、ライブという非日常から日常にエスコートしてくれるような気がした。
ベボベはここ数年のツーマンライブ・ツアーに「I HUB YOU」というタイトルを付けている。
この日武道館の入り口を見渡すと、先輩から後輩まで幅広いバンドや関係者から多くの祝い花が贈られていた。開場が始まってからのBGMは、サカナクション・チャットモンチー・赤い公園など、ベボベが苦楽をともにしてきた盟友たちの音楽だった。
ベボベの最新アルバムに客演参加したvalkneeはこの日、同じく過去にベボベとのコラボ楽曲を生み出した花澤香菜とのツーショットをツイッターに投稿している(先日のベボベ日比谷野音公演を機に仲良くなったことを彼女たちは公言している)。
「I HUB YOU」ツアーで共演を果たしたKANA-BOONの谷口はこの日の夜、「現メンバー4人」のKANA-BOONでの武道館公演への意欲を覗かせた。KANA-BOONもまた、メンバーの脱退や加入を経て活動を続けてきたバンドである。
「HUB」が表すのは、アーティストとベボベの繋がりだけではない。私自身、ベボベが好きだということで縁を繋ぐことができた全国各地の友人たちがいる。ベボベがHUBとなり、今の同居人と知り合うことができた。彼らのライブが、メロディが、リズムが、歌詞が、私たちを繋いでいる。それが目で見てハッキリとわかる、20年の歴史の決定的な証拠となる一夜だった。
バンド史上最大動員(1位タイ)の観客たちひとりひとりに人生があって、明日からはまた、ベボベの音楽が寄り添い、支えてくれる生活が続いていく。
Base Ball Bearは止まらない。ときに変化しながら、また新しい旅が始まる。
Base Ball Bear、略称は「ベボベ」もしくは「BBB」。
小出がサインを書くときにも用いる「BBB」という表記には、3が3つ並んでいる。
セットリスト
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